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第6章
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しおりを挟む「……違うの。ごめん。朝香には怒ってないんだ。ただ、私が私を許せないだけ」
……あのとき、綺瀬くんはじぶんだってきっと泣きたかったはずだ。泣くのをこらえていたはずだ。
恐怖をこらえて、私に頑張れと、生きろと声をかけ続けてくれていたのに、それを私は……。
ごめん、ごめんと繰り返しながら、私は頭を垂れた。
「……水波」
両手で頬を掴まれ、上を向かされる。
朝香が泣きながら、私と目を合わせる。
「たしかに水波の苦しみは水波にしか分からない。でも、だったら水波はずっと後悔したまま下向いて生きてくの? それで本当に、生きてるって言えるの?」
ハッとする。
違う。綺瀬くんが、穂坂さんが教えてくれたことは違う。こんなふうに塞ぎ込むことじゃない。
頭では分かってる。
……けれど、もうなにも分からなくなる。
「生きるとか前を向くとか、そんなのは結局、きれいごとだよ。……もう放っておいて」
やけになり、私は朝香の手を振りほどいた。それでも朝香はもう一度私の手を掴んで、上を向かせる。朝香の潤んだ瞳と目が合い、涙が込み上げた。
「きれいごとじゃないよ。もし水波が自殺未遂をしてなかったら、水波の心はずっと死んだままだったと思う。だって、入学した頃の水波は生気なんてこれっぽっちも感じなかったもん! 死んだように生きてたもん。それじゃ、ちゃんと生きるってことにはならないよ」
でも、と私は奥歯を噛む。
目の縁から、涙がぽろぽろと落ちていく。
私はその場に崩れ落ちる。
「……じゃあ私はどうしたらいいの? もう分かんないよ。……みんなに助けられたから生きなきゃって思うのに、生きるのが怖いの。だれより大好きだったはずの綺瀬くんのことを忘れてたじぶんが信じられないの。綺瀬くんがいない世界を、このままひとりぼっちで生きてくんだって思うと、怖くて怖くてたまらないんだよ……」
生きなければならない。私にはもう、生きるしか残されていない。
だけど、綺瀬くんのいない世界で生きる自信が、私にはない。現実は、どうしてこんなに残酷なんだろう……。
朝香の手が離れ、私は俯く。
「……この際、だれか殺してくれたらいいのに」
もう、自殺はできない。でも、生きるのも怖い。
気が付いたら、そんな言葉を発していた。
直後、パン、と高い音がした。朝香が私の頬を叩いたのだ。じんじんとした熱さを頬に感じて、私は呆然と手をやる。
「ふざけんな!」
朝香は目を真っ赤にして、私を睨んでいた。ハッとした瞬間、強く抱き締められる。
「なんでそんなこと言うのよ! ……水波には私がいるじゃん」
身体をずらして朝香を見ると、悲しそうに唇を引き結んでいる横顔が見えた。
「水波には心配してくれる家族もいるし、歩果や琴音もいる。いっぱいいるじゃん! だから……お願いだから、ひとりぼっちだなんて言わないでよ……」
胸がきゅっと鳴った。
「ごめん……」
小さく謝ると、朝香は震える手で私の頬を撫でた。
「……私こそごめん、痛かったよね。叩いてごめんね」
首を横に振る。
「……ありがとう」
私は鼻をすすりながら、朝香を抱きしめ返した。
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