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それからしばらく、私たちは波打ち際できゃらきゃらとはしゃいだ。
きらきらした笑顔が眩しくて、私は思わず目を細める。一緒になってはしゃぎながら、私はふたりの笑顔を目に焼き付けた。
ヴェールがかかったように、ふたりの笑顔が霞み出す。
あぁ、もう終わりなんだと寂しくなる。
「水波、楽しいね。来てよかったね、沖縄」
輝く海を背に、来未が言う。
「うん。すごく楽しい。すごくすごく楽しい」
楽しくて、涙が出る。
「また泣くのかよ」
「だって……」
来未が笑いながら、私を抱き締めた。
「水波、いろいろごめんね」
顔を上げる。
「いろいろ背負わせてしまったね」
「そんなこと……っ」
ぶんぶんと首を振る。
「私……私こそ、ごめんなさい……っ」
とうとう堪えようがなくなった涙が、次から次へと海へ還っていく。
「あのとき、来未を助けられなくて、ごめんなさい」
「水波はなにも悪くないよ。私こそ、あのときちゃんと謝れなくてごめんね。私のせいで、ずっと苦しい思いをさせて、ごめんね。それから、お母さんがごめんね。お母さん、まだ私のこと過去にできていないみたいなんだ。これからもひどいこと言っちゃうかも。でも、本心じゃないから。お母さん、水波のこと大好きだったから。……ごめんね」
来未の瞳から、一筋の涙が流れる。来未は、悲しげな、寂しげな顔をしていた。
彼女らしからぬその表情に、私はようやくじぶんの不甲斐なさを思い知る。
「来未が謝ることなんて、なんにもないよ」
涙を拭い、私は顔を上げた。
「大丈夫。私はもう大丈夫だから、安心して。来未、綺瀬くん」
すると、ふたりは目を見合わせて、嬉しそうに微笑んだ。
「私たちはいつまでも待ってるからね」
「そうそう。だから水波は、焦らないでゆっくりおいで」
ふたりが光に包まれる。
「……うん。お土産、たくさん持ってくから待っててね! 私のこと、忘れないでね。約束だよ! 絶対だよ!」
あまりに必死に言う私を見て、来未と綺瀬くんが笑う。
「バカだなぁ」
ふたりの声がぴたっとそろう。
「忘れるわけないじゃん」
「当たり前だろ」
辺りに光が満ちていく。きらきら、きらきら星が落ちたように眩く、華やかに。
意を決して、私は精一杯の笑顔で来未と綺瀬くんを見つめる。
「あのね……」
伝えたいことはたくさんあったはずなのに、いざふたりを前にすると言葉が出てこない。
ありがとう? 大好き? さよなら?
ううん、違う。ぜんぶ違う気がする。だって、私たちは永遠のお別れをするわけじゃない。ただ少し、ほんの少し離れるだけなのだから。
こういうときはやっぱり慣れた挨拶が一番だ。そう思い直して、私はふたりに大きく叫んだ。
「またね!」
きらきらした笑顔が眩しくて、私は思わず目を細める。一緒になってはしゃぎながら、私はふたりの笑顔を目に焼き付けた。
ヴェールがかかったように、ふたりの笑顔が霞み出す。
あぁ、もう終わりなんだと寂しくなる。
「水波、楽しいね。来てよかったね、沖縄」
輝く海を背に、来未が言う。
「うん。すごく楽しい。すごくすごく楽しい」
楽しくて、涙が出る。
「また泣くのかよ」
「だって……」
来未が笑いながら、私を抱き締めた。
「水波、いろいろごめんね」
顔を上げる。
「いろいろ背負わせてしまったね」
「そんなこと……っ」
ぶんぶんと首を振る。
「私……私こそ、ごめんなさい……っ」
とうとう堪えようがなくなった涙が、次から次へと海へ還っていく。
「あのとき、来未を助けられなくて、ごめんなさい」
「水波はなにも悪くないよ。私こそ、あのときちゃんと謝れなくてごめんね。私のせいで、ずっと苦しい思いをさせて、ごめんね。それから、お母さんがごめんね。お母さん、まだ私のこと過去にできていないみたいなんだ。これからもひどいこと言っちゃうかも。でも、本心じゃないから。お母さん、水波のこと大好きだったから。……ごめんね」
来未の瞳から、一筋の涙が流れる。来未は、悲しげな、寂しげな顔をしていた。
彼女らしからぬその表情に、私はようやくじぶんの不甲斐なさを思い知る。
「来未が謝ることなんて、なんにもないよ」
涙を拭い、私は顔を上げた。
「大丈夫。私はもう大丈夫だから、安心して。来未、綺瀬くん」
すると、ふたりは目を見合わせて、嬉しそうに微笑んだ。
「私たちはいつまでも待ってるからね」
「そうそう。だから水波は、焦らないでゆっくりおいで」
ふたりが光に包まれる。
「……うん。お土産、たくさん持ってくから待っててね! 私のこと、忘れないでね。約束だよ! 絶対だよ!」
あまりに必死に言う私を見て、来未と綺瀬くんが笑う。
「バカだなぁ」
ふたりの声がぴたっとそろう。
「忘れるわけないじゃん」
「当たり前だろ」
辺りに光が満ちていく。きらきら、きらきら星が落ちたように眩く、華やかに。
意を決して、私は精一杯の笑顔で来未と綺瀬くんを見つめる。
「あのね……」
伝えたいことはたくさんあったはずなのに、いざふたりを前にすると言葉が出てこない。
ありがとう? 大好き? さよなら?
ううん、違う。ぜんぶ違う気がする。だって、私たちは永遠のお別れをするわけじゃない。ただ少し、ほんの少し離れるだけなのだから。
こういうときはやっぱり慣れた挨拶が一番だ。そう思い直して、私はふたりに大きく叫んだ。
「またね!」
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