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第5章

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 ほとんどが海水に沈んだ船内には、微動だにしない要救助者たちが浮いていたという。

 沈みゆく船の中で、穂坂さんたち潜水士はまず息のある救助者を探して奥に進んだ。そして僅かに空気が残った空間に浮かぶ私を見つけたという。

 私は瓦礫に押し上げられていて、奇跡的に顎から上だけが空気に触れていた状態で見つかったらしい。

「俺たちが到着した頃には、フェリーは既に炎上していて、かなり危険な状態だった。もし、このまま火の手が回ってエンジンルームの燃料タンクに火がつけば、爆発する。君たちの救助は文字通り命懸けで、俺は正直、いつフェリーが爆発するのかって怖くてたまらなくて、救助に身が入ってなかった。先輩が船頭近くの部屋に君を見つけて、瓦礫の撤去を手伝えと指示をくれたけど、俺は動けなくて、一刻も早くフェリーから出たくてたまらなかった」

 私は、言葉を返せなかった。

「それで、俺が君を抱き上げている間、先輩が瓦礫を撤去してくれていたんだけど」

 でも、と、穂坂さんはまた声を沈ませた。

「直後、フェリーがバランスを崩して急速に沈み始めた。俺たちは急いで船内から脱出することになったけど、君はまだ挟まれたままで、とうとう先輩が諦める判断をしたんだ。俺はそれに従った。……だから俺は、一度は君を助けることを諦めたんだ」

 どくどくと心臓が鳴る。握り込んだ手は、汗でべっとりと湿っていた。

「そ……う、だったんですか」

 冷や汗が背中をつたい落ちる。

 ゾッとした。私は、それほど死に迫っていたのだ。もし、穂坂さんがそのまま私を諦めていたら……。

 考えて、疑問が生まれる。
 私を助けることを諦めたのなら、どうして私は今生きているのだろう。

「それならどうして……?」
 訊ねると、穂坂さんは私を見て言った。
「君が、生きたいって言ったから」
「え……?」

 目を瞠る。

「君から手を離そうとしたとき、君が俺の手を掴んだんだ。その手が、助けてって言っているように思えて……俺は独断で、君の救助を優先した。たぶんあの瞬間、俺は本当の意味で潜水士になれたんだと思う」

 あとから先輩にはすっごく怒られたけど、と穂坂さんはおどけて言った。

「ごめんね。こんな話、辛いでしょ?」

 ぶんぶんと首を振る。
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