掌

ショートショート季節と情景

（夏） 星のから騒ぎ

　少し汗ばむ夏の夜。
南の空に昇る天秤座に彦星が訪れる。


恋のお悩み相談というやつだ。



「お久しぶりです、天秤座さん」

「あら、珍しい」
「どうかなさって？」

「ちょっと、悩んでまして、、、」

「ほう、なるほど」
「聞きましょう」



彦星は織姫に劣等感のようなものを抱いていた。
スペックの高い彼女に自分は吊り合っているのか不安なのだ。
やがて、それは嫉妬心に変わるほどに。



「では、私がお計りしましょう」
「2人でいらしてください」



七夕の日、彦星は織姫を連れて再び天秤座を訪れた。


「2人同時に乗ってください」
「吊り合わなければ、価値の高い方に傾きます」


織姫の方は嫌々な感じで応じる。
彦星は緊張した面持ち。





「せーの」





天秤は少しも動かない。



織姫は彦星に笑いかける。
彦星も安堵の表情を浮かべ織姫の笑顔に応えた。



「ありがとうございました」
「とても安心しました」



2人は天秤座に一礼して、天の川へと帰っていった。


「すごい2人ね」
「あんなに綺麗に吊り合うものなのね」

隣で見ていた乙女座が尋ねる。


「あぁ、、、」
「私に何かを計る機能など付いてませんよ」
「どちらにも傾きませんからね」


「まあ！」
「それは、悪い星座ですこと」


「個人を計る秤など、どこ探したってありませんよ」
「吊り合ってるかどうかなんて、お互いに勝手に思ってればいんですよ」


「あら、辛辣ですこと」








少し汗ばむ夏の夜。
それは満天の星のから騒ぎ。