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ユチーカ滅亡

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閣僚会議

「総理!ユチーカがターリアを通じて講和交渉がしたいと伝達してきました!」

「何っ!?本当か!」

 開戦以降ずっとこの部屋に籠りっぱなしだった閣僚達はようやく講和すると伝達され、喜んでいた。

「やっとこの部屋から解放されるな……交渉役は松岡でいいな。」

 転移直後にターリアへ派遣された松岡はその後在ターリア日本大使に任命されていた。

 政府から命令を受けた松岡はV-22オスプレイでユチーカ帝都ケーンペへ向かった。

――――――――――

帝都ケーンペ

「どうも、在ターリア日本大使の松岡です。このように講和交渉の場を設けていただき誠にありがとうございます。」

 松岡が手を差し出す。それに応えるように、皇帝マウンタも手を差し出す。この行為の意味をマウンタは理解してなかったが。この世界に握手をする習慣はない。

「いえいえこちらこそ講和に応じていただきありがとうございます。」

 笑顔をしているように見えるが目が笑っていない。

「どうぞおかけ下さい。」

 テーブルを挟んで二人が向き合う。まず、松岡が口を開く。

「我々の求める講和条件ですが、賠償金約660億円、ユチーカの皇帝による独裁体制の廃止、民主化と議会設置、憲法制定、日本海軍基地の設置、日本空軍基地の設置、民主化完了まで日本陸軍駐留です。」

「660億円……それはこっちの価格だと幾らだ?」

「66京フリーツです。」

「な!?我々の国家予算より遥かに多いではないか……というかそんなものではないぞ!支払える訳ない!」

 ユチーカの通貨単位は上からフリーツ、ヤルシ、ルーレインという。ユチーカの国家予算は約100万フリーツだ。つまり660,000,000,000(6600億)年分の国家予算を突きつけられたのだ。

 日本だと
198,000,000,000,000,000,000,000,000(198𥝱じょ)円突きつけられているようなものだ。

「まあこれはあくまで損耗分だけなんですが。それにこれは目安ですから、このあとの交し「はっはっはっはっは!!」

 松岡の話を遮るようにしてマウンタが高笑いし始める。

「まあそんな事などどうでもいい。やれ!」

「何をする!?」

 いきなりドアが開かれ、兵士が入ってくる。そして兵士が抵抗する松岡を紐で縛る。

「一体何のつもりだ!?」

「おや分からないのかね?キミは人質なのだよ。解放の条件は我々が有利に講和する事だ。
 具体的には、ユチーカからの日本軍の撤退、ターリアとの同盟破棄、日本国国王が私に対して忠誠を誓う、日本国の属国化、日本国の全資産を我が国に譲渡する事だ。これを認めればキミを解放してやろう。」

