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第4章
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しおりを挟むそして、十二月の初め。念願の修学旅行の出発日がやってきた。
南高の修学旅行生一行を乗せた飛行機は、無事沖縄の那覇空港に到着。
空港から出ると、十二月とは思えない初夏のような爽やかな空気が私たちを出迎えた。
「暑っ!」
朝香が驚いた声を上げる。
「うーん、長袖はちょっと辛いかもね」
私も頷きながら制服のブレザーを脱ぎ、脇に抱えた。
「さすが沖縄だ。南国って感じ~」
「半袖シャツ持ってきててよかったね」
手をうちわ代わりにして顔を仰ぎながら、琴音ちゃんが晴れた空を見上げる。
「おーい、お前ら。もうバス来てるから集合しろー。出欠取るぞー」
「はーい」
初日は平和記念公園へ行って、その後ひめゆり平和記念資料館へ行く。
当時の資料や実際に経験した人の話を聞き、戦争の無惨さと平和の尊さを学ぶ校外学習だ。
記念館の人の話を聞きながら、となりで朝香が「悲しいね」と小さく呟いた。資料を見上げたまま、頷く。
ジオラマや当時の女学生たちの白黒写真、実際に使われていた道具などの展示品を見ていると、彼女たちが実際に生きていたという生々しい実感が湧いて、どうしても気分が沈む。
きっと、この時代に生きていた人たちは、悲しいなんてたった四文字の言葉では表せないくらいに辛い経験をしたのだろう。戦争を知らない私たちでは、想像できないくらいの絶望を味わったのだろう。
資料からは、親を亡くした人、恋人を亡くした人、子供を亡くした人、目の前で死んでいく人を助けられない虚しさ、孤独感……当事者たちの悲しみすべてが溢れてくるようで、胸がちりちりと焦げたように痛んだ。
展示の自由観覧時間。流れに沿ってひとつひとつ展示品を見ていると、同級生たちが楽しげに会話をしながら私たちの横をすり抜けていく。
「てかさ、暗くない? ここ」
「あー雰囲気出すためじゃない?」
「いつまでここにいるんだっけ?」
「せっかく沖縄まで来たんだから、もっと楽しいとこ行きたいよねぇ」
「ね、明後日晴れるって! 海楽しみだね」
「私新しい水着買ったんだ!」
「マジ? いいなぁ」
ほとんどの生徒たちは、資料なんてほとんど見ていないようだった。
「…………」
たぶん、彼女たちの反応はふつうだ。
まだたった十七歳である私たちの多くは、死なんてものは概念的で、目の当たりにしたことのない年齢だ。それに、今戦争の渦中にいるわけでもない。
もしかしたら私だって、あの事故がなかったら、彼女たちと同じような反応をするだけで見向きもしていなかったかもしれない。
でも、今は……。
この人たちの悲しみが、ひしひしと伝わってくる。
いなくなってしまったあの子に会いたいという叫び声が聞こえる。助けを呼ぶ声が聞こえる。
私もそうだったから、分かる。
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