【完結】四肢切断 - 目が醒めたら -

くるんてぷ

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車椅子の女

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薄暗い中でドアがゆっくりと開く。
男と女がひとりづつおりてきた。
女は麻尋にゆっくり近付くと体をおこし座らせた。女が手にしていたバッグから、甘い香りのパンと水、焼いた肉のようなものを取り出した。まず水を口元に持ってこられた。奈月に目をやる。男は奥の方にあった椅子に腰掛け煙草を吸い始めた。

「その水飲んで。食べさせてくれるから食べて。たべないともたないから。」奈月が言った。奈月は自分でバッグの方に移動するとパンや肉を食べ始めた。

奈月が食べるのをみて、麻尋も口に運ばれるものを飲みこんだ。その後女は麻尋の身体を拭くと、女は麻尋に化粧をし始めた。
「まさかショーにわたしを出すの?痛いし動けない どこにも行きたくない」奈月に言う麻尋。奈月が男になんの準備かと英語で尋ねた。

男はタバコの火を消しながら上を指差した。そして胸元から何かを出すと女に渡した。女は飲みかけの水のボトルにその薬を溶かすと、「ペインキラー(痛み止め)」と言い、麻尋の口にボトルの飲み口をあてた。躊躇しながらも麻尋は水をそのまま飲む。しばらくすると痛みはやわらぎ始めた。と同時に猛烈な眠気に襲われた。

目を開けると麻尋はベッドの上にいた。ゴソゴソと音がするので顔をゆっくり動かす。まだ薬が効いているのか麻尋はぼんやりとしていた。音の主は白人と思われる小太りの男だった。椅子に座った背面しか見えないが金髪で肌は白人特有の白さ。
小刻みに動かす手はまるで自慰をしているようだ。
ゆっくり部屋を見回す。窓は無いが、大きな絵で窓を隠してあるだけのように見える。絵の入った額の後ろからチラチラと光が漏れ、屋外と思われる音がした。まだ眠気が強い。麻尋はまた目を閉じた。

再度目を開けるとまた薄暗い部屋にいた。奈月がまた近寄ってきた。
「大丈夫?」奈月が聞いてきた。
「まだぼんやりしてる 痛みはだいぶひいてる」麻尋がこたえる。
「もう3週間ぐらい経つんじゃない。血もだいぶ出なくなってる 傷口は焼かれてるはずなんだ。」と奈月。
「3週間!?」驚く麻尋。
「気が付く度にわたしと話してるんだよ 薬を飲まされてるから覚えてないよね まだ休んでいなよ」と奈月。
「上の階、すぐ外と通じてるんじゃない? 窓を絵で隠してるみたいだった。」麻尋が言った。
「記憶があるの?確かにそんな部屋がある。全部で何部屋あるかわかんないけど」
「こんな風に薬で朦朧として客の前に連れて行かれたらいつ妊娠させられてもおかしくない」
奈月が少し躊躇して言った。「あいつらの使う薬、もし家畜用だったら不妊の原因にもなるかも…」
「不妊?何もう子供ができないの?」
「いや、もしもの話」

麻尋に複雑な感情が込み上げた。
子供など欲しくないといつも思っていたが、不妊にされるのは嫌だった。ならばいつか産みたい気持ちがどこかにあるのか。こんな身体でも誰かと出会う気でいるのか。いまだ出会えないから不幸に感じるだけで、大切な誰かに将来会えればそのとき初めて産まれて良かったと思えるのか。自問自答した。

四肢切断されたこの姿を母に見せるとショックで母が耐えられないのではと思いつつも、自分が生きていると知らせたいし母の顔もみたい。何をされるかわからないこの場所からとにかく一刻も早く抜け出したい。
麻尋はまたシミだらけの天井を見上げた。

同じ頃、建物の最上階の部屋に設置された小さなステージで残忍なショーが行われてようとしていた。
被害者はまた日本人女性であった。高時給のバーの求人を見て面接にきたところ、薬を飲まされ気がつけばステージ上に張り付けの状態にされていた。口には猿轡さるぐつわがつけられ、大声を出せない。涙とスポットライトで前方がよく見えない。何が行われるのかもわからないがステージを見渡すとチェーンソーに日本刀、焼きごてなどが並んでいた。
観客が何人いるかも確認できない。恐怖とショックで過呼吸に陥り始める。

観客席の中にひとりの若い日本人女性詩織しおりがいた。常連客のひとりで、世界有数の資産家の娘だ。足が悪く普段は車椅子を使っていて、数人のボディガードと使用人とここ数年フィリピンに住んでいる。日本人とフィリピン人のボディガードをひとりづつを連れてショーを見に来た。
ショーを見るのは2度目だが、怯える女性を見て気分を害していた。
「櫻井、前に見たショーは女の子が痛がってなくて興味深かったんだけど、今日は泣き叫ぶんじゃない?他の客は痛がるのを見るのが好きな変態ばかりでしょ?
綺麗な子がいるなら下の部屋に二人くらい連れてきて。ショーはもういいわ。」ボディーガードに言った。
フィリピン人ボディーガードのベンに目で合図すると、ベンは彼女を抱きかかえ出口に向かった。出口のドアには見張りの男が立っている。櫻井が見張りに部屋に通すように英語で伝える。見た目のいい二人の女も連れてくるよう指示した。

見張りに指示され別の男が3人を部屋に移動させる。
「櫻井、車椅子を持ってきて。2台とも。洋服も。ケーキみたいなものも買ってきて。」

しばらく待つと車椅子と洋服、食べ物を持った櫻井が戻ってきた。

まもなくドアがノックされ、化粧をした奈月と麻尋が連れて来られた。
詩織は車椅子に乗っており、二人を見て嬉しそうに微笑んだ。
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