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第5章・本当の友だち
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部屋に戻り、美里と葉乃と三人のメッセージグループに、『ごめん。やっぱり用事入ってたから行けそうにない』と送る。
すぐに既読がついて、
『しゃーない』
『じゃあ別の日に三人でどこか行こうよ。いつなら平気?』
ふたりの優しさに嬉しくなるけれど、それでは星カフェの店主さんのお店に行けなくなってしまう。
『私はいいから、ふたりで行ってきてよ。月曜に感想聞きたいし!』
送信してアプリを閉じる。
ふう、と息を吐くが、いらいらは抜けない。
私はお姉ちゃんとは違う。お姉ちゃんと一緒にしないでよ。
それに、私は勉強のためだけに学校に行っているわけじゃない。
どうしてあのとき、そう言い返せなかったんだろう。
――私っていつもそう。
頭に血が上ると、言葉が出なくなる。なにも言い返せなくなってしまう。
お姉ちゃんにも指摘されたばかりだ。
――変わりたくても、なかなか変われないものだなぁ……。
なんとなく、音無くんの声が聞きたくなってスマホを開くと、メッセージアプリに通知が来ていた。
『今なにしてる?』
音無くんからのメッセージに心が浮き足立つ。
『ちょうど美里たちと勉強会から帰ってきたとこ』
『電話していー?』
『うん』
返信してすぐ、スマホが振動した。
「もっ……もしもし!」
『あ、清水?』
スマホを耳に当てると、音無くんの低い声が聞こえてくる。
「うん……」
『なんか声暗くない? また後藤たちとなんかあったの?』
「ううん。お母さんと喧嘩っていうか……ちょっと揉めて」
『あぁー』
察したように音無くんが相槌を打つ。
「そういえば今週末、乾多で野外シアターやるんだね。音無くん行くの?」
『俺は行かないかな。清水は行くの?』
「美里と葉乃に誘われたから私も行きたかったんだけど、門限過ぎちゃうからダメって親に言われて」
『あぁ、それで喧嘩になったのね』
「うん……音無くんちは門限とかある?」
『うちは放任主義だから、べつに帰り遅くなってもなにも言われないかな』
「いいなぁ。羨ましい」
『そうか? 俺はなんとなく門限って憧れるけどな』
「えっ、なんで?」
ないほうが自由なのだから、ぜったいにいいのに。
『だって、心配されてるって感じしない?』
「心配……」
そうなのだろうか。少し考えて、首を振った。
「違うよ。ぜったい、私が勉強もしないで遊びに行くのが気に食わないだけだよ」
きっとそうだ。お母さんは、私のことなんて愛していない。
『そうかなぁ』
「愚痴っちゃってごめんね。明日も朝早く行く?」
『うん。そのつもり』
「じゃあ、私も行く。今回数学がついていけなくなりそうで怖くて」
『え、マジ? じゃあ今からする?』
「えっ、今から?」
音無くんのくすくすという笑い声が、スマホを通じて聴こえてくる。
『うん。どうせ今暇だし』
「それいい! 同じ問題やっていけば、分からないところ教え合えるもんね!」
『どこが分からない? 清水が気になってるところからやろーぜ』
「じゃあ七十三ページの問三から……」
――なんでだろう。
音無くんと話している時間は、勉強している時間ですら心が踊る。
音無くんと一緒だと勉強すら楽しくて、音無くんに会えると思うと学校に行かなきゃならない平日の朝が待ち遠しくて仕方がない。
「ねぇ、これからもこうやって電話できる?」
電話を切る直前、私は音無くんに訊ねた。訊かずにはいられなかった。
『いいよ。案外捗ったしね。俺も助かる』
「本当? じゃあ、またね」
『うん、また明日』
音無くんとの通話を終えてからも、私の心はしばらく浮き足立っていた。
すぐに既読がついて、
『しゃーない』
『じゃあ別の日に三人でどこか行こうよ。いつなら平気?』
ふたりの優しさに嬉しくなるけれど、それでは星カフェの店主さんのお店に行けなくなってしまう。
『私はいいから、ふたりで行ってきてよ。月曜に感想聞きたいし!』
送信してアプリを閉じる。
ふう、と息を吐くが、いらいらは抜けない。
私はお姉ちゃんとは違う。お姉ちゃんと一緒にしないでよ。
それに、私は勉強のためだけに学校に行っているわけじゃない。
どうしてあのとき、そう言い返せなかったんだろう。
――私っていつもそう。
頭に血が上ると、言葉が出なくなる。なにも言い返せなくなってしまう。
お姉ちゃんにも指摘されたばかりだ。
――変わりたくても、なかなか変われないものだなぁ……。
なんとなく、音無くんの声が聞きたくなってスマホを開くと、メッセージアプリに通知が来ていた。
『今なにしてる?』
音無くんからのメッセージに心が浮き足立つ。
『ちょうど美里たちと勉強会から帰ってきたとこ』
『電話していー?』
『うん』
返信してすぐ、スマホが振動した。
「もっ……もしもし!」
『あ、清水?』
スマホを耳に当てると、音無くんの低い声が聞こえてくる。
「うん……」
『なんか声暗くない? また後藤たちとなんかあったの?』
「ううん。お母さんと喧嘩っていうか……ちょっと揉めて」
『あぁー』
察したように音無くんが相槌を打つ。
「そういえば今週末、乾多で野外シアターやるんだね。音無くん行くの?」
『俺は行かないかな。清水は行くの?』
「美里と葉乃に誘われたから私も行きたかったんだけど、門限過ぎちゃうからダメって親に言われて」
『あぁ、それで喧嘩になったのね』
「うん……音無くんちは門限とかある?」
『うちは放任主義だから、べつに帰り遅くなってもなにも言われないかな』
「いいなぁ。羨ましい」
『そうか? 俺はなんとなく門限って憧れるけどな』
「えっ、なんで?」
ないほうが自由なのだから、ぜったいにいいのに。
『だって、心配されてるって感じしない?』
「心配……」
そうなのだろうか。少し考えて、首を振った。
「違うよ。ぜったい、私が勉強もしないで遊びに行くのが気に食わないだけだよ」
きっとそうだ。お母さんは、私のことなんて愛していない。
『そうかなぁ』
「愚痴っちゃってごめんね。明日も朝早く行く?」
『うん。そのつもり』
「じゃあ、私も行く。今回数学がついていけなくなりそうで怖くて」
『え、マジ? じゃあ今からする?』
「えっ、今から?」
音無くんのくすくすという笑い声が、スマホを通じて聴こえてくる。
『うん。どうせ今暇だし』
「それいい! 同じ問題やっていけば、分からないところ教え合えるもんね!」
『どこが分からない? 清水が気になってるところからやろーぜ』
「じゃあ七十三ページの問三から……」
――なんでだろう。
音無くんと話している時間は、勉強している時間ですら心が踊る。
音無くんと一緒だと勉強すら楽しくて、音無くんに会えると思うと学校に行かなきゃならない平日の朝が待ち遠しくて仕方がない。
「ねぇ、これからもこうやって電話できる?」
電話を切る直前、私は音無くんに訊ねた。訊かずにはいられなかった。
『いいよ。案外捗ったしね。俺も助かる』
「本当? じゃあ、またね」
『うん、また明日』
音無くんとの通話を終えてからも、私の心はしばらく浮き足立っていた。
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