75 / 85
第6章
7
しおりを挟む
「あ、そだ。ここ、お土産コーナーのとなりにカフェあったよね! ショーケースのほかに焼き菓子も置いてあったし、なんかご当地お菓子とか売ってないかな?」
「どうだろう……」
「行ってみない?」
「いいね!」
「今日もお菓子パーティーしたいしね! ね、水波ちゃんも行こうよ!」
「……私は、いいや」
短く言って再び黙り込む。
「……そっか。じゃ、私たちが代表して行ってくるね! 水波は帰りを待つべし。朝香も行こ」
「あ……うん」
朝香は気が進まなそうにしながらも、琴音ちゃんと歩果ちゃんに連れられて出ていった。
ひとりきりになった部屋で、私は途方に暮れた。
ベッドに身を投げ出し、シーツの海に埋もれる。
無機質な天井やライトを見上げ、私は今まで、彼のなにを見ていたのだろうと考える。
思えば私は、彼のなにも知らなかった。住んでいる場所も、どこから来ているのかも。聞こうと思えば、タイミングはいくらでもあったはずなのに……。
たぶん、無意識のうちに避けてたのだ。恐ろしかったのだ。この現実を突きつけられるのが。
胸が苦しい。でも、綺瀬くんはきっと、もっと苦しい。
私は、命を懸けて助けてくれた人の前で、なにをした?
『私の命、どうしようが私の勝手でしょ』
そう吐き捨てたのだ。私のせいで命を落とした綺瀬くんの前で。
どうして忘れていたのだろう。どうして忘れられたのだろう。
たったひとりの好きな人を……命の恩人を。
「有り得ない……」
私はどれだけ綺瀬くんを失望させたら気が済むのだろう。
『俺さ、大好きな人がいるんだ』
初めて会った日、綺瀬くんは言っていた。
『でもね、その人はもうどうやったって俺の手が届かないところにいる』
悲しいくらい綺麗な顔で、綺瀬くんは私をまっすぐに見つめていた。
あの顔は……ぜんぶ、私に向けてくれていた言葉だったのだ。
『生きててよかったよ』
綺瀬くんの笑顔が蘇る。息ができないくらいに胸が締め付けられた。
綺瀬くんはずっと、私に会いに来てくれていたのだ。また死のうとした私を、助けるために。生きろと伝えに。
じぶんは、遺体すら引きあげてもらえていないのに……。
『本当は、ひとりが寂しかったんだ』
綺瀬くんはいつも寂しそうにしていた。当たり前だ。広くて深い海の底に、ひとりぼっちなのだから。
『俺が水波を助けたのは、俺のため。ちょっとでいいから、そばにいてほしいって思ったんだ。……寂しくて、死にそうだったから』
震えが止まらない。
私はなんて愚かなのだろう。どれだけ綺瀬くんの気持ちを踏みにじれば気が済むのだろう。
最後に告白までして……あれじゃ、綺瀬くんにただ縋っただけだ。助けて、と、みっともなく縋っただけだ。
「私……バカだ……」
ベッドの上で小さくなって泣いていると、部屋の扉が開く音がした。ハッとして、両手のひらで乱雑に涙を拭う。
「……水波」
「どうだろう……」
「行ってみない?」
「いいね!」
「今日もお菓子パーティーしたいしね! ね、水波ちゃんも行こうよ!」
「……私は、いいや」
短く言って再び黙り込む。
「……そっか。じゃ、私たちが代表して行ってくるね! 水波は帰りを待つべし。朝香も行こ」
「あ……うん」
朝香は気が進まなそうにしながらも、琴音ちゃんと歩果ちゃんに連れられて出ていった。
ひとりきりになった部屋で、私は途方に暮れた。
ベッドに身を投げ出し、シーツの海に埋もれる。
無機質な天井やライトを見上げ、私は今まで、彼のなにを見ていたのだろうと考える。
思えば私は、彼のなにも知らなかった。住んでいる場所も、どこから来ているのかも。聞こうと思えば、タイミングはいくらでもあったはずなのに……。
たぶん、無意識のうちに避けてたのだ。恐ろしかったのだ。この現実を突きつけられるのが。
胸が苦しい。でも、綺瀬くんはきっと、もっと苦しい。
私は、命を懸けて助けてくれた人の前で、なにをした?
『私の命、どうしようが私の勝手でしょ』
そう吐き捨てたのだ。私のせいで命を落とした綺瀬くんの前で。
どうして忘れていたのだろう。どうして忘れられたのだろう。
たったひとりの好きな人を……命の恩人を。
「有り得ない……」
私はどれだけ綺瀬くんを失望させたら気が済むのだろう。
『俺さ、大好きな人がいるんだ』
初めて会った日、綺瀬くんは言っていた。
『でもね、その人はもうどうやったって俺の手が届かないところにいる』
悲しいくらい綺麗な顔で、綺瀬くんは私をまっすぐに見つめていた。
あの顔は……ぜんぶ、私に向けてくれていた言葉だったのだ。
『生きててよかったよ』
綺瀬くんの笑顔が蘇る。息ができないくらいに胸が締め付けられた。
綺瀬くんはずっと、私に会いに来てくれていたのだ。また死のうとした私を、助けるために。生きろと伝えに。
じぶんは、遺体すら引きあげてもらえていないのに……。
『本当は、ひとりが寂しかったんだ』
綺瀬くんはいつも寂しそうにしていた。当たり前だ。広くて深い海の底に、ひとりぼっちなのだから。
『俺が水波を助けたのは、俺のため。ちょっとでいいから、そばにいてほしいって思ったんだ。……寂しくて、死にそうだったから』
震えが止まらない。
私はなんて愚かなのだろう。どれだけ綺瀬くんの気持ちを踏みにじれば気が済むのだろう。
最後に告白までして……あれじゃ、綺瀬くんにただ縋っただけだ。助けて、と、みっともなく縋っただけだ。
「私……バカだ……」
ベッドの上で小さくなって泣いていると、部屋の扉が開く音がした。ハッとして、両手のひらで乱雑に涙を拭う。
「……水波」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ファンファーレ!
ほしのことば
青春
♡完結まで毎日投稿♡
高校2年生の初夏、ユキは余命1年だと申告された。思えば、今まで「なんとなく」で生きてきた人生。延命治療も勧められたが、ユキは治療はせず、残りの人生を全力で生きることを決意した。
友情・恋愛・行事・学業…。
今まで適当にこなしてきただけの毎日を全力で過ごすことで、ユキの「生」に関する気持ちは段々と動いていく。
主人公のユキの心情を軸に、ユキが全力で生きることで起きる周りの心情の変化も描く。
誰もが感じたことのある青春時代の悩みや感動が、きっとあなたの心に寄り添う作品。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる