明日はちゃんと、君のいない右側を歩いてく。

朱宮あめ

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第5章

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「……あの事故の日から、見える景色がガラッと変わりました。なんていうか、上手く言えないですけど白黒写真みたいにすべてがモノクロになったみたい。学校の友達も、前みたいには話してくれなくなって……自然と、遠ざかっていきました」

 どこかよそよそしくなったクラスメイトたち。みんな、私と目が合うと目を逸らしたり、困ったように目を泳がせるようになった。

「あぁ、私は……いるだけで空気を重くするんだなぁって思いました。それからだれかと話すということはなくなって、そのまま中学を卒業して、今の高校に入りました。高校では知り合いがほとんどいなかったから、さらに人間関係は希薄になりました」

 わざと同じ中学の同級生が少ない高校を選んだのに、私の噂は入学した瞬間から広まっていた。だから私は、全員から向けられる同情や興味の視線に気付かないふりをして、息を殺すようにして過ごした。

 話すことを一旦止めて、息を吸う。

 思い出すだけでも、胸がちりちりとして、苦しくなった。

「水分、摂りな」
「……はい。すみません」

 促されるままに私はアイスティーで喉を湿らせ、そのままぼんやりと汗をかいたグラスを眺める。

 潤しても潤しても詰まる喉を押さえながら、私は絞るように声を出した。

「……ずっと、なんで私だけ生き残っちゃったんだろうって思ってたんです」

 穂坂さんはなにも言わず、ただ静かに私の話に耳を傾けていた。

「今年の来未の命日に、お墓参りに行ったんです。そうしたらたまたま来未のお母さんに会ってしまって……言われました」

 来未を返せ。来未が死んだのは、お前のせいだ。

 すると、それまで黙って聞いていた穂坂さんが、苦しげに首を横に振った。

「違う。……違うよ、水波ちゃん。来未ちゃんが亡くなったのは、絶対に君のせいなんかじゃない。何度も言うけど、君は被害者なんだよ」
「違うんです」

 強い口調で、穂坂さんの言葉を遮る。穂坂さんは息を呑んで私を見た。私は震える声で告げる。

「本当に……私のせいなんです。あの日、あの事故が起きたとき……私、来未と喧嘩しちゃって、どこかに行った来未を探しに行ったんです。そうしたら来未はデッキにいて……だけど、ちょうどそのときフェリーがものすごく揺れて、来未がよろけて……」

 次第に声が潤んでいく。

 これは、お母さんにもお父さんにも言ったことのない事実だ。綺瀬くんにしか言ったことのないあの日の事実を、私は静かに恩人に告白する。
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