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第8話
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「……様、お嬢様っ!」
切羽詰まった声に、ハッと意識が覚醒する。
目の前に、アルトがいた。
目が合うと、たちまちアルトはホッとしたように息を吐く。
放心状態のまま、周囲を見る。見知らぬ一室。あちこち身体が痛くて、ハッとする。
そうだ、あたしは誘拐されていたのだった。
でもなんで、ここにアルトがいるのだろう。
誘拐犯がどうにかして知らせてくれたのかと思ったが、そんな危険なことはしないだろう。
すると、あたしの疑問を察したかのようにアルトが言う。
「お嬢様が部屋にいらっしゃらなかったので、GPSで位置を調べさせて頂いたんです」
「ジー……は? なにそれ?」
「あぁ、えっと……お嬢様が今どこにいるのかを教えてくれる魔法のようなアイテムです」
眉を寄せると、アルトが簡潔に説明した。
「なにそれ。おじい様が新しく開発したアイテム?」
「いえ、開発したのは私です」
「初めて聞いたけど」
「お嬢様専用に使うつもりでしたので、会長と話し合い、世間には公にしていないんです」
「……あんた、魔術師かなんかだったの?」
「まさか。異能もレベルもゼロのおじさんですよ」
にこりと笑うアルトからは、胡散臭さが滲み出ていた。
「……でもあたし、そんなアイテム身につけた覚えないわよ?」
「靴の裏に付けておいたんですよ」
「えっ!?」
思わず靴を脱いでひっくり返す。……が、なにもない。睨むようにアルトを見る。
「中に埋め込んであるのです。だれにもバレないように」
「今度は詐欺師?」
「まさか」
アルトがにこりと笑った。
「それより、なにもされてませんか?」
「……うん」
手際よく縄を解くアルトを、じっと見つめる。
初めてアルトの顔をじっくり見たような気がした。
なんかちょっとかっこよく見えてしまうのは、気のせいだろうか。
ふと目が合い、慌てて目を逸らす。
「……あ、あたしを捕まえた奴らは?」
「捕まえましたよ。ディスワード家お抱えの隠密部隊が」
「なにそれ。うち、そんなのいたの?」
「私が提言して作らせました」
なんだそれ。初耳なんだけど。
「……てかあんた、何者?」
「お嬢様の執事兼ボディーガードです」
胡散臭さMAXなんだが。
「……というか早く逃げないと」
「ご安心ください。火事もフェイクです。真正面から乗り込むより安全かと思いまして」
「はぁ……」
意外な一面に呆気に取られていると、縄が解けて窮屈さが消えた。
「さて。とりあえずここから出ましょう。立てますか?」
「……うん」
手を差し伸べられ、その手を取る。足に力を入れると、くらりとした。
「わっ」
バランスを崩したあたしを、アルトが支える。大きな手が、思いの外力強くあたしを抱き寄せた。
身体が密着した。ハッとして、息を詰める。
「……大丈夫ですか? お嬢様」
「……ご、ごめんなさい。腰が抜けちゃったみたい」
みっともなくて、恥ずかしくて、耳まで熱くなる。
座り込んだあたしの前に、アルトがしゃがみこむ。ぽん、と頭の上に大きな手が乗った。
「怖かったでしょう。よく頑張りましたね」
アルトは優しく、
「帰りましょう」
と言いながらあたしをお姫様抱っこすると、アルトは気遣うようにゆっくりと立ち上がった。
「ちょっ……降ろして!」
「暴れないでください、歩けないんでしょう?」
恥ずかしさを堪え、あたしはアルトから顔を背ける。
「ところでお嬢様」
「……なに」
「クビの件……なかったことになりませんか? 私、今職を失くすとちょっと困るといいますか……」
「大失態犯しておいて、なに言ってるわけ? あんたなんか即刻クビに決まってるでしょ」
「ですよね」
はは、とアルトは笑う。
切羽詰まった声に、ハッと意識が覚醒する。
目の前に、アルトがいた。
目が合うと、たちまちアルトはホッとしたように息を吐く。
放心状態のまま、周囲を見る。見知らぬ一室。あちこち身体が痛くて、ハッとする。
そうだ、あたしは誘拐されていたのだった。
でもなんで、ここにアルトがいるのだろう。
誘拐犯がどうにかして知らせてくれたのかと思ったが、そんな危険なことはしないだろう。
すると、あたしの疑問を察したかのようにアルトが言う。
「お嬢様が部屋にいらっしゃらなかったので、GPSで位置を調べさせて頂いたんです」
「ジー……は? なにそれ?」
「あぁ、えっと……お嬢様が今どこにいるのかを教えてくれる魔法のようなアイテムです」
眉を寄せると、アルトが簡潔に説明した。
「なにそれ。おじい様が新しく開発したアイテム?」
「いえ、開発したのは私です」
「初めて聞いたけど」
「お嬢様専用に使うつもりでしたので、会長と話し合い、世間には公にしていないんです」
「……あんた、魔術師かなんかだったの?」
「まさか。異能もレベルもゼロのおじさんですよ」
にこりと笑うアルトからは、胡散臭さが滲み出ていた。
「……でもあたし、そんなアイテム身につけた覚えないわよ?」
「靴の裏に付けておいたんですよ」
「えっ!?」
思わず靴を脱いでひっくり返す。……が、なにもない。睨むようにアルトを見る。
「中に埋め込んであるのです。だれにもバレないように」
「今度は詐欺師?」
「まさか」
アルトがにこりと笑った。
「それより、なにもされてませんか?」
「……うん」
手際よく縄を解くアルトを、じっと見つめる。
初めてアルトの顔をじっくり見たような気がした。
なんかちょっとかっこよく見えてしまうのは、気のせいだろうか。
ふと目が合い、慌てて目を逸らす。
「……あ、あたしを捕まえた奴らは?」
「捕まえましたよ。ディスワード家お抱えの隠密部隊が」
「なにそれ。うち、そんなのいたの?」
「私が提言して作らせました」
なんだそれ。初耳なんだけど。
「……てかあんた、何者?」
「お嬢様の執事兼ボディーガードです」
胡散臭さMAXなんだが。
「……というか早く逃げないと」
「ご安心ください。火事もフェイクです。真正面から乗り込むより安全かと思いまして」
「はぁ……」
意外な一面に呆気に取られていると、縄が解けて窮屈さが消えた。
「さて。とりあえずここから出ましょう。立てますか?」
「……うん」
手を差し伸べられ、その手を取る。足に力を入れると、くらりとした。
「わっ」
バランスを崩したあたしを、アルトが支える。大きな手が、思いの外力強くあたしを抱き寄せた。
身体が密着した。ハッとして、息を詰める。
「……大丈夫ですか? お嬢様」
「……ご、ごめんなさい。腰が抜けちゃったみたい」
みっともなくて、恥ずかしくて、耳まで熱くなる。
座り込んだあたしの前に、アルトがしゃがみこむ。ぽん、と頭の上に大きな手が乗った。
「怖かったでしょう。よく頑張りましたね」
アルトは優しく、
「帰りましょう」
と言いながらあたしをお姫様抱っこすると、アルトは気遣うようにゆっくりと立ち上がった。
「ちょっ……降ろして!」
「暴れないでください、歩けないんでしょう?」
恥ずかしさを堪え、あたしはアルトから顔を背ける。
「ところでお嬢様」
「……なに」
「クビの件……なかったことになりませんか? 私、今職を失くすとちょっと困るといいますか……」
「大失態犯しておいて、なに言ってるわけ? あんたなんか即刻クビに決まってるでしょ」
「ですよね」
はは、とアルトは笑う。
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