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奪われた手足、そして奈月との出会い
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気が付くと麻尋は汗ばんだ身体で暗闇にうつ伏せで横たわっていた。身体のあちこちが痛む。頭の中は霞がかかったようにぼんやりと重い。
視界の暗さに恐怖を感じ、ダラダラとさらに汗が出る。周りに何があるのかわからない。
両腕と両腿には激痛。地面に手をつこうとしハッとした。
今まで経験したことのない部位に地面があたる感覚がある。痛みとひきつるような感覚もする。そして腕と腿から先は感覚がない。触って確認しようにも、まるで腕から先が切り落とされて何も無いかのように感覚がない。
服といえば下半身の下着だけしかつけていないようで、胸元はブラもなく地面を直に感じた。
麻尋は恐怖ですすり泣く。
突然、マッチをする音がし、タバコをくわえた女性の口元が火に照らされた。
カールのかかった長い髪に膨らみのある下唇が印象的な綺麗な女性だ。
彼女は口にくわえたタバコの火でキャンドルに灯をともした。
次の瞬間、麻尋は自分の腕と腿に目をやる。
「ひぃっ」声にならない声が出た。麻尋の四肢は鋭利な何かで切断されそれぞれ包帯が巻かれていた。包帯には赤黒い血が滲んでいる。薬を飲まされているのか頭が朦朧としている。己の姿に呆然とした後、麻尋の頭には「死にたい! 今すぐ消えたい!!」こんな言葉と涙しか出てこなかった。しみだらけの暗い天井を見上げただただ泣いた。涙すら拭けぬ姿の自分にさらに絶望した。
「辛いよね。私も同じように切られたんだよ。私の名前は奈月。」女性が口を開いた。
そして奈月はさらにキャンドルに火を灯す。隙間風でキャンドルの火がゆらりと揺れた。薄暗い空間がさらに明るくなり部屋の四方が確認できた。ビル内の地下室のような空間に、壁に面して棚や机がいくつか置かれていた。寝具のようなものも床に無造作に置かれていた。
奈月は両腕に義手のようなものをつけていたが、足には何もつけておらず麻尋と同じく腿から両足が切断されていた。
義手は掴む動作ができるようだ。奈月は机の上に座っていたが、器用に机につかまりながら床に降り、両腿で麻尋のそばまで歩いてきた。ゆっくりだが、腿を使い歩行していた。
麻尋は少し警戒したが、奈月が肩に掛けてもってきたタオルで涙を拭おうとしていることき気付き、そのまま奈月に任せた。
名前を聞かれ麻尋だとこたえた。
「誰がこんなことを?なぜまだ生かされてるの?誰かが殺しに来るの?」麻尋が奈月に尋ねた。
麻尋は突然、以前友人の千穂から聞いた話を思い出した。麻尋がまだ19歳ぐらいだった頃だ。千穂の知人が海外で知り合いに連れられ残酷なショーを見せられた、と。ショーのステージには四肢切断された若い女の子がおり、犬と性的に戯れているのを見世物にしていた、と。女の子は日本人で、薬物をもられよだれを垂らしながら喜んで犬と戯れていたが、彼女の四肢は不衛生にされていて、可哀想で見ていられなかったと。
さらに母から幼い頃から言われていた、「行方不明になって海外で人身売買の被害者になっている子達がいるから、いつも気をつけていて」という言葉も思い出した。
四肢のない人をだるまと呼び様々な都市伝説があるようだが、自分が被害にあうなど考えてもみなかった。
千穂が知人の話を教えてくれていたのに。
奈月が答える。
「わたしたちは金儲けの道具。さらった女の子の手足を切るショーをして客から高い金を取ってる。切った後もショーに使う。手に余る子はすぐにデスショーに使われて殺されることもある。
だからあまり騒がず奴らに従った方がいい。殺すときは臓器売買でさらに金にしているようだし、殺すことに躊躇はない奴らだから。何人いるのかわからないけど、常に出入りしている奴らは10人ぐらい。多分またあなたにまた薬を飲ませにくる。薬無しでは痛みに耐えられないと思う。」
