わがまま令嬢は、ある日突然不毛な恋に落ちる。

朱宮あめ

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第7話

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 バタン、と扉が閉まる音がする。
 バタバタと忙しない足音が消えると、微かに焦げた匂いがしてきた。

 男たちは結局誘拐の成果なしのまま、あたしを置き去りにして扉から出ていったようだった。
 ご苦労なことだ。

 取り残されたあたしは、ぽつりと呟く。

「……結局、死ぬのか」

 どうせなら目隠しくらい取ってくれたって良かったのに。

「……まぁいいや」

 これで、両親の元へ行ける。親友に会える。

「……みんな、あたしのこと覚えてるかな」

 両親は七歳までのあたししか知らない。大人になったあたしを見て、じぶんたちの娘だと気付くだろうか。今さらだけど、両親はあたしを愛していたのだろうか。

 親友もだ。あたしと一緒にいなければ、あの子は死なずに済んだ。
 ……恨んでいるのではないだろうか。

 あたしの死を悼むひとは、この世に何人いるだろう。
 これまで関わってきたクラスメイトにもボディガードにも、さんざん酷い言葉を投げ付けた。

 当然の報いだ。あたしに相応しい死に様だ。
 
 助けには来ないだろう。
 屋敷を出ることも誘拐の事実すら知らないのだから。

 ひとつだけ、心残りがあるとすれば……。
 脳裏を掠めるのは、おじさんの顔。

「アルトには申し訳ないことをしたな……」

 直接言えないから、小さく呟く。
「ごめんね、アルト。ひどいことたくさん言って、ごめん」

 死が迫っているというのに、心は驚くほど凪いでいた。

「こんなときまで、死んだ心は戻らないんだな……」

 すぅっと大きく空気を吸い込み、目を瞑った。
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