超文明日本

点P

文字の大きさ
上 下
13 / 23

モルゲンの野望

しおりを挟む
「ああもう!だから飲み過ぎないようにって言ったのに!」

 朝早くから3人は慌てていた。朝の10時から会議が始まるというのに今はもう9時55分。あと5分しかない。池田が寝過ごしたのだ。

「いやまあ、ほら、あれだ……」

「言い訳考えてる暇あったらさっさとスーツに着替えて!」

 「はあ……起こしてくれるのが優希ちゃんだったら良かったのに……そもそもお前なんだよその口調……」

 皆さん勘違いしないで欲しい。ギャルゲのツンデレヒロインみたいな口調で喋ってるのはもう還暦近い外務大臣のおっさんである。

 二日酔いと来たこともないような異国に来たという事でテンションが上がってるのだ。何故かと言われても分からないからスルーしてもらいたい。

 ちなみに三上はもう会場へ行っている。元々酒があまり飲めないためそこまで酔ってないのと早起きが習慣であることが理由だ。そして遅刻するかもしれないと他の国の代表に伝えている。

「くそぅ、間に合う気がしねぇ!」

 二人は猛ダッシュで会場へ向かう。ちなみに池田のチャックは開いていた。

――――――――――

「はぁ……はぁ……ギリギリだな……」

 息を切らし、駆け込んできた片方チャックが開いている二人を見て、場がザワついている。

「本当にちゃんとしてもらえませんか?ここは一応国際会議の場なんですよ。あとチャック開いてます。」

「えマジで?うわ!本当だ!……まあそんなのどうだっていいんだよ。なんか空気がピリついてないか?俺らのせいか?」

 何か空気がおかしい。各国代表がいがみ合ってるのだ。

「あー、まあちょっと……色々あるみたいで……ジーラント、オンスム、ハンオーとそれ以外の国で対立してるみたいで……」

 この世界には中枢同盟と諸国連合という2つの同盟が存在し、構成国は以下のようになる。

中枢同盟
ジーラント共和国
オンスム帝国
ハンオー帝国
ブルグルト王国

諸国連合
アカメル自由共和国
ブティーリ連合王国
聖フリエンス帝国
ソヴィタ連邦
大ヤープン帝国
ラマニアン王国
ベルガーロ王国
ゲルシア王国
ポルガリト共和国
ユーガリサビオ王国
パーレント共和国

 この2つの陣営で対立している。アカメルとソヴィタは本来対立しているが、中枢同盟に対抗するため一時的に協力している。王政や帝政ばかりなのは政治思想が遅れているということを意味する。

 上記の国々は、だいたい近世から冷戦初期頃までと、技術力に差はあるが、どこもそこそこな技術力がある。

 しかし、地球とは兵器の運用思想や政治思想が大きく異なる。そのため、地球が前述の時代頃に開発していた兵器を開発出来ていなかったり、民主化している国が少なかったりする。

「何と言われようが我々はパーレントに割譲された領土は取り戻す!」

 ハイトラーが大声で怒鳴り散らしている。

「武力を使うというのか!?もし武力を使うようなことがあれば我々も容赦はしない!!」

 チェートルも同じく怒鳴り散らしている。

「おお……だいぶ場が荒れてるな……」

 いい歳した大人達が罵り合っている姿に池田は若干引いている。

「完全に収拾つかなくなってますね……」

 この世界の敵対してる国同士の外交に礼儀なんてものは存在しない。敵対していれば「騙し騙され罵り合い」が基本である。

「なんでまあこんな幼稚な国ばかりなんだ……もう帰っていいか?」

「ダメです。」

 はっきり言ってこの場に日本が居る意味はない。勝手に列強で争っていればいいのだ。日本が巻き込まれないようにするには池田の選択が正しいと言える。

「ああ……こんな外交があってたまるか……」

 池田は深いため息をつきながら職務放棄しようとする。

「そもそもですね、今日の目的はモルゲン帝国なんですよ。我々だって侵攻される恐れがあるんですから話し合わないと!」

 そう、本来の会議内容はモルゲン帝国の侵攻に関してである。それを話さずして日本も帰る訳にはいかない。

 3人は何とか各国首脳を静めようとする。すると、勢いよく扉が開かれ、

「報告!モルゲン帝国が宣戦布告!対象国は……全世界各国です!」

 フリエンスの伝令兵がそう伝える。

「な!」

「モルゲンが!?」

「また戦争かよ……」

 3人は項垂れる。ユチーカの戦後処理すらろくに終わってないのにまた戦争が起こるのだ。再び軍人達の命が危険に晒される。ストレスが重くのしかかる。 しかし各国の反応はそこまで大きくなく、

「ふん、蛮国が小生意気に……」

「たかがモルゲン如きが列強様に勝てるとでも思っているのか!」

「奴らなど簡単に捻り潰してくれるわ!」

などと、かなりモルゲンを見下して、慢心していた。

「慢心が命取りになると知らないのか?」

 池田は他国の反応を見て呆れていた。技術差があっても勝敗は分からない。かつて圧倒的技術差があった薩摩藩とイギリスの薩英戦争では、薩摩に運が味方してイギリス海軍に打撃を与え、引き分けまで持ち込んだ。