麻尋は得体のしれない薬を身体に入れたくはなかった。しかし四肢の痛みは薬なしでは耐え難い。
奈月がつづける。
「わたしは多分5年ぐらいここにいる。何人も女の子が来ているのを見てる。 出入りしている男の数人と親しくなって、今は女の子が来るたびに様子を見るように言われてる。
でもこのままずっとここにいる気はない。隙をみて外に出たいんだ。」
「今までに外に出たことはあるの?」麻尋が尋ねる。
「建物から出たことはないけど上の階に行ったことは何度もある。たまに客がきて、上の部屋で相手をさせられる。話すだけの客もいれば触って来るやつももちろんいる。だるま女に興味がある変わった奴らばかりだけど、中には外に連れ出してあげると言ってくるやつもいる。大金積んで女を買い取るんだと思うけど、そういう男にまずついて行って隙をみて逃げるか。その後何されるかはわからないからね。
常連に日本人の女性客もいるから彼女についていけたらラッキーかな。麻尋はかわいいから好かれるかもよ。
もし建物の構造とまわりの様子がわかれば飛び出して逃げたいくらいだけど多分撃たれるね。」
「こんな身体で逃げるなんてできるわけないし、こんな身体で生きていけないよ 会いたい人にももう会えない 逃げてこれからの生活どうするの」麻尋が返す。
「義手に義足、車椅子 手足がわりになるものはたくさんある。こんなとこで人知れず死ぬのはわたしは嫌。障害者への偏見も以前より減ってるし。むしろ笑顔で堂々と生きてやるわ。堂々としてれば四肢の不自由な人に対しての世間の印象だって変えられる 障害じゃなくて皆を驚かせるような個性を手に入れたとプラスに考えればいい 被害者では終わらない。」と奈月。
「そもそも生きることに執着はない。産まれて良かったなんて思ったこともないし、むしろ勝手に産みやがってと思うぐらい。今もう口に何かを詰めて窒息して死にたいぐらい。」と麻尋。
「私も若い頃は繊細で、簡単に鬱になって毎日死にたいと夜な夜な泣いてたけど、あの頃は可哀想な自分に酔ってただけだった。自分の非を常に気にして後悔したり。でも、まわりの人間は忙しくて他人のことなんて良くも悪くもたいして考えてないって気付いたから、周りは気にせず図太く生きることにしたわ。自分の好きなことをまず見つけて好きなこと楽しんで。
そのうち楽しみもできるし幸せも感じる。自分の人生は自分でおもしろくするしかない。本当に本気なら死ぬなんていつでもできる。ただ実際は簡単には死ねない人がほとんどだから考えるだけ時間の無駄。自死なんかして、あることないことを死んだ後に好き放題世間に晒されるのも地獄よ。
こんな身体になっても簡単に死ぬなんてもったいないこと。
むしろハンディがある方ががむしゃらに頑張れるわよ。
私は親族に義手を使っている人間がいたから余計に抵抗がないのかもね。辛くても必死でいつも笑顔で頑張ってれば、いい男にも会えるわよ
てか彼氏いるの?家族は?」奈月が尋ねる。
「彼氏なし 人付き合いも下手 母と二人暮らしだけど母が口うるさくて喧嘩ばかり 父親がいないのは母のせいとすら思っちゃう」麻尋がかえす。
「なんか甘やかされてるっぽいね 女一人で 子供育てるって想像できないぐらい大変よ 簡単にできることじゃない
親になった時にどれほど大変かわかるよ それに親にありがたいって思うよ 捨てられたり殺される子どもたちもいるんだよ
赤ちゃんとして産まれること自体奇跡的で、私達はたくさんの精子と競争して地球で遊ぶ権利を手にいれたのよ
大人になるまで生き抜いたんだから死ぬんじゃなくてやりたいことやんなきゃ損よ 奴らが麻尋をほんとに殺しにかかったら殺されてたまるかと思うわよ」と奈月。
麻尋はこんな身体になってもまだ生きたいのかわからなかった。ただ確かに殺されるのは御免だった。
母がろくに睡眠もとらずに働き詰めで自分を育ててくれたことは子供のころから痛いほどわかっていた。だが母にはきちんと感謝もせず口ごたえばかりしていた。このまま人知れず死に、母が一生自分を探し続けたり、自分の死を謎に苦しむのは嫌だと思った。
