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第4話
しおりを挟むそれからまた、沈黙が続いた。こういうとき、いつもならアルトがしょうもない話を始めるのだが、今日に限ってはなぜか無口で、そんなもんだから、あたしはあまり落ち着かない。
だから、だ。あたしはじぶんでも驚くようなことを口走った。
車が屋敷に着く直前、
「あのさ」
「はい」
バックミラー越しに、アルトと目が合う。
「もし……私があんたのことを好きになりたいって言ったら、どうする?」
急ブレーキの音がけたたましく鳴り響く。
がくん、とシートベルトに身体がめり込んだ。
アルトは、危うくハンドル操作を誤りかけた。
***
『あのさ、もし……私があんたのこと好きになりたいって言ったら、どうする?』
なんで、あんなことを言ったんだろう。
じぶんでじぶんが分からなくて困惑した。
部屋に入って、頭を抱えた。しばらく勉強なんて手につかなかった。
なんであんなことを言ったのかいくら考えても分からなくて、結論としてあたしは考えることを放棄した。
それからというもの、あたしはさらにアルトへの態度を悪くした。
でも、アルトのほうは変わらなかった。
あたしがどんなわがままを言っても、困ったように笑うだけ。それがさらにあたしの心をざわつかせるから腹が立つ。
「お嬢様、よろしければティータイムをなさいませんか。お嬢様がお好きだと会長から聞いて、取り寄せてみたスイーツがあるんです」
「いらない」
すかさず言うと、アルトは少し残念そうにジャムたっぷりのクッキーを下げた。
「……失礼いたしました。ご気分ではありませんでしたね」
「そんなものより、チーズケーキが食べたい。買ってきて。今すぐ」
アルトの顔に、パッと歓喜の色が灯る。
「かしこまりました」
揚々と部屋を出ていくアルトの背中を見つめていたら、胸がちくりとした。
でも、じぶんの衝動が止められない。
「こんなのいらない!」
がちゃん! と皿が割れる甲高い音が部屋に響く。
アルトは床にちらばったぐちゃぐちゃのチーズケーキを困惑気味に見つめた。
「ですが、お嬢様がチーズケーキが食べたいと……」
「あたしは、ルビーファクトリーの限定のヤツしか食べないの! あんたあたしの執事でしょ! なにが引き継ぎよ! なにも分かってないじゃない!」
アルトがハッとした顔をする。
「申し訳ありません。すぐに買い直してきます」
「いい! もういらない!」
「お嬢様……」
ベッドに潜り込み、丸くなる。
「申し訳ございません」
かすかにため息が聞こえ、直後扉が閉まる小さな音がした。
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