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幕間
5.5話 ***
しおりを挟むソレが目覚めた時、辺りは常世の闇に覆われていた。深く、深く、沈み込むような闇に、ソレは浮かんでいる。さっきまで少女だった筈のソレは、ただただ困惑した。
自分を包んでいたベッドは何処に行ったんだろう。
家は? 家族は? 友人は?
私は、ワタシは……何という名前をして、どういう顔をしていたかしら。
何も思い出せないソレは、不安げにフヨフヨと彷徨き出した。『自分を証明する何かが欲しい。服でも、髪でも、瞳でも。何でもいい。何か、何かを私に頂戴』と、祈れば祈る程、ソレの内側には寂寥感だけが澱のように溜まっていった。何処を見渡しても、闇、闇、闇。疲れも痛みも何も無い。本当に自分は無なのだと知った時、彼はやってきた。
「おはよう。良い朝だね」
突然無から発せられた声は、酷く優しそうな青年の声だった。聞き覚えは無い。しかし、縋るもののないソレは、無い手を伸ばして声の方に寄って行った。
「可哀想に、君で4人目だ。うーん、それにしたって、僕がやった事だけど流石に回数が多いなぁ。家をもう少し広くしなくちゃ」
刹那、闇が爆ぜた。
現れたのは、銀にも白にも見える燻んだ髪をした青年だった。爛々と輝く真紅の双眼が、彼が生きて此処に存在している事を有り有りと示している。彼にはソレが見えているようだった。ソレを大事そうに両手で抱え、優しく撫でながら歩き出す。
「君は10歳の少女だった。僕もまた、10歳の少年だった。
今? さぁ、どうだろう。見た目は20歳くらいだけど、精神年齢なら80歳だから……間を取って50歳?」
ソレがケラケラと笑う青年を見上げていると、視界の端に眩い光源が飛び込んできた。青年は足を止めない。
「ああ、いや。僕の歳なんて至極どうでもいいんだ。大事なのは今後の君だよ。感じるかい? この光源の先に、君たちと僕の家がある。君はそこで名前と容姿を貰って、新しく僕らと暮らすんだ。
ごめんね。ちょっとだけ窮屈かもしれないけど、でももう少ししたら殴り込みに行けるから。それまで待っててね」
その時、青年は柔らかい笑顔を浮かべていた。
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