突然、暗がりに見える階段の先のドア付近でガチャガチャと鍵を開けるような音がした。
視界の暗さに恐怖を感じ、ダラダラとさらに汗が出る。周りに何があるのかわからない。
両腕と両腿には激痛。地面に手をつこうとしハッとした。
今まで経験したことのない部位に地面があたる感覚がある。痛みとひきつるような感覚もする。そして腕と腿から先は感覚がない。触って確認しようにも、まるで腕から先が切り落とされて何も無いかのように感覚がない。
服といえば下半身の下着だけしかつけていないようで、胸元はブラもなく地面を直に感じた。
麻尋は恐怖ですすり泣く。
突然、マッチをする音がし、タバコをくわえた女性の口元が火に照らされた。
カールのかかった長い髪に膨らみのある下唇が印象的な綺麗な女性だ。
彼女は口にくわえたタバコの火でキャンドルに灯をともした。
次の瞬間、麻尋は自分の腕と腿に目をやる。
「ひぃっ」声にならない声が出た。麻尋の四肢は鋭利な何かで切断されそれぞれ包帯が巻かれていた。包帯には赤黒い血が滲んでいる。薬を飲まされているのか頭が朦朧としている。己の姿に呆然とした後、麻尋の頭には「死にたい! 今すぐ消えたい!!」こんな言葉と涙しか出てこなかった。しみだらけの暗い天井を見上げただただ泣いた。涙すら拭けぬ姿の自分にさらに絶望した。
「辛いよね。私も同じように切られたんだよ。私の名前は奈月。」女性が口を開いた。
そして奈月はさらにキャンドルに火を灯す。隙間風でキャンドルの火がゆらりと揺れた。薄暗い空間がさらに明るくなり部屋の四方が確認できた。ビル内の地下室のような空間に、壁に面して棚や机がいくつか置かれていた。寝具のようなものも床に無造作に置かれていた。
奈月は両腕に義手のようなものをつけていたが、足には何もつけておらず麻尋と同じく腿から両足が切断されていた。
義手は掴む動作ができるようだ。奈月は机の上に座っていたが、器用に机につかまりながら床に降り、両腿で麻尋のそばまで歩いてきた。ゆっくりだが、腿を使い歩行していた。
麻尋は少し警戒したが、奈月が肩に掛けてもってきたタオルで涙を拭おうとしていることき気付き、そのまま奈月に任せた。
名前を聞かれ麻尋だとこたえた。
「誰がこんなことを?なぜまだ生かされてるの?誰かが殺しに来るの?」麻尋が奈月に尋ねた。
麻尋は突然、以前友人の千穂から聞いた話を思い出した。麻尋がまだ19歳ぐらいだった頃だ。千穂の知人が海外で知り合いに連れられ残酷なショーを見せられた、と。ショーのステージには四肢切断された若い女の子がおり、犬と性的に戯れているのを見世物にしていた、と。女の子は日本人で、薬物をもられよだれを垂らしながら喜んで犬と戯れていたが、彼女の四肢は不衛生にされていて、可哀想で見ていられなかったと。
さらに母から幼い頃から言われていた、「行方不明になって海外で人身売買の被害者になっている子達がいるから、いつも気をつけていて」という言葉も思い出した。
四肢のない人をだるまと呼び様々な都市伝説があるようだが、自分が被害にあうなど考えてもみなかった。
千穂が知人の話を教えてくれていたのに。
奈月が答える。
「わたしたちは金儲けの道具。さらった女の子の手足を切るショーをして客から高い金を取ってる。切った後もショーに使う。手に余る子はすぐにデスショーに使われて殺されることもある。
だからあまり騒がず奴らに従った方がいい。殺すときは臓器売買でさらに金にしているようだし、殺すことに躊躇はない奴らだから。何人いるのかわからないけど、常に出入りしている奴らは10人ぐらい。多分またあなたにまた薬を飲ませにくる。薬無しでは痛みに耐えられないと思う。」
麻尋は得体のしれない薬を身体に入れたくはなかった。しかし四肢の痛みは薬なしでは耐え難い。
奈月がつづける。
