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「それでは、球技大会の種目決めは以上になります。それぞれ出る種目は、実行委員主導により放課後練習がありますので、スケジュールを確認しておいてください! 学年優勝狙って頑張りましょう!」
季節は初夏。毎年恒例、球技大会の季節が来た。
私たちが通う高校の球技大会は学年ごとに行われ、学年カラーごとに開催される月が決まっている。私たち三年はカラーが青、二年が緑、一年が赤。青学年は毎年夏休み明けの九月の頭に行われ、緑学年は十月、赤学年は十一月に行われる。
球技大会は各クラス対抗で、優勝すると景品などがもらえるため、生徒たちは並々ならぬ気合を入れて挑む。
私の出場種目はバスケになった。バスケは室内競技なので日焼けしなくて済むし、どちらかといえば得意だからいい。
ただ、ひとつ問題がある。石野ひなたと一緒なのだ。
最悪だ。だって、石野は昨年も同じクラスだった子の話によると、ひどい運動音痴らしいのだ。
夏休みの自主練に付き合ってほしいなどと頼られそうで怖い。……と、思っていたのだが。予想に反して、石野は放課後の練習に参加することはなかった。
ちょっと拍子抜けしたが、まぁ絡まれないことに越したことはない。
ホッとしていた私とは裏腹に、練習に参加せず帰宅する石野に、バスケ担当になった他のメンバーはいい顔をしなかった。
「運動音痴のくせに練習こないとかなんなの?」
「当日も休んでくれたらいいんだけどね」
「つかもう学校来なくていいんじゃね?」
「ね、珠生ちゃん」
「……まぁ、石野さんもいろいろあるんじゃないかな」
「珠生ちゃんは優しいなぁ」
「つーか、顔がいいってだけで男子は騙されすぎ。バカでも運動音痴でもチヤホヤされるんだからいいよね~」
「私は珠生ちゃんのほうが絶対可愛いと思う」
「私も! 絶対珠生ちゃん派!」
やっぱり、女は醜い生き物だ。集まればすぐに目立つ子の愚痴をはじめるのだから。
この球技大会を機に、派閥が生まれた。私派か、ひなた派か。
くだらない、と内心で思う。そもそも同じ舞台に私を上げないでほしい。
まぁ、悪口の対象が私ではなく石野になったのはいいけれど。
「じゃあまたね!」
「お疲れ様~」
「バイバーイ!」
笑顔で学校を出る。
球技大会があると、放課後の練習があるから家に帰る時間が遅くなっていい。今は彼氏がいないから、寄り道するいいわけにちょうどいいのだ。ふたりとも、保護者として心配しているフリだけはするから。
商店街をふらついていると、正面にうちの制服がちらついた。
おや、と思い見ると、石野だった。なにをしているのだろう、とよくよく観察していると、となりに小さな男の子……がいた。年齢はどれくらいだろう……五歳とか? 子供が好きじゃないから、よく分かんないけど。
「……え、なにあれ」
もしかして隠し子? え、マジ? 石野ってそーゆう感じ? でも、相手は? 瀬野? いや、さすがにそれは……。
ぐるぐる考えていると、私の念に気付いたのか、石野がパッと振り向いた。
「あっ」
……やば。
目が合ったことをなかったことにして顔を背けるが、石野は気にした様子もなく私に駆け寄ってきた。
「タマちゃん!」
逃げたところで明日の朝が面倒なだけだ。ここは軽く立ち話で済ませよう。
「あー……石野さん。偶然だね。こんなところでなにしてるの?」
そのきょとん顔はお決まりなのだろうか。もはやわざとなのではと思い始めてきた。
「私はただの保育園のお迎えと買い物だけど」
「そうなんだ……ねぇ、その子ってもしかして……」
「あ、この子? この子は空太。私の弟」
「弟?」
男の子を見る。たしかに石野に似て目がくりくりとしていて、可愛らしい男の子だ。
「こんにゃちは」
……うん。バカそうなところがソックリ。
「こんにちは」
私は笑顔で挨拶を返した。
「うち母子家庭だから、私が弟の面倒見てるんだ」
「ふぅん……大変だね」
だから帰宅部で、球技大会の練習にも参加しなかったのか。
「それで、タマちゃんはこんなとこでなにしてるの?」
「私は球技大会の練習帰りだけど」
「あ、そういえばそっか。というか、タマちゃんの家って、こっちのほうだったんだね!」
「……ううん」
首を振ると、石野は訝しげに「え?」と首をかしげた。
「……ただ、ちょっと道草食ってただけ。家は居心地が良くないから」
そう言うと、石野は数度瞬きをしてから言った。
「そかそか。じゃあさ、うち来る?」
「え?」
「これからご飯の準備なんだけど、その間空太見ててくれるなら大歓迎だよ!」
「え、いやそれは」
「気にしないで。今日お母さん夜勤でいないし、それに、お客さんがいると空太が大人しくなるからめっちゃ助かる」
「えーお姉ちゃん僕んち来るのー?」
「えっ」
「そうだよ~」
「えっ!?」
「やったぁ!」
「さて、それじゃあ三人で帰ろ~!」
「……えぇ、ちょっと……」
私はなぜか石野の家に招かれることになった。いや、だからなんで。
季節は初夏。毎年恒例、球技大会の季節が来た。
私たちが通う高校の球技大会は学年ごとに行われ、学年カラーごとに開催される月が決まっている。私たち三年はカラーが青、二年が緑、一年が赤。青学年は毎年夏休み明けの九月の頭に行われ、緑学年は十月、赤学年は十一月に行われる。
球技大会は各クラス対抗で、優勝すると景品などがもらえるため、生徒たちは並々ならぬ気合を入れて挑む。
私の出場種目はバスケになった。バスケは室内競技なので日焼けしなくて済むし、どちらかといえば得意だからいい。
ただ、ひとつ問題がある。石野ひなたと一緒なのだ。
最悪だ。だって、石野は昨年も同じクラスだった子の話によると、ひどい運動音痴らしいのだ。
夏休みの自主練に付き合ってほしいなどと頼られそうで怖い。……と、思っていたのだが。予想に反して、石野は放課後の練習に参加することはなかった。
ちょっと拍子抜けしたが、まぁ絡まれないことに越したことはない。
ホッとしていた私とは裏腹に、練習に参加せず帰宅する石野に、バスケ担当になった他のメンバーはいい顔をしなかった。
「運動音痴のくせに練習こないとかなんなの?」
「当日も休んでくれたらいいんだけどね」
「つかもう学校来なくていいんじゃね?」
「ね、珠生ちゃん」
「……まぁ、石野さんもいろいろあるんじゃないかな」
「珠生ちゃんは優しいなぁ」
「つーか、顔がいいってだけで男子は騙されすぎ。バカでも運動音痴でもチヤホヤされるんだからいいよね~」
「私は珠生ちゃんのほうが絶対可愛いと思う」
「私も! 絶対珠生ちゃん派!」
やっぱり、女は醜い生き物だ。集まればすぐに目立つ子の愚痴をはじめるのだから。
この球技大会を機に、派閥が生まれた。私派か、ひなた派か。
くだらない、と内心で思う。そもそも同じ舞台に私を上げないでほしい。
まぁ、悪口の対象が私ではなく石野になったのはいいけれど。
「じゃあまたね!」
「お疲れ様~」
「バイバーイ!」
笑顔で学校を出る。
球技大会があると、放課後の練習があるから家に帰る時間が遅くなっていい。今は彼氏がいないから、寄り道するいいわけにちょうどいいのだ。ふたりとも、保護者として心配しているフリだけはするから。
商店街をふらついていると、正面にうちの制服がちらついた。
おや、と思い見ると、石野だった。なにをしているのだろう、とよくよく観察していると、となりに小さな男の子……がいた。年齢はどれくらいだろう……五歳とか? 子供が好きじゃないから、よく分かんないけど。
「……え、なにあれ」
もしかして隠し子? え、マジ? 石野ってそーゆう感じ? でも、相手は? 瀬野? いや、さすがにそれは……。
ぐるぐる考えていると、私の念に気付いたのか、石野がパッと振り向いた。
「あっ」
……やば。
目が合ったことをなかったことにして顔を背けるが、石野は気にした様子もなく私に駆け寄ってきた。
「タマちゃん!」
逃げたところで明日の朝が面倒なだけだ。ここは軽く立ち話で済ませよう。
「あー……石野さん。偶然だね。こんなところでなにしてるの?」
そのきょとん顔はお決まりなのだろうか。もはやわざとなのではと思い始めてきた。
「私はただの保育園のお迎えと買い物だけど」
「そうなんだ……ねぇ、その子ってもしかして……」
「あ、この子? この子は空太。私の弟」
「弟?」
男の子を見る。たしかに石野に似て目がくりくりとしていて、可愛らしい男の子だ。
「こんにゃちは」
……うん。バカそうなところがソックリ。
「こんにちは」
私は笑顔で挨拶を返した。
「うち母子家庭だから、私が弟の面倒見てるんだ」
「ふぅん……大変だね」
だから帰宅部で、球技大会の練習にも参加しなかったのか。
「それで、タマちゃんはこんなとこでなにしてるの?」
「私は球技大会の練習帰りだけど」
「あ、そういえばそっか。というか、タマちゃんの家って、こっちのほうだったんだね!」
「……ううん」
首を振ると、石野は訝しげに「え?」と首をかしげた。
「……ただ、ちょっと道草食ってただけ。家は居心地が良くないから」
そう言うと、石野は数度瞬きをしてから言った。
「そかそか。じゃあさ、うち来る?」
「え?」
「これからご飯の準備なんだけど、その間空太見ててくれるなら大歓迎だよ!」
「え、いやそれは」
「気にしないで。今日お母さん夜勤でいないし、それに、お客さんがいると空太が大人しくなるからめっちゃ助かる」
「えーお姉ちゃん僕んち来るのー?」
「えっ」
「そうだよ~」
「えっ!?」
「やったぁ!」
「さて、それじゃあ三人で帰ろ~!」
「……えぇ、ちょっと……」
私はなぜか石野の家に招かれることになった。いや、だからなんで。
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