1 / 12
1
しおりを挟む新しい季節が来た。
少し窮屈な制服に身を包んだ私は、重い足を動かしながら使い慣れた駅へと向かう。電車に乗り込むと、私と同じ制服を着た学生たちがちらほらと見える。その中には、知らない顔もあった。新一年生だろうか。
車窓の外には、まだ目覚めたばかりの太陽と街並みが広がっている。
春。まるで街全体が淡いピンク色に染まっているようで、眩しい季節。
今日から新学期だ。
「おはよ、タマ」
ぼんやりと流れる景色を見ていると、ふと顔に影が落ちた。正面へ視線を向けると、私と同じ制服を大胆に着崩した女子がいた。彼女の名前は青山愛。アイメイクの濃い化粧と明るいオレンジ髪が、彼女のトレードマークである。
「メグ。おはよう」
メグは私の隣に座ると、カバンから鏡を取り出し、前髪を整え始める。
「あ、そだ。ねぇタマ、迷倫高の彼と別れたって本当?」
「あー……うん」
「なんで? 結構イケメンだったのに」
「うーん、すれ違っちゃったのかなぁ……分かんないけど、私が悪いんだ」
嘘。私は一ミリも悪くない。単に相手が嫉妬深くて面倒だったから別れた。それだけ。
「タマが可愛過ぎるから、きっと過保護になっちゃうんだよ~」
そう言うメグは、どこか揶揄するような視線を私に向けた。
どうせ、すっぴんはそうでもないのになぁとか思ってるんだろう。
べつに、好きに思えばいい。仮にそうだとしたって、あんたよりはマシなんだから。
「タマが彼氏と別れたって学校で知れたら、また男子の争奪戦が始まるかもねぇ」
私はメグの言葉を笑って流した。
私は、世間一般で言うところの美人に分類される。勉強もそこそこできるし、運動もきらいじゃない。おまけに人当たりもいいから、男女問わずよくモテるし学校では人気者。
……だけど。
私はまだ、だれかを好きになったことはない。
告白されて、これまで何人かの男の子と付き合ってみたものの、みんなつまらなかった。
手を繋いでもぜんぜんどきどきしないし、話をしていてもつまらない。
そして、私がつまらない顔をしていると、相手も気を遣い始めて、どんどん空気が悪くなってくる。その結果、相手の執着が強くなり、息苦しくなって、私のほうから別れを告げることが多かった。
結局私は、モテる私が好きなだけで、男の子が好きなわけではなかった。
でもそれは、付き合った男の子が私に見合ってないだけ。私はなにも悪くない。
電車が最寄り駅に着き、学校へ向かう。
「あ、タマちゃんおはよー」
校舎に入るなり、金髪ロン毛の女子が駆けてきた。彼女も二年のとき同じクラスだった斎藤遥香だ。
「ねぇ見た? 見た? クラス」
「まだ」
「私、タマとメグとべつのクラスだった~」
「そうなんだぁ。残念だね」
内心、よかったと思いながらクラス分けの表を見る。
名前を探してみると、私は四組だった。これまで仲が良かったふたりとは、完全に別れてしまった。別にどうでもいいけど。
……そんなことより、だ。
「タマ、何組だった?」
「……四組」
クラス表を見上げたまま、端的に答える。
「私は三組。全員バラバラだぁ」
「まぁ、二年のとき結構派手に遊んだしね。バラバラにされるとは思ってたわ」
「ってそれよりタマ、石野と同じクラスじゃん」
クラス表、四組の一番上に『石野ひなた』とある。
「……石野……さん?」
「あの顔だけの女だよ! 性格超悪いやつ!」
「あぁ……」
知ってる。
石野ひなた。学校で一番可愛いとか言われて、男子からチヤホヤされてる女。
たしかに、顔は可愛い。それは私も認める。
ただし、ワガママで空気が読めなくて協調性がないから、女子からはすこぶる嫌われているのだ。
私は、私より目立つ女はきらい。可愛い子もきらい。特に、石野ひなたみたいなタイプはこの世のなによりきらいだ。
高校最後の年なのに、なんてついてないのだろう。とにかく、この一年は絶対かかわらないようにしよう。
階段を上がったところでふたりと別れ、新しい教室に入る。教卓で座席を確認すると、私の席は窓際から二列目の一番前だった。
……うしろがよかったな。これじゃ後ろの子の視線があるしサボれないじゃん。
席につき、カバンからペンケースを取り出していると、ガタンと隣の席の椅子が引かれた。
「……あ」
見ると、例のあの子とかちりと目が合う。
「おとなりさんだぁ。よろしくね!」
甘ったるい声だった。
「……うん。よろしくね、石野さん」
咄嗟に笑みを作って返し、さっと視線を外した。
……マジで最悪。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

僕《わたし》は誰でしょう
紫音
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
タカラジェンヌへの軌跡
赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら
夢はでっかく宝塚!
中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。
でも彼女には決定的な欠陥が
受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。
限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。
脇を囲む教師たちと高校生の物語。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。
たかなしポン太
青春
【第7回カクヨムコンテスト中間選考通過作品】
本編完結しました!
「どうして連絡をよこさなかった?」
「……いろいろあったのよ」
「いろいろ?」
「そう。いろいろ……」
「……そうか」
◆◆◆
俺様でイメケンボッチの社長御曹司、宝生秀一。
家が貧しいけれど頭脳明晰で心優しいヒロイン、月島華恋。
同じ高校のクラスメートであるにもかかわらず、話したことすらなかった二人。
ところが……図書館での偶然の出会いから、二人の運命の歯車が回り始める。
ボッチだった秀一は華恋と時間を過ごしながら、少しずつ自分の世界が広がっていく。
そして華恋も秀一の意外な一面に心を許しながら、少しずつ彼に惹かれていった。
しかし……二人の先には、思いがけない大きな障壁が待ち受けていた。
キャラメルから始まる、素直になれない二人の身分差ラブコメディーです!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる