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第6章

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 その瞳にじわじわと涙が浮かんでいく。

「俺は……死にたくなかった。もっと水波と一緒にいたかった。来未も助けてやりたかった。三人でもっともっと、思い出作りたかった……っ!」

 綺瀬くんは潤んだ声で叫んだ。私はたまらず綺瀬くんを抱き締めた。

 綺瀬くんは痛いくらいに私を抱き締め返しながら、思いを叫ぶ。

 大きい身体は弱々しく震えていて、恐ろしいくらいに冷たい。
 その現実が、余計に胸を苦しくさせる。

「……ずっとひとりで寂しかった。暗くて、寒くて、怖かった。……水波に、会いたかった」
「うん……うん」
 私は気の利いた言葉をなにひとつかけられないまま、ただただ綺瀬くんの背中をさすり続けた。

 そっと身体を離し、綺瀬くんと目を合わせる。

「……ずっとひとりにしてごめんね。私はここにいるよ」
 綺瀬くんに優しく微笑む。かつて、彼がそうしてくれたように。
「水波……」
 泣きじゃくる綺瀬くんは、幼い子供のように見える。

「……水波に触りたい」
 私は強く抱き着いた。
「じゃあ、ずっと抱き締めててあげるよ」
「……水波の可愛い声が聞きたい。ずっと、聞いていたい。叶うなら、そのまま眠りたい」

 なにを言おう、と少し唸る。

「うーん……いきなり言われると思いつかないなぁ。……綺瀬くんの泣き虫! ……とか? あ、それともうそつき? かっこつけ……?」

 一瞬きょとんとした顔をして私を見下ろしたあと、綺瀬くんはくすくすと笑った。つられて私も笑う。

「……水波。俺のこと、思い出してくれてありがとね」
「……うん」
「もう、忘れないで。好きな人に忘れられるのは、辛いよ」
「忘れない。もう、絶対忘れないよ……っ」

 この世のすべてに誓って忘れない。そう言おうとしたとき、綺瀬くんはふと寂しげに笑った。

「……うそ。俺のことは忘れていい。忘れて」

 目を瞠る。

「……どうして、そんなこと言うの?」

 信じられない思いで綺瀬くんを見上げる。すると、綺瀬くんは私を見つめて弱々しく微笑んだ。

「水波には、だれより幸せになってほしいんだ。これからもたくさん友達を作って、恋をして、大人になって結婚して子供を作って、幸せなおばあちゃんになってほしい。今、俺にとって大切なのはね、俺自身が水波を幸せにすることじゃなくて、水波が幸せでいることだから。水波が幸せなら、そこに俺はいなくてもいいんだ。だからね……お願いだから、俺のことはひきずらないで」

 綺瀬くんから一歩離れる。

「それが、俺のいちばんの願い」

 別れの予感に、足が竦む。

 分かっていた。
 もう、綺瀬くんとは一緒にいられないこと。
 なぜなら私は、沖縄で綺瀬くんが死んでしまったという現実を受け止めてしまったから。

「水波、お願い」
「綺瀬くん……」
 綺瀬くんは、見たことないくらい悲しげな顔をして、私を見つめている。切実な声に、喉がぎゅうっと絞られるように苦しくなった。

 私は、首を振る。

「……やだ。やっぱりやだよ。私、綺瀬くんが好き。このまま、そばにいてよ。どこにも行かないで。消えないでよ、お願い……私をひとりにしないで」
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