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第5章
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しおりを挟む「それで、そのすぐあとに爆発音みたいな音がして……倒れた来未が、勢いよくフェリーから落ちていきました。来未が海に落ちる直前、私は来未の手を咄嗟に掴んだ。でも……私の力じゃ支えきれなくて、転んでしまって……デッキの柵に頭をぶつけて一瞬、意識がなくなったんです。でも、すぐに気が付いて、じぶんの手を見たら……」
来未の手はなかった、どこにも。
涙が零れないよう瞬きを我慢しようとしたけれど、無理だった。ぱちりと一度だけ瞬きをすると、膝に置いた手の甲に雫が落ちた。
「……来未が死んだのは私のせい。もしかしたら、来未のママは私があのとき来未の手を離したことを知ってるのかもしれない……そう思ったら、たまらなく……怖くて……」
来未のママに憎しみのこもった目で睨まれながら、その背後の墓石に掘られた名前を見た。そのとき、来未の声が聞こえた気がした。
人殺し。どうして助けてくれなかったの。どうして手を放したの。親友だと思っていたのに。私はあなたを助けたのに。この裏切り者!
最後のほうは、もう言葉にならなかった。一度決壊した涙は、とめどなく溢れ出して止まりそうもない。
穂坂さんは泣きじゃくる私を見て、呆然としていた。
「……気付いたら私は、近所の高台にある広場にいて、転落防止用の柵を乗り越えてました」
……言ってしまった。恐ろしくて、顔を上げられない。穂坂さんの顔を、見ることができない。
「ずっと、助かったことを後悔してました。死にたかったんです。生きてるのが辛かったんです。この世のすべての人に責められてるようで」
私は恩人を前に、なんてことを言ってるんだろう。
穂坂さんはきっと、なんて助けがいのない人を助けたのだろうと呆れているだろう。助けなきゃ良かったと思っているかもしれない。
「……私、ずっと怖くて言えなくて……今まで黙っててごめんなさい」
俯いたまま言うと、穂坂さんは静かな声で言った。
「ずっと、ひとりで抱えてたんだね」
穂坂さんは、優しい声で「辛いことを、話してくれてありがとう」と言ってくれた。
「……ごめんなさい、ごめんなさい」
何度も呟くように謝ると、穂坂さんは首を振った。
「君は怪我をしてまで来未ちゃんを助けようとした。じぶんだって生きるか死ぬかの瀬戸際で、来未ちゃんを助けようと行動した。だれにでもできることじゃない。立派なことだよ」
穂坂さんの優しい言葉に、目頭がじわりと熱くなる。
「でも……助けられませんでした」
どんな行動をしたところで、助けられなきゃ意味がない。
「子どもにそんな力はないよ。君はなにも悪くない」
穂坂さんは少し視線を足元に落として、「ただ」と頭を搔く。
「ただ……正直なことを言うと、ちょっとショックだったな」
「え……」
顔を上げると、穂坂さんは悔しそうな顔をして、私を見つめていた。
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