「わたしは多分5年ぐらいここにいる。何人も女の子が来ているのを見てる。 出入りしている男の数人と親しくなって、今は女の子が来るたびに様子を見るように言われてる。
でもこのままずっとここにいる気はない。隙をみて外に出たいんだ。」
「今までに外に出たことはあるの?」麻尋が尋ねる。
「建物から出たことはないけど上の階に行ったことは何度もある。たまに客がきて、上の部屋で相手をさせられる。話すだけの客もいれば触って来るやつももちろんいる。だるま女に興味がある変わった奴らばかりだけど、中には外に連れ出してあげると言ってくるやつもいる。大金積んで女を買い取るんだと思うけど、そういう男にまずついて行って隙をみて逃げるか。その後何されるかはわからないからね。
常連に日本人の女性客もいるから彼女についていけたらラッキーかな。麻尋はかわいいから好かれるかもよ。
もし建物の構造とまわりの様子がわかれば飛び出して逃げたいくらいだけど多分撃たれるね。」
「こんな身体で逃げるなんてできるわけないし、こんな身体で生きていけないよ 会いたい人にももう会えない 逃げてこれからの生活どうするの」麻尋が返す。
「義手に義足、車椅子 手足がわりになるものはたくさんある。こんなとこで人知れず死ぬのはわたしは嫌。障害者への偏見も以前より減ってるし。むしろ笑顔で堂々と生きてやるわ。堂々としてれば四肢の不自由な人に対しての世間の印象だって変えられる 障害じゃなくて皆を驚かせるような個性を手に入れたとプラスに考えればいい 被害者では終わらない。」と奈月。
「そもそも生きることに執着はない。産まれて良かったなんて思ったこともないし、むしろ勝手に産みやがってと思うぐらい。今もう口に何かを詰めて窒息して死にたいぐらい。」と麻尋。
「私も若い頃は繊細で、簡単に鬱になって毎日死にたいと夜な夜な泣いてたけど、あの頃は可哀想な自分に酔ってただけだった。自分の非を常に気にして後悔したり。でも、まわりの人間は忙しくて他人のことなんて良くも悪くもたいして考えてないって気付いたから、周りは気にせず図太く生きることにしたわ。自分の好きなことをまず見つけて好きなこと楽しんで。
そのうち楽しみもできるし幸せも感じる。自分の人生は自分でおもしろくするしかない。本当に本気なら死ぬなんていつでもできる。ただ実際は簡単には死ねない人がほとんどだから考えるだけ時間の無駄。自死なんかして、あることないことを死んだ後に好き放題世間に晒されるのも地獄よ。
こんな身体になっても簡単に死ぬなんてもったいないこと。
むしろハンディがある方ががむしゃらに頑張れるわよ。
私は親族に義手を使っている人間がいたから余計に抵抗がないのかもね。辛くても必死でいつも笑顔で頑張ってれば、いい男にも会えるわよ
てか彼氏いるの?家族は?」奈月が尋ねる。
「彼氏なし 人付き合いも下手 母と二人暮らしだけど母が口うるさくて喧嘩ばかり 父親がいないのは母のせいとすら思っちゃう」麻尋がかえす。
「なんか甘やかされてるっぽいね 女一人で 子供育てるって想像できないぐらい大変よ 簡単にできることじゃない
親になった時にどれほど大変かわかるよ それに親にありがたいって思うよ 捨てられたり殺される子どもたちもいるんだよ
赤ちゃんとして産まれること自体奇跡的で、私達はたくさんの精子と競争して地球で遊ぶ権利を手にいれたのよ
大人になるまで生き抜いたんだから死ぬんじゃなくてやりたいことやんなきゃ損よ 奴らが麻尋をほんとに殺しにかかったら殺されてたまるかと思うわよ」と奈月。
麻尋はこんな身体になってもまだ生きたいのかわからなかった。ただ確かに殺されるのは御免だった。
母がろくに睡眠もとらずに働き詰めで自分を育ててくれたことは子供のころから痛いほどわかっていた。だが母にはきちんと感謝もせず口ごたえばかりしていた。このまま人知れず死に、母が一生自分を探し続けたり、自分の死を謎に苦しむのは嫌だと思った。
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