僕のわんだふる物語

朱宮あめ

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第2話

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 ようやく大地が鎮まった頃、僕はよろよろと立ち上がった。

 瓦礫がれき、瓦礫、瓦礫。

 目の前にあるのはたしかに僕の家のはずなのに、僕の目に映っているのは、まったく知らない世界だった。

 なにかが焦げたようなにおい。なまぐさいような、気持ちの悪いにおい。……それから、血のにおい。

 まるで地獄絵図じごくえずだ。こんな世界、僕は知らない。
 震える足を無理やり動かし、僕は懸命にみんなを探した。

 ――パパ……ママ、まひるちゃん……どこ?

 しばらく探し回ってようやく見つけた僕の家族は、瓦礫の下に埋もれて身動きが取れない状態だった。

 ――ママ、パパ! まひるちゃん!

 いくら呼びかけてもぴくりとも動かない。

 ――どうして? みんなっ……! 目を開けて。お願いだよ。

 声が震える。
 おそるおそる、瓦礫の下からわずかに出ているまひるちゃんの小さな手に触れる。
 まひるちゃんの手は、いつもと違ってひんやりとしていた。

 全身が震えた。

 ――そんな、嘘だ……。こんなの嘘だ。ねぇ、だれか嘘だと言ってよ。だれか、助けてよ。ねぇ……っ!

「そこにだれかいるのか!?」

 必死に声をかけ続けていると、迷彩服めいさいふくを着た男のひとたちが駆けつけた。

 ――いるよ! 僕の家族はここだよ! お願い、まひるちゃんたちを助けて!

要救助者ようきゅうじょしゃ発見!」
「急げ!」

 ――よかった。これでみんな助かる。

 ホッとしたのも束の間、まひるちゃんに駆け寄った迷彩服のおじさんは、力なくその場に座り込んだ。

「……ダメだ。この家のひとたちはもう……」

 駆けつけたレスキューは、まひるちゃんたちを瓦礫の下から救助したものの、悲しそうに首を横に振った。
 袋のようなものに入れられ、運ばれていくまひるちゃんたちを見て、僕は呆然と立ち尽くす。

 ――どういうこと? どうして、そんな袋にまひるちゃんを入れるの? ねぇ。やめてよ。そんなところに入れたらみんなが苦しがるよ。まひるちゃんは暗いのだめなんだよ。怖がるんだよ。だから、そんな袋入れちゃだめ。早く出して。出してあげてよ。

「家族を助けてやれなくて、ごめんな……」

 僕に気付いたおじさんがやってきて、わんわんと泣きじゃくる僕をなだめる。
 僕はその手を振り切って、まひるちゃんにすがりついた。

 ――まひるちゃん! まひるちゃん! なんでよ……? なんで動かないの? みんな、さっきまで元気だったじゃないか。それなのに、なんで……。

「おいこら、落ち着け。……なんだ、おまえも怪我してるじゃないか。ほら、こっちへおいで。手当しよう」

 僕はその場に崩れ落ちた。
 突然大地を揺らしたそれは、一瞬で僕の大切な家族を、家を、暮らしのすべてを奪った。

 僕は、訳が分からなかった。

 ――ねぇ、どうしてみんな動かないの? どうして僕だけ生きてるの……? だれか、教えて。ねぇ、だれか……っ!

「隊長、その子は」
 ふと、だれかの話し声が聞こえた。
「さっき救助した家族の生き残りだろう。怪我をしてるみたいだから、手当を頼む」
「はい」

 隊長と呼ばれたそのひとは、新たに現れた男のひとに僕を紹介した。

「よしよし、もう大丈夫だぞ」

 顔を上げると、顔を泥だらけにしたおじさんが、優しい顔で僕を見下ろしていた。

可哀想かわいそうに……痛かっただろう。怖かっただろう。すぐに手当してやるからな」

 おじさんは僕を軽々と抱き上げ、優しく頭を撫でてながら歩き出す。
 頭がぼーっとするなかで、僕はおじさんに懸命に訴える。

 ――ねぇ、おじさん。僕なんかより、まひるちゃんを……パパとママを助けて。僕は大丈夫だから、まひるちゃんたちを助けてよ。お願いだよ。諦めないでよ。きっとまだ生きてるから。だから……っ!

 おじさんの腕の中で、僕ははちゃめちゃに泣き叫ぶ。

「そうかそうか、怖かったな。もう大丈夫だからな」

 おじさんは慌てることなく、僕をなだめながら救護テントへ足を進めた。テントに入ると、お姉さんが僕の傷口を優しく手当してくれた。

「こんなに汚れちゃって可哀想に……怖かったでしょうね。でも、もう大丈夫よ」

 おじさんもお姉さんも、みんな優しい声で僕の頭を撫でてくれる。

 それがもどかしくて、悲しくて、胸がぎゅっとした。

 ――僕は大丈夫なのに。みんなのほうが痛いのに……。

 そう言いたいのに、声が出ない。今さらになって痛みがひどくなってきた。

 ――まひるちゃんのことは、僕が守らなくちゃいけなかったのに。パパとママと約束したのに。それなのに僕は、自分だけ助かってしまった。大切な家族を犠牲にして……。
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