私だけの王子様。

朱宮あめ

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 新しい季節が来た。
 少し窮屈な制服に身を包んだ私は、重い足を動かしながら使い慣れた駅へと向かう。電車に乗り込むと、私と同じ制服を着た学生たちがちらほらと見える。その中には、知らない顔もあった。新一年生だろうか。
 車窓の外には、まだ目覚めたばかりの太陽と街並みが広がっている。
 春。まるで街全体が淡いピンク色に染まっているようで、眩しい季節。
 今日から新学期だ。
「おはよ、タマ」
 ぼんやりと流れる景色を見ていると、ふと顔に影が落ちた。正面へ視線を向けると、私と同じ制服を大胆に着崩した女子がいた。彼女の名前は青山あおやまめぐ。アイメイクの濃い化粧と明るいオレンジ髪が、彼女のトレードマークである。
「メグ。おはよう」
 メグは私の隣に座ると、カバンから鏡を取り出し、前髪を整え始める。
「あ、そだ。ねぇタマ、迷倫めいりん高の彼と別れたって本当?」
「あー……うん」
「なんで? 結構イケメンだったのに」
「うーん、すれ違っちゃったのかなぁ……分かんないけど、私が悪いんだ」
 嘘。私は一ミリも悪くない。単に相手が嫉妬深くて面倒だったから別れた。それだけ。
「タマが可愛過ぎるから、きっと過保護になっちゃうんだよ~」
 そう言うメグは、どこか揶揄やゆするような視線を私に向けた。
 どうせ、すっぴんはそうでもないのになぁとか思ってるんだろう。
 べつに、好きに思えばいい。仮にそうだとしたって、あんたよりはマシなんだから。
「タマが彼氏と別れたって学校で知れたら、また男子の争奪戦が始まるかもねぇ」
 私はメグの言葉を笑って流した。
 私は、世間一般で言うところの美人に分類される。勉強もそこそこできるし、運動もきらいじゃない。おまけに人当たりもいいから、男女問わずよくモテるし学校では人気者。
 ……だけど。
 私はまだ、だれかを好きになったことはない。
 告白されて、これまで何人かの男の子と付き合ってみたものの、みんなつまらなかった。
 手を繋いでもぜんぜんどきどきしないし、話をしていてもつまらない。
 そして、私がつまらない顔をしていると、相手も気を遣い始めて、どんどん空気が悪くなってくる。その結果、相手の執着が強くなり、息苦しくなって、私のほうから別れを告げることが多かった。
 結局私は、モテる私が好きなだけで、男の子が好きなわけではなかった。
 でもそれは、付き合った男の子が私に見合ってないだけ。私はなにも悪くない。
 電車が最寄り駅に着き、学校へ向かう。
「あ、タマちゃんおはよー」
 校舎に入るなり、金髪ロン毛の女子が駆けてきた。彼女も二年のとき同じクラスだった斎藤さいとう遥香はるかだ。
「ねぇ見た? 見た? クラス」
「まだ」
「私、タマとメグとべつのクラスだった~」
「そうなんだぁ。残念だね」
 内心、よかったと思いながらクラス分けの表を見る。
 名前を探してみると、私は四組だった。これまで仲が良かったふたりとは、完全に別れてしまった。別にどうでもいいけど。
 ……そんなことより、だ。
「タマ、何組だった?」
「……四組」
 クラス表を見上げたまま、端的に答える。
「私は三組。全員バラバラだぁ」
「まぁ、二年のとき結構派手に遊んだしね。バラバラにされるとは思ってたわ」
「ってそれよりタマ、石野いしのと同じクラスじゃん」
 クラス表、四組の一番上に『石野ひなた』とある。
「……石野……さん?」
「あの顔だけの女だよ! 性格超悪いやつ!」
「あぁ……」
 知ってる。
 石野ひなた。学校で一番可愛いとか言われて、男子からチヤホヤされてる女。
 たしかに、顔は可愛い。それは私も認める。
 ただし、ワガママで空気が読めなくて協調性がないから、女子からはすこぶる嫌われているのだ。
 私は、私より目立つ女はきらい。可愛い子もきらい。特に、石野ひなたみたいなタイプはこの世のなによりきらいだ。
 高校最後の年なのに、なんてついてないのだろう。とにかく、この一年は絶対かかわらないようにしよう。
 階段を上がったところでふたりと別れ、新しい教室に入る。教卓で座席を確認すると、私の席は窓際から二列目の一番前だった。
 ……うしろがよかったな。これじゃ後ろの子の視線があるしサボれないじゃん。
 席につき、カバンからペンケースを取り出していると、ガタンと隣の席の椅子が引かれた。
「……あ」
 見ると、例のあの子とかちりと目が合う。
「おとなりさんだぁ。よろしくね!」
 甘ったるい声だった。
「……うん。よろしくね、石野さん」
 咄嗟に笑みを作って返し、さっと視線を外した。
 ……マジで最悪。
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