 戦争は、運、物量、作戦によっては技術差をも埋めてしまう。だから慢心は絶対にしてはならないのである。

「とりあえず、今回はこれでお開きにしましょう。各国のご健闘を祈ります。」

 さすがにこの事態の中会議は継続できないということで、列強会議は中止となった。池田達も急いで日本へ帰国する。

――――――――――

モルゲン帝国帝都アラントルバ

「皇帝陛下、確認できる世界の国々に対し宣戦布告が完了致しました。」

「ご苦労。これで世界は我々ハーン一族の物だ!ふはははは!!」

 周辺国の技術力も調べず、勢いで宣戦布告し、まだ勝利してもいないのに領有を宣言して高笑いしているのはモルゲン皇帝のギンギース・ハーンだ。

 モルゲンは無駄に人口だけは多く、1億人程の人口がいた。軍人も3000万人はいる。

「作戦に関しては、3000万人の内2500万人を西方に、残りの200万人を南方に、300万人を東方へ向ける予定です。

 大半の国は西方に位置しているため、そちらに重点的に軍を配備致しました。南方はそれらの国の植民地で弱小国ばかりなので少数、東方は国が少なく、小さな大陸の国や小さな島国しかなく、こちらも弱小国ばかりなので少数を配備しています。」

「なるほど。世界最強の騎馬隊と我が国が開発した火薬を使用した最新鋭兵器を用いて一気に攻め入れ!」

――――――――――

日本首相官邸

「さてどうしたものか……」

 日本へ帰国した池田は即座に会見を開き、列強について解説したあと、モルゲンから宣戦布告されたことを報告した。多くの国民は再び戦争が起こることに動揺していた。

「なんでこんな戦争に巻き込まれるのかね……フリエンスではろくな目に遭わなかったし……これじゃあ衆議院を解散できないじゃないか。」

 衆議院はそろそろ任期が近づいており、池田率いる保守党の支持率は戦勝によりうなぎ登りしていた。だから近々解散する予定だったのだが、戦争中に選挙をやる訳にはいかないので延期することにした。

「さて、今回派遣する戦力を決めましょう。」

 三上が話を進める。

「統幕長によると、モルゲンは物量がえげつないそうです。おそらく西方へ多くが配備されると考えられますが、東方もかなりの数配備されると考えられます。」

「なるほど、敵軍の特色とかわかるか?」

 池田が質問する。

「はい。モルゲン陸軍は多くが騎馬隊だそうです。かなり練度が高いそうで、列強にも劣らない程だそうです。まあ銃や戦車でアウトレンジから攻撃すれば問題ないかと。

 海軍はほぼ全ての艦が蒸気機関船で、鉄の装甲が施されているそうです。また、どうやら砲弾は炸薬が入っていて、形状も現代のに近いものになっているそうです。おそらく徹甲弾と榴弾の概念も確立されていると考えられます。

 空軍は高い練度を誇る飛竜隊が主力で陸軍と連携した機動戦を得意としているそうです。また、飛竜は改良されているようで、ユチーカのものよりも遥かに高性能だそうです。」

 三上は周辺国等から集めた情報を話す。

「なるほど……ユチーカに比べてかなり技術が進んでいるし物量もある……我々は多分大丈夫だろうが8大列強達は大丈夫だろうか……」

「他国を心配する余裕はありません。我が国だって今度こそは死者が出るかもしれません。慢心は絶対に禁物です。」

 言われなくても慢心なんてしないだろう。前回のことがあるから。

「それで派遣戦力なんですが、敵はかなりの数回してくると考えられますので、本土防衛は最小限にし、全国から装甲車両部隊をかき集め、とにかく物量と火力で押します。

 支援で爆撃も行います。空母から戦闘機を飛ばしたり、艦対空ミサイルで敵の空軍を撃滅します。

 本土近海の防衛は哨戒機と潜水艦数隻、フリゲート、ミサイル艇に任せ、駆逐艦、空母は全てヤレンシア大陸近海へ派遣します。」

「なるほど…かなりの数だな。よし、閣議はこれにて終了する。」

「別に国土離れてるし、放っておけばいいのに……」

 誰かがそう呟いた。

――――――――――

横須賀基地

 出国行事を行うために派遣部隊が集まっていた。同時に、各艦隊司令長官、師団長に作戦が伝えられた。

「今回の戦争はユチーカの時と違い、相手もかなりの技術力と物量を有している。

 諸君らには、まず自分の命を第一に行動してもらいたい。そして、我らの偉大なる祖国、日本国を守ってもらいたい。」

 池田が激励の演説を行う。式典が終わると次々に出港していく。

 大艦隊を編成して、太平洋を南下し、日本海へと向かう。この場には日本海軍艦艇約90隻、元アメリカ海軍艦艇約20隻の合計約110隻の大艦隊となっている。

 陸軍は、海軍の輸送艦だけでは足りず、アメリカの揚陸艦も使っている。

 100隻を越える大艦隊は壮観だ。どの国もこの艦隊を見れば降伏するに違いない。「勝てる気がしない」というやつだ。

 派遣しすぎなのでは、と思うかもしれない。しかし、これは日本がアメリカから教わったこと、「やる時は徹底的にやれ。二度と立ち直れないくらいに叩き潰せ。」を基に派遣したものだ。それでも派遣しすぎは否めないが。

――――――――――

ソマル大陸沖ランパール海モルゲン侵攻艦隊旗艦大和

「司令、本艦前方300マイルに無数の敵影を確認、敵飛竜です。」

「本当か?他国のものでは無いか?」

 そう問った第1艦隊司令長官の山本はじめ海軍大将は現在この大艦隊の司令長官でもある。

「はい、ターリアに確認しましたが違うとのことです。」

 「そうか……遂に始まるな……全艦へ通達!対空戦闘用意!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

処理中です...