 嘘である。この皇帝、端から解放する気はない。

 日本国の資産は1京円を超えているため、ユチーカのものになれば確実に財政破綻する。もちろんマウンタはそんなことは知らない。

「日本国、国王……だと?」

 松岡は何よりも天皇陛下が国王に位を下げられ、侮辱された事に怒り震えていた。

「こっちの世界ではそんなことされないと思っていたが…貴様らは本当に野蛮で、愚かな民族だな!」

「何とでも言うが良い。どれだけ喚こうが、この大陸も日本も全て私のものだ。はーっはっはっはっは!」

 マウンタの高笑いが部屋中に響き渡る。

――――――――――

「総理!た、大変です!松岡が人質にされたそうです!!」

「何ィ!?」

 ユチーカはターリアを通して、松岡を人質にした事、解放の条件を伝えた。

「クソッ!なんて卑怯な奴らだ!こいつらにプライドは無いのか!」

 閣僚達はユチーカを非難する。ユチーカは変なところでプライドが高い。

「まずは松岡をどうやって救助するかだ!安田!何か案を出せ!」

 池田は統合幕僚長の安田慎也しんや陸軍大将に話を振る。

「そうですねぇ…あまり大規模な部隊を派遣するとバレてしまい、そうなると彼らは何をするか分かりませんから…

 ここは特殊作戦群を帝都郊外へ空挺降下させ、隠密に皇城へ侵入、救出するというのがいいでしょう。」

「よし分かった!それで行こう!」

 こうして松岡救出作戦が決定し、特戦群は翌日帝都ケーンペへ向かう事となった。

――――――――――

翌日、帝都付近上空

「一旋回、いくぞ!」

「オウ!」

「いくぞ!」

「オウ!」

「いくぞ!」

「オウ!」

 C-2の機内に降下長の掛け声とそれに答える隊員達の声が響く。一旋回も何も、今回作戦で使用されるのはC-2一機のみだ。それに護衛としてF-15Jが一機付いている。

 今回の作戦で降下するのは特殊作戦群の隊員12名だ。グリーンベレーの1チームの人数と同じだ。

「装具点検!」

 隊員達が自らの装具、前の隊員の装具を確認する。

「報告!」

「異常なし!」

「コース良し、コース良し、用意用意用意、降下降下降下!」

 降下ランプが赤から青へと切り替わる。そして12名の隊員が降下を開始する。大空に12個の花が舞う。

 隊員達が次々に五点着地で着地する。

「あれがケーンペ皇城か……」

 ケーンペから3kmほど離れた所に着地した小隊長の永田雅人まさと中尉がそう呟く。

 彼は特戦の中でも優秀で、オーストラリア軍主催の国際射撃競技会AASAMで遂にアメリカ軍を抑え、日本を総合優勝へと導いた。

 撃った弾は全弾命中、狙った獲物は逃さないことから世界中の軍隊から「日本のシモ・ヘイヘ」と呼ばれ、恐れ、敬われている。

 12名の隊員達が周囲を警戒しながらケーンペへと30kgの荷物を背負いながら向かう。普通の人間なら30kgの荷物を背負うだけでも大変だが、彼らは背負いながら3kmもの道を歩く。

 しかし彼らは第一空挺団で訓練をしていた際には100kmもの道のりを走破しているため、3km程度ものともしない。

「大丈夫ですかね、変装せずに市街地へ入っても。」

 副隊長の長谷川少尉がそう心配する。

「ほとんどの住民はこの格好が日本軍の格好だとは分からないだろうから大丈夫だろう。」

 手には20式小銃を持ち、迷彩柄の戦闘服市街地用を見に纏い、大きな荷物を背負いながら普通に市街地へと入っていった。

 元いた世界ならば誰もが軍人だと認識出来ただろう。しかしこの国の軍人は鉄で出来た鎧を纏い、剣を持っているのが普通のため、住民は見慣れぬ格好をした小隊を不思議そうな目で見ていた。

 やがて小隊は皇城へと辿り着く。

「止まれ!貴様ら何も……!」

 門番が小隊を止めようとしたが、5人いた門番は全員永田の的確なヘッドショットにより即死する。

「すまんな。」

 永田はそう言い残しその場を後にする。

ぐああ!ぐふっ!ぎゃあ!

 城内へと侵入した小隊は次々に現れる近衛兵達を撃っていく。一発も外すことなく。ハンドサインでコミュニケーションを取り、静かに城を制圧していく。

「クソッ、キリがないな……」

 撃っても撃ってもゾンビのように次々に湧いてくる近衛兵。それでも被害を被らない小隊。12人が連携して互いに助け合いながら進んでいく。

「おい!そこのお前!人質はどこだ!」

 被弾して虫の息となっていた近衛兵に永田が9mm拳銃を頭に突きつけながら問いただす。

「はあ……外交室だ……はあ……っ…………」

「死んだか……」

 永田は胸が痛むのを感じた。

「1人の命を救うために何百人もの命を奪う……これでいいのか……」

「隊長、それを考えるのはまた後でにしましょう。今は先を急ぎましょう。」

――――――――――

「何だ騒がしいな。」

 扉が勢い良く開かれ、小隊が入ってくる。

「我々は日本国陸軍だ!今すぐ人質を解放せよ!」

「来てくれましたか……」

 松岡は小隊の姿を見て安堵する。

「そんなバカな!近衛兵はどうした!?」

 マウンタが声を荒らげてそう問う。

「床でおねんねしてますよ。さあ早く解放して貰おうか。」

「そんな……!近衛兵は我が国でも高い練度を誇る者達により編成されているのだぞ!そんな簡単に……!クソッ、殺れー!」

 兵士の一人が松岡へ剣を振りかざす。しかし、

「ぐわぁ……!」

 即座に銃弾が飛んでくる。帝国側の人間は何が起こったか理解できていない。

「何が起こったんだ……!?全員コイツらを叩き潰せー!」

 30人程の近衛兵が剣を持ち、小隊へ襲い掛かる。しかし誰一人として近づくこともできず、一瞬にして全滅する。

「クソが!こんなことがあってたまるか!」

 永田がパフォーマンスとして9mm拳銃でマウンタの前に置かれていた金属製のコップを撃ち抜く。

「ひぃ!」

「我々は絶対に獲物は逃しません。次は貴方の頭がそうなりますよ。」

 永田は銃弾が貫通してペシャンコになったコップを指さす。

「しかし、たかが12人で何ができると言うのだ!我が国にはまだ20万人も兵士がいるのだぞ!」

「いいえ、我々は12人だけではありません。外をご覧下さい。」

「外だと……?」

 マウンタは怪しみながら外を見る。

「なっ!アイツらは何者だ!?」

 そこには日本陸軍の歩兵、戦車、自走砲、その他トラック等の車両がいた。ジュウチンやトセーを占領した部隊だ。

 彼らはもう既にケーンペを占領していた。街中に警備兵達の死骸が転がっていた。

「そんな……もうケーンペが陥落したのか……!?」

「さて、どうしますか?既に帝都も皇城も陥落して貴方はいま人質の身ですが。降伏すれば貴方達の命は助かりますよ。」

「クソッ、ここまでか……わかった降伏しよう。」

 こうして約2週間に及ぶユチーカとの戦争が終戦した。
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