62 / 85
第5章
4
しおりを挟む「それで、そのすぐあとに爆発音みたいな音がして……倒れた来未が、勢いよくフェリーから落ちていきました。来未が海に落ちる直前、私は来未の手を咄嗟に掴んだ。でも……私の力じゃ支えきれなくて、転んでしまって……デッキの柵に頭をぶつけて一瞬、意識がなくなったんです。でも、すぐに気が付いて、じぶんの手を見たら……」
来未の手はなかった、どこにも。
涙が零れないよう瞬きを我慢しようとしたけれど、無理だった。ぱちりと一度だけ瞬きをすると、膝に置いた手の甲に雫が落ちた。
「……来未が死んだのは私のせい。もしかしたら、来未のママは私があのとき来未の手を離したことを知ってるのかもしれない……そう思ったら、たまらなく……怖くて……」
来未のママに憎しみのこもった目で睨まれながら、その背後の墓石に掘られた名前を見た。そのとき、来未の声が聞こえた気がした。
人殺し。どうして助けてくれなかったの。どうして手を放したの。親友だと思っていたのに。私はあなたを助けたのに。この裏切り者!
最後のほうは、もう言葉にならなかった。一度決壊した涙は、とめどなく溢れ出して止まりそうもない。
穂坂さんは泣きじゃくる私を見て、呆然としていた。
「……気付いたら私は、近所の高台にある広場にいて、転落防止用の柵を乗り越えてました」
……言ってしまった。恐ろしくて、顔を上げられない。穂坂さんの顔を、見ることができない。
「ずっと、助かったことを後悔してました。死にたかったんです。生きてるのが辛かったんです。この世のすべての人に責められてるようで」
私は恩人を前に、なんてことを言ってるんだろう。
穂坂さんはきっと、なんて助けがいのない人を助けたのだろうと呆れているだろう。助けなきゃ良かったと思っているかもしれない。
「……私、ずっと怖くて言えなくて……今まで黙っててごめんなさい」
俯いたまま言うと、穂坂さんは静かな声で言った。
「ずっと、ひとりで抱えてたんだね」
穂坂さんは、優しい声で「辛いことを、話してくれてありがとう」と言ってくれた。
「……ごめんなさい、ごめんなさい」
何度も呟くように謝ると、穂坂さんは首を振った。
「君は怪我をしてまで来未ちゃんを助けようとした。じぶんだって生きるか死ぬかの瀬戸際で、来未ちゃんを助けようと行動した。だれにでもできることじゃない。立派なことだよ」
穂坂さんの優しい言葉に、目頭がじわりと熱くなる。
「でも……助けられませんでした」
どんな行動をしたところで、助けられなきゃ意味がない。
「子どもにそんな力はないよ。君はなにも悪くない」
穂坂さんは少し視線を足元に落として、「ただ」と頭を搔く。
「ただ……正直なことを言うと、ちょっとショックだったな」
「え……」
顔を上げると、穂坂さんは悔しそうな顔をして、私を見つめていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ライトブルー
ジンギスカン
青春
同級生のウザ絡みに頭を抱える椚田司は念願のハッピースクールライフを手に入れるため、遂に陰湿な復讐を決行する。その陰湿さが故、自分が犯人だと気づかれる訳にはいかない。次々と襲い来る「お前が犯人だ」の声を椚田は切り抜けることができるのか。
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる