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第5章
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しおりを挟む修学旅行三日目に入った。
楽しい時間はあっという間で、修学旅行も今日と明日で終わりだ。
今日は一日、班に別れて自由行動となっている。マリンスポーツをしない私たちは、予定していた国際通りに来ていた。
星砂のハンドメイドアクセサリーを四人お揃いで買い、それから家族へのお土産をそれぞれで選んでいたとき、スカートのポケットにしまっていたスマホが鳴った。
画面には、『穂坂さん』の文字。
慌てて通話ボタンをタップする。
「もっ……もしもし!」
『あ、もしもし水波ちゃん? 今大丈夫?』
「はい、大丈夫です」
穂坂さんは最初に私が電話をかけたときとは違って、静かで落ち着いた口調だった。きっとふだんはこうなのだろう。
『実は、今から時間取れそうなんだけど、水波ちゃんどうかなって思って。今日ってたしか、自由行動だったよね』
「はい! 友達に確認してみますけど、たぶん大丈夫だと思います」
『そう。今どこにいる?』
穂坂さんに居場所を伝えると、案外近くにいたようで、国際通りのとあるカフェで落ち合うことになった。
通話を終えると、私は急いで朝香の姿を探す。
近くの店で買い物をしていた朝香を見つけ、人と会いたいから少しの間だけ別行動にさせてほしいと頼む。
「会いたい人って……水波が前に言ってた人?」
「うん。今から少し時間取れそうだからって」
「そっか……」
朝香は心配そうにしながらも、
「分かった。いいよ。ふたりには私から言っておく。気をつけてね」と、頷いてくれた。
「あ、でも三時にはここに戻ってきて」
「分かった」
そうして、私は穂坂さんと待ち合わせたカフェへ向かう。
カフェは通りに面したアラビアンな雰囲気の落ち着いたお店で、地下階段を降りたところにあった。
中に入ってきょろきょろと穂坂さんを探していると、「水波ちゃん」と小さな声で呼び止められた。
声がしたほうを見ると、短髪で背の高い男の人がテーブル席に座って手を振っている。
目が合い、私は小さく頭を下げた。
「こんにちは」
「こんにちは……」
穂坂さんだ。事故のとき、沈没しかけたフェリーから私を助けてくれた、命の恩人である。
穂坂さんは正面の席に着いた私を見て、潤んだ瞳を細めて微笑んだ。
「元気そうだね」
「……はい」
「あ、まずはなにか頼もうか。水波ちゃんなにがいい?」
穂坂さんにメニューを渡される。
「えっと……じゃあアイスティーにします」
穂坂さんが店員を呼ぶ。
「アイスティーとアイスコーヒー、それからティラミスとレアチーズケーキひとつずつお願いします」
注文を終え、しばらく近況の話をし合っていると、店員さんが注文したドリンクとケーキを運んできた。
運ばれてきたケーキを並べて、穂坂さんが言う。
「水波ちゃん、ティラミスとレアチーズ、どっちがいい?」
え、と顔を上げると、穂坂さんは「ひとりじゃ食べづらいから、付き合ってよ」と言って、にっこりと微笑んだ。
「……じゃあ、えっとティラミスいただきます」
穂坂さんの好意に甘えて、ティラミスをもらう。
穂坂さんとこうしてふたりきりで話すのは初めてだが、不思議と緊張はなかった。穂坂さんが事故のことに触れることなく、私の学校生活や友達についての何気ないことをたくさん聞いてくれたおかげかもしれない。気まずい空気になることもなく、終始穏やかな時間が流れた。
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