きみの心音を聴かせて

朱宮あめ

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第2章・気まずいクラスメイト

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 翌朝、お姉ちゃんと顔を合わせるのが気まずかった私は、いつもより少し早く起きて家を出た。
 玄関を出たところで、灰色の空が視界に入る。
 今にも雨が落ちてきそうな空模様だ。
 私は一度立ち止まって、鞄の中に折りたたみ傘が入っているのを確認してから、家を出た。
 昇降口に入ったところで、傘立てにひとつビニール傘が置いてあるのに気付く。
 まだ校舎が開いて間もないはずなのに、私より早く学校に来ている生徒がいるとは思わなかった。
 しかも、傘が置いてあるのは私のクラスの傘立てだ。
 だれだろう、と思いながら教室へ向かう。
 扉に手をかけて、引こうとしたその手を止めた。
 教室にいたのは、クラスメイトの音無おとなし優希ゆうきくんだった。
 音無くんとは一年のときから同じクラスだ。けれど、あまり会話という会話を交わしたことはない。
 その理由は……。
「清水?」
 扉越しに、呟くような声が聞こえてハッとする。目が合った。
 ……バレてしまった。もう逃げられない。
 私はそろそろと扉を開けた。
「おはよう」
 緊張しつつ挨拶をすると、音無くんが振り返った。
「おはよ。早いな」
 音無くんから挨拶が返ってきてほっとする。
「うん。今日はなんだか、早く目が覚めちゃって。音無くんこそ、いつもこんなに早いの?」
 じぶんの机に鞄を置きながら訊ねる。
「あー、うん。俺、朝型だから、早起きして勉強するほうが集中できるんだ」
「へぇ……そっか」
 羨ましい。私は朝は苦手だ。
「清水も勉強?」
「うん……自習室でやろうかなって思って」
 ――うそ。
 本当は、教室で自習するつもりだった。
 でも、よりによって音無くんがいるなんて。
 さすがにふたりきりは気まずい。
 音無くんだって、いつもひとりで勉強しているなら、私がいると気が散ってしまうかもしれないし。
 鞄から英語の単語帳を取り出すと、私は音を立てないようこっそりと教室を出ていく。
 教室を出る直前、音無くんの視線を感じたけれど、私はそれに気付かないふりをした。
 音無くんと喋ったのは、告白されたあの日以来だった。
 友達としてよろしく。
 あの日、告白を断ったとき、音無くんにはそう言われたけれど。
 ――無理だよ。
 なにを話せばいいのか分からないし、どうしたってあの日のことが過ぎってしまう。
 実際にそんなふうに気を遣わずにいられる男女なんて、この世にいるんだろうか。
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