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第7章・背中合わせの家族
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しおりを挟む「じゃあ、お母さんとお姉さんと仲直りできたんだ?」
「うん、音無くんのおかげでちゃんとじぶんの気持ち話せたよ」
朝。
教室で私は、音無くんと恒例の朝勉をしていた。
「いや、べつに俺は関係ないでしょ。清水が勇気出したからできたことだよ」
「ううん、そんなことない。音無くんがいなかったらきっと、私は話そうとすら思わなかったもん」
ひとりで考え込んで、勝手な解釈で結論付けて、お姉ちゃんとだけでなく、お母さんともずっとすれ違ったままだっただろう。
お母さんが私のことをどう思ってるのかも、きっと知らないままだった。
「……私ね、これまでちょっと、お母さんの喋り方苦手だったんだ。感情がこもってなくて威圧的っていうか……ちょっと責められてるような気がして。でも、今はそんなに気にならなくなった」
きっと、お母さんの本音を垣間見たからだ。
正直な胸の内を話すと、私のほうへ身体を向けていた音無くんが嬉しそうに口角を上げた。
「そっか」
「本当にありがとう」
「どういたしまして。てかそれよりこれ、本当にもらっていいの?」
私があげたクラゲのチャームを顔の前に翳して、ご機嫌な様子で訊く。
「うん。昨日、お姉ちゃんと水族館行ったから、そのお土産。えのすいって初めて行ったけど、すごく楽しいね!」
興奮気味に伝えると、音無くんはすうっと目を細めた。
「水族館かぁ。俺は小学校の遠足以来行ってないなぁ」
「えっ、ほんと? じゃあ行こうよ! 今度ふたりでとか……」
流れるように、自然と口から飛び出していた。
音無くんが「えっ」と驚いた顔をする。
その顔を見て、我に返った。一気に顔が熱くなる。
「あっ……いや、ごめん。ふたりでとか付き合ってもないのにおかしいよね! ごめんごめん、今のは忘れて!」
なんとか笑って誤魔化そうと試みるが、音無くんは本気に捉えたようで、ぽりぽりと恥ずかしそうに頬をかいていた。
「いや……まぁ、たしかにふたりでってのは、ちょっと緊張するよな」
それは、遠回しな拒絶だった。
沸騰寸前だった心臓が、一転、氷水の中に突き落とされたような気分になる。
「……だ、だよね……はは」
いたたまれなくなって、私は勢いよく立ち上がった。
「私、ちょっと飲み物買いに行ってくる! 今日はもう解散にしよっ」
私は早口でそう言うと、逃げるように教室を出た。
「えっ、ちょっと清水!?」
背中に音無くんの声がしたけれど、私は立ち止まることなく、教室を飛び出した。
その勢いのまま、階段を駆け下りる。静かな廊下にどこまでも響くひとつの足音が、虚しさを増幅させる。
階段の踊り場のところまで来ると、私の足は途端に勢いを失った。
階段の手すりに掴まったまま、項垂れるようによろよろとしゃがみ込んだ。
切れる息を整えながら、ぎゅっと目を瞑る。
――どうしよう、言っちゃった。
最後に見た音無くんの困った顔が、頭から離れない。
きっと、ドン引きされた。一度告白を断っておきながら、水族館に誘うなんて無神経過ぎる。きっとそう思われたに違いない。
朝勉は音無くんにとっても利益があるからいいけれど、休日に会うのは違う。
好き合ってるひと同士がすることだ。
私たちは、付き合ってるわけでもないのに。
「……はぁ。最悪」
……カフェオレでも飲んで気持ちを落ち着けよう、と立ち上がり、階段をとぼとぼ降りる。
みんなが来た頃教室に戻って、なにごともなかったようにしていれば、きっと音無くんもそれ以上追求はして来ないだろう。
私は、自動販売機がある渡り廊下へ向かった。
自動販売機の前に立って、上から二段目にあるカフェオレのボタンを押した。
ガコン、と音がして、私は取り出し口に落ちてきたカフェオレを手に取る。
その場でストローを刺して一口飲むと、甘い液体が喉に絡みついた。
久々に飲んだカフェオレの甘さに、一瞬ひるんで眉を寄せる。
……やっぱり、コーヒーにすればよかったかもしれない、なんて思いながらもちびちびカフェオレを飲んでいると、
「おっ、カフェオレか。いいなー、俺もそれにしよっかな」
突然声がして、私はギクッと肩を揺らした。
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