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第6章
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しおりを挟む戻ってきたのは、朝香だった。
「あ、朝香……なんで? お土産は……」
朝香は少し怒ったような顔をしてベッドに座る私に近付くと、おもむろに抱きついてきた。
驚いて固まる私に、朝香は「もう……やっぱり泣いてた」と呟く。
「……朝香?」
「……ごめん。水波、私……カフェの話聞いちゃったの」
朝香は私と目が合うと、泣きそうな顔を俯けた。
「勝手なことしてごめん。でもなんか……水波が思い詰めた顔してたから心配で……」
着いていっちゃったんだ、と言いながら、朝香の瞳からはぼろぼろと涙が零れていた。
「でも、ダメだった。すごくショックだった。水波が抱えてるものは知ってたのに、いざ話を聞いたら……私が理解してると思ってた水波の苦しみは、本当にふんわりした、なんとなくな悲しみだったんだなって思って……私、水波の辛さとかぜんぜん分かってなかった」
「……仕方ないよ」
彼女に、させなくていい悲しみを与えてしまったのだと思うと、さらに心が重くなる。
「……ごめんね。せっかくの修学旅行なのに、気分の悪い話を聞かせちゃって」
「違うよ! 私が勝手に聞いたんだから! ……私こそ、ごめん。プライベートな話なのに……気を悪くしたよね」
首を振る。少しの間を開けて、私は朝香にならいいかと話し始める。
「私ね、あの事故のとき、大好きな人に命を救ってもらったの。それなのに私、その人のこと今まで忘れてたんだ」
自嘲気味な笑みが漏れた。
「信じられないよね。事故のあと、今まで一度も思い出すことなく、忘れて生きてたんだよ……」
震える声で呟くと、朝香が強い口調で「それは違う」と否定した。
「……仕方なかったんだよ。その人を忘れることは、水波の心を守るために必要なことだったんだと思う」
それでなくても怖い思いしたんだから、と朝香が慰めてくれる。
それだけだったらまだ、私も仕方ないと思えたかもしれない。けれど、今の私はそれを素直に受け取ることはできない。
「……でも、綺瀬くんは命と引き換えにしてまで私を助けてくれたのに、私はまた死のうとした」
朝香の目が泳ぐ。
「それは……そうかもしれないけど、覚えてなかったんだから仕方ないよ」
違う。仕方ない、では許されないのだ。
「簡単に言わないでよ。これは、そんなひとことで片付けていいことじゃないんだよ! 綺瀬くんは死んじゃったんだよ! 死んだ人はもう二度と戻ってこないの。残された家族の気持ち考えたことある!? その人の命と引き換えに生き残った人間の気持ちが、朝香には分かるの!? 綺瀬くんは私を助けたせいで、今もたったひとりで海の底に沈んでるんだよ!」
激高した私に、朝香が静かに息を呑んだ。
「……ごめん」
しょぼんとした朝香を見てハッとする。
朝香はなにも悪くない。ただ落ち込んだ私を元気づけるために気を遣ってくれていただけなのに。
「はぁ……」
学習しないなぁ、私は……。
また、朝香を傷付けた。
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