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記憶のパズル
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麻尋の意識が戻ってきた。ゆっくり目を開ける。
「生きてる!殺されなかったんだ!!」天井をみてハッとする。シミひとつなく綺麗な天井だ。
顔をゆっくり横に動かすと、病院のICUのような場所だとわかった。身体は硬直したように動かない。
ドアについた窓からナースがのぞく。
嬉しそうにドアを開けてナースが入ってきた。
「今ご家族を呼びますからね お母さん来てますよ」
麻尋には全く状況がわからなかったが、母に会えると聞いて涙が溢れる。
しばらくして母が入室してきた。涙目で母が言う。
「良かった 目を覚まさないかと思った。」
「ここは日本?どうやって…?」麻尋がかすれた声で尋ねる。
「旅行初日に車に轢かれたのよ。見ていた人が通報してくれたんだけど轢き逃げで、まだその運転手は捕まってないみたい。麻尋が地面に倒れてるのにさらに頭を殴ったりしてたらしいの。狂った人よ きっと。
脳にダメージがあったらしくてフィリピンの病院では手に負えないからって、海外旅行保険の人がドクターヘリで日本に連れて帰ってくれたのよ 一大事だったんだから。旅行直前にお母さんが入れって言ったでしょ。あの保険。
日本で脳と脊椎の手術をしたのよ」
相変わらず早口の母だった。
麻尋は思った。
旅の初日に車にはねられてからすぐ日本ということは、全て夢?じゃあ手足は?
「お母さん、わたしの手足…… 全部ついてる?」麻尋が尋ねる。
「手足は全部あるわよ 感覚が無い?触ってるのわかる?」母が麻尋の手を握る。
「感じない」麻尋が答える。
「脊椎にも損傷があったからお医者さんが麻痺を心配していて。リハビリとか時間かけて頑張ろう。諦めずに一緒に頑張ろうね。」涙目で母が言った。
晴れやかな麻尋の顔を見て母が少し驚く。
麻尋が言う。「手足があるだけで嬉しいよ。手足が無くなった悪夢をずっと見てたよ。手足が動くまで諦めないよ。
もし一生麻痺したら車椅子で頑張るよ。」
ナースが入ってきた。先ほどとは別のナースだ。
「良かった 意識が戻りましたね」
麻尋はすぐに気付いた。奈月の声だった。顔や体型はことなるが、少し甘ったるい特徴のある優しい声だった。
「夏川さんね 毎日一生懸命話しかけてくれてたのよ」と母が麻尋に言う。
麻尋が言う。「夢の中で夏川さんの声、しょっちゅう聞いてました なんか嬉しい。有難うございました」
麻尋はしみじみ考えた。奈月は架空の人物で、死んではいない。
あの異様な建物や犯罪者も全て架空ということか と。
麻痺した身体が見せた夢ということか。と。自分で納得した。
また目がさめたら実は今病院にいる自分が夢なのでは…とも勘ぐった。戻りたくはない。
身体は動かないが、落胆することはなかった。今あるものに素直に感謝できた。全身が動くまで諦める気もない。車椅子での生活を余儀なくされても受け入れる心の余裕があった。
「お母さん、有難う。いい歳していつまでも子供っぽくてごめんね。素直じゃなかったよね。頑張って育ててくれたこと、感謝してる。心配かけないように頑張るから見ててね。」
母の潤んだ瞳がさらに潤んだ。
早くも麻尋の指先は、母の手の感覚を感じはじめていた。
やる気に満ち溢れた麻尋には、ネガティブなことを考える隙などなくなっていた。
旅行自体は失敗に終わり、この先どんな苦労が待っているかわからないが、ポジティブに変われた分、ある意味成功だと麻尋は微笑んだ。
終わり
「生きてる!殺されなかったんだ!!」天井をみてハッとする。シミひとつなく綺麗な天井だ。
顔をゆっくり横に動かすと、病院のICUのような場所だとわかった。身体は硬直したように動かない。
ドアについた窓からナースがのぞく。
嬉しそうにドアを開けてナースが入ってきた。
「今ご家族を呼びますからね お母さん来てますよ」
麻尋には全く状況がわからなかったが、母に会えると聞いて涙が溢れる。
しばらくして母が入室してきた。涙目で母が言う。
「良かった 目を覚まさないかと思った。」
「ここは日本?どうやって…?」麻尋がかすれた声で尋ねる。
「旅行初日に車に轢かれたのよ。見ていた人が通報してくれたんだけど轢き逃げで、まだその運転手は捕まってないみたい。麻尋が地面に倒れてるのにさらに頭を殴ったりしてたらしいの。狂った人よ きっと。
脳にダメージがあったらしくてフィリピンの病院では手に負えないからって、海外旅行保険の人がドクターヘリで日本に連れて帰ってくれたのよ 一大事だったんだから。旅行直前にお母さんが入れって言ったでしょ。あの保険。
日本で脳と脊椎の手術をしたのよ」
相変わらず早口の母だった。
麻尋は思った。
旅の初日に車にはねられてからすぐ日本ということは、全て夢?じゃあ手足は?
「お母さん、わたしの手足…… 全部ついてる?」麻尋が尋ねる。
「手足は全部あるわよ 感覚が無い?触ってるのわかる?」母が麻尋の手を握る。
「感じない」麻尋が答える。
「脊椎にも損傷があったからお医者さんが麻痺を心配していて。リハビリとか時間かけて頑張ろう。諦めずに一緒に頑張ろうね。」涙目で母が言った。
晴れやかな麻尋の顔を見て母が少し驚く。
麻尋が言う。「手足があるだけで嬉しいよ。手足が無くなった悪夢をずっと見てたよ。手足が動くまで諦めないよ。
もし一生麻痺したら車椅子で頑張るよ。」
ナースが入ってきた。先ほどとは別のナースだ。
「良かった 意識が戻りましたね」
麻尋はすぐに気付いた。奈月の声だった。顔や体型はことなるが、少し甘ったるい特徴のある優しい声だった。
「夏川さんね 毎日一生懸命話しかけてくれてたのよ」と母が麻尋に言う。
麻尋が言う。「夢の中で夏川さんの声、しょっちゅう聞いてました なんか嬉しい。有難うございました」
麻尋はしみじみ考えた。奈月は架空の人物で、死んではいない。
あの異様な建物や犯罪者も全て架空ということか と。
麻痺した身体が見せた夢ということか。と。自分で納得した。
また目がさめたら実は今病院にいる自分が夢なのでは…とも勘ぐった。戻りたくはない。
身体は動かないが、落胆することはなかった。今あるものに素直に感謝できた。全身が動くまで諦める気もない。車椅子での生活を余儀なくされても受け入れる心の余裕があった。
「お母さん、有難う。いい歳していつまでも子供っぽくてごめんね。素直じゃなかったよね。頑張って育ててくれたこと、感謝してる。心配かけないように頑張るから見ててね。」
母の潤んだ瞳がさらに潤んだ。
早くも麻尋の指先は、母の手の感覚を感じはじめていた。
やる気に満ち溢れた麻尋には、ネガティブなことを考える隙などなくなっていた。
旅行自体は失敗に終わり、この先どんな苦労が待っているかわからないが、ポジティブに変われた分、ある意味成功だと麻尋は微笑んだ。
終わり
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