僕のわんだふる物語

朱宮あめ

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最終話

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 そして、駐屯地を出て、車に乗り込もうとしたとき。
「レイ!」
 おじさんに大きな声で名前を呼ばれて、振り向いた。

 おじさんは、顔をくしゃくしゃにして叫んだ。

「レイ! おまえは……おまえは、間違いなく俺の中のナンバーワンだ! 今までよく頑張った! 達者でな!」

 ――おじさん……おじさんっ!

 僕は我慢できなくなって、大きくしっぽを振り回しながらおじさんに飛びついた。

「レイ! こら、この甘えん坊め」
「わんっ! わんっ!」

 笑いながら目元を押えるおじさんを見て、そのにおいを嗅いで、ようやく気付く。

 ――あぁ。
 僕は、なんて幸せだったんだろう。まひるちゃんや、パパやママを失ったあの日から、ずっとひとりぼっちだと思っていた。
 けれど、違ったんだ。
 僕はずっと、ひとりじゃなかった。おじさんがずっと僕の居場所になってくれていたんだ。
 おじさんだけじゃない。ほかにも、いろんなひとに助けられて、ここまで生きてきたんだ……。
 今さらになって気が付くなんて。
 ねぇ、おじさん、まひるちゃん、パパ、ママ。
 安心して。
 僕はこれからもちゃんと生きるよ。
 僕を家族に迎えてくれたひとたちが、もう泣かなくて済むように。笑っていられるように。
 いつかお迎えが来るその日まで、必ず守りきるからさ。
 だから心配しないでね。

 青々とした真昼の空に君を想いながら、僕は一度だけ、「わん」と泣いた。
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みんなの感想(2件)

衿乃 光希
2024.07.18 衿乃 光希
ネタバレ含む
朱宮あめ
2024.07.18 朱宮あめ

衿乃 光希さま、はじめまして。
素敵な感想ありがとうございます!!
衿乃さまもわんちゃん飼っていらっしゃるんですね🐶どんな子だろう🥰
実は私もわんちゃんを二匹飼っていて3.11も経験していたので、このお話は特に思い入れのあるものでした。
読んでいただけて感無量です!ありがとうございました!!

解除
kokekokko
2024.07.18 kokekokko

一気に読んだんですけど、もう最初から涙が止まらなくて止まらなくて。切なくて温かくてほんわかで。。

胸がジーンとしたままです。素敵な作品をありがとうございました。

朱宮あめ
2024.07.18 朱宮あめ

kokekokkoさま、はじめまして。
素敵な感想ありがとうございます。

このような感想をいただけただけでも、書いた甲斐がありました!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!!

解除

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