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始業式が終わり、新しい担任の挨拶が終わると、今度は学生の自己紹介の時間になった。挨拶は番号順で、初っ端は石野ひなただった。
「えっと……石野ひなたです。好きなものはお菓子とか? で、きらいなものは朝と勉強と運動? あ、部活は入ってません。学校行事とか委員会は基本不参加希望なので、よろしくお願いしまーす」
……うわ、最悪な挨拶。
石野は相変わらず、超甘々な声でわがまま放題言って席についた。
石野の挨拶に、女子はみんな引いていた。……男子はまぁ……笑顔に見惚れてたけど。
それから数人の自己紹介が終わって、私の番になった。
「鈴賀珠生です。私は部活に入っていないので、高校最後の今年はクラス行事にも積極的に参加して、みんなと楽しく過ごせたらと思っています。よろしくお願いします」
当たり障りなく挨拶を終えて席に着くと、うしろの席の男の子の番になった。
「瀬野湊です。一応サッカー部所属です。よろしく……」
前を向いたまま次の子の挨拶を聞いていると、ふと、となりから視線を感じた。
「ねぇ」
「…………」
「ねぇねぇタマちゃん」
……タマちゃん!?
ぎゅん、と顔を向ける。
「え……なに? ……石野さん」
愛想笑いを浮かべて石野を見る。すると、石野はなぜだかパッと嬉しそうな顔をした。
「私の名前覚えててくれたの!? 嬉しい!」
「あ……うん、まぁね」
「タマちゃんってすごく物覚えいいんだね!」
……バカにされているのだろうか。
「石野、鈴賀。人が自己紹介してるときにしゃべるんじゃない。失礼だろ」
「あ、す、すみません」
謝りながらも、いや、私は喋ってないんだけどと思う。
なんで私まで怒られなきゃなんないの。私は話しかけられただけだし、関係ないし。
じろりと石野を見ると、石野はぺろりと舌を出した。
「怒られちゃったね」
……本当に最悪。
――それからというもの。石野ひなたはことあるごとに私に話しかけてきた。
「ねぇねぇ、タマちゃんて家どのへんなの?」
「ええっと……家は、南のほうかな?」
嘘。テキトーに言った。
「そうなんだ! あ、私のことはひなって呼んでね! タマちゃんっ!」
「……うん。ありがとう」
「タマちゃん、次移動教室だって。一緒に行こぉ」
「…………うん」
「お昼一緒に食べようよ~」
「あ、私、先約があって……」
遠回しに敬遠しているにも関わらず、よくもまぁ石野は懲りずに話しかけてくる。
「ねぇねぇタマちゃん。今日の放課後、クレープ食べに行かない?」
「ごめん、今日は用事が」
「そっかぁ。じゃあ仕方ないね。それなら明日行く?」
やんわり断っても、石野は明日の予定を聞いてくる。
「明日もちょっと……」
「じゃあ来週?」
「うーん……」
もしや、断られているという認識がないのだろうか。
いや、メンタル鋼かよ。
「あっ、数学の教科書忘れちゃったぁ。タマちゃん見せて~」
「えっ」
「先生ぇ~、教科書忘れちゃったので、タマちゃんから見せてもらっていいですかぁ?」
「!?」
私の許可より先に先生に許可を取りやがった。
「仕方ないなぁ。次からは気を付けろよー。あ、それから先生に対する言葉遣いは……」
「はぁい気をつけまーっす」
「……鈴賀、見せてやれ」
「……はい」
「ありがとぉ」
あぁ、もう! まったくもってウザイし、なんなのこの女……!!
新学期が始まってからというもの、出席番号順でとなりの席になってしまった私は、石野ひなたになにかと話しかけられる毎日を過ごしていた。
授業中でもふつうにデカい声で話しかけてくるし、おかげで先生に怒られるし、空気だってぜんぜん読まない。
……今年が高校最後なのに、まったくついてない。
「えっと……石野ひなたです。好きなものはお菓子とか? で、きらいなものは朝と勉強と運動? あ、部活は入ってません。学校行事とか委員会は基本不参加希望なので、よろしくお願いしまーす」
……うわ、最悪な挨拶。
石野は相変わらず、超甘々な声でわがまま放題言って席についた。
石野の挨拶に、女子はみんな引いていた。……男子はまぁ……笑顔に見惚れてたけど。
それから数人の自己紹介が終わって、私の番になった。
「鈴賀珠生です。私は部活に入っていないので、高校最後の今年はクラス行事にも積極的に参加して、みんなと楽しく過ごせたらと思っています。よろしくお願いします」
当たり障りなく挨拶を終えて席に着くと、うしろの席の男の子の番になった。
「瀬野湊です。一応サッカー部所属です。よろしく……」
前を向いたまま次の子の挨拶を聞いていると、ふと、となりから視線を感じた。
「ねぇ」
「…………」
「ねぇねぇタマちゃん」
……タマちゃん!?
ぎゅん、と顔を向ける。
「え……なに? ……石野さん」
愛想笑いを浮かべて石野を見る。すると、石野はなぜだかパッと嬉しそうな顔をした。
「私の名前覚えててくれたの!? 嬉しい!」
「あ……うん、まぁね」
「タマちゃんってすごく物覚えいいんだね!」
……バカにされているのだろうか。
「石野、鈴賀。人が自己紹介してるときにしゃべるんじゃない。失礼だろ」
「あ、す、すみません」
謝りながらも、いや、私は喋ってないんだけどと思う。
なんで私まで怒られなきゃなんないの。私は話しかけられただけだし、関係ないし。
じろりと石野を見ると、石野はぺろりと舌を出した。
「怒られちゃったね」
……本当に最悪。
――それからというもの。石野ひなたはことあるごとに私に話しかけてきた。
「ねぇねぇ、タマちゃんて家どのへんなの?」
「ええっと……家は、南のほうかな?」
嘘。テキトーに言った。
「そうなんだ! あ、私のことはひなって呼んでね! タマちゃんっ!」
「……うん。ありがとう」
「タマちゃん、次移動教室だって。一緒に行こぉ」
「…………うん」
「お昼一緒に食べようよ~」
「あ、私、先約があって……」
遠回しに敬遠しているにも関わらず、よくもまぁ石野は懲りずに話しかけてくる。
「ねぇねぇタマちゃん。今日の放課後、クレープ食べに行かない?」
「ごめん、今日は用事が」
「そっかぁ。じゃあ仕方ないね。それなら明日行く?」
やんわり断っても、石野は明日の予定を聞いてくる。
「明日もちょっと……」
「じゃあ来週?」
「うーん……」
もしや、断られているという認識がないのだろうか。
いや、メンタル鋼かよ。
「あっ、数学の教科書忘れちゃったぁ。タマちゃん見せて~」
「えっ」
「先生ぇ~、教科書忘れちゃったので、タマちゃんから見せてもらっていいですかぁ?」
「!?」
私の許可より先に先生に許可を取りやがった。
「仕方ないなぁ。次からは気を付けろよー。あ、それから先生に対する言葉遣いは……」
「はぁい気をつけまーっす」
「……鈴賀、見せてやれ」
「……はい」
「ありがとぉ」
あぁ、もう! まったくもってウザイし、なんなのこの女……!!
新学期が始まってからというもの、出席番号順でとなりの席になってしまった私は、石野ひなたになにかと話しかけられる毎日を過ごしていた。
授業中でもふつうにデカい声で話しかけてくるし、おかげで先生に怒られるし、空気だってぜんぜん読まない。
……今年が高校最後なのに、まったくついてない。
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