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第4章
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「なにって……だってせっかくの修学旅行だよ? 沖縄だよ? それなのに海にも行かないなんてみんなに申し訳ないし……だから」
私なんかのために我慢することになるなら、班に入るのはやめようと思う、と言おうとしていたのだ。先生が、友達同士で気を遣ってしまうようなら、先生が一緒に回ってもいいと言ってくれたから。
と、本心を告げる。すると朝香は、ちょっと待ってよ、と少し声を鋭くさせた。
「これってそんな気にすること?」
「え?」
「だれにだって苦手なものくらいあるでしょ?」
続けて琴音ちゃんも、
「そうそう。海行かないっていうの、実は私もちょっとホッとしてる」と言う。
「え?」
「私、実は泳げないんだよねぇ」
「えっ!? うそ!? あの運動神経抜群の琴音ちゃんが!?」
朝香が驚いた顔をして身を乗り出すと、琴音ちゃんは少し恥ずかしそうに舌を出した。
「ははっ! 陸の上では無敵なんだけどね~」と、琴音ちゃんはおどけたように笑った。
「あ、あのね、水波ちゃん。私も実は、水着着るのちょっとやだなって思ってたから、よかったな、なんて思ってて……えへへ。実は今年、ちょっと太っちゃったんだよね」
歩果ちゃんは頬を染めて、はにかんだ。もしやと思う。
「……みんな、もしかして私に気を遣ってくれてるの?」
訊ねると、朝香たちは顔を見合わせて黙り込み、どっと笑った。
「違う違う、水波ってば考えすぎ! 私たちはそんなできた友達じゃないよ。私も勉強は苦手だし、琴音は泳ぐのが苦手で歩果は身体の露出が苦手。苦手なものがあるのはぜんぜん変なことじゃないし、むしろふつうだよ」
「ふつう……」
「そ、ふつう。だからそんなに気にしないでよ」
「そうそう。考え過ぎだよ、水波」
「水波ちゃんは、私たちのことを気遣ってくれたんだよね。ありがとう」
ようやく気付く。
『被害者』であると特別視していたのは、周りではなくほかでもない自分自身だったのだと。
優しい声に、心がじんわりとあたたまっていくようだった。
「みんな……ありがとう」
「もう。だから、お礼を言われるようなことじゃないってば」
「うん……うん」
私は手で目元をごしごしと拭った。
「水波は泣き虫だなぁ。まったく、そんなことで悩むなんて」
「……泣いてないもん」
「水波ちゃんてば可愛い」
琴音ちゃんにくすくすと笑われて、歩果ちゃんにきゅっと抱き締められて。恥ずかしいのにすごく嬉しい、不思議な気分になる。
知らなかった。
私は、いつの間にこんなあたたかい世界にいたのだろう。この間まで、右も左も分からない真っ暗闇の中にいたはずだったのに。
ずっとひとりぼっちで暗闇の中を彷徨っていたはずだったのに。
綺瀬くんに出会って、綺瀬くんがはるか遠くにあった光のほうへ導いてくれて。
今はこうして、たくさんの光に包まれている。
私は涙を拭って、笑う。
「私、みんなと修学旅行行きたい。思い出作りたい」
素直な言葉を、心からの言葉を告げる。喉はつるつるとして、なにも引っかからない。
「じゃあ、決まりね。班はこの四人で!」
「うん!!」
「修学旅行、楽しもう!」
こうして、私たちは高校で一度きりしかない修学旅行への準備を始めた。
その日の放課後、家に帰ってお母さんとお父さんに修学旅行に参加したいと言うと、ふたりともすごく喜んでくれた。くれぐれも無理だけはするなと言って私を抱き締め、もし苦しくなったらすぐに先生か友達に言いなさいと言った。
私は素直にその忠告を聞きながら、ふたりにひとつ、頼みごとをしたのだった。
私なんかのために我慢することになるなら、班に入るのはやめようと思う、と言おうとしていたのだ。先生が、友達同士で気を遣ってしまうようなら、先生が一緒に回ってもいいと言ってくれたから。
と、本心を告げる。すると朝香は、ちょっと待ってよ、と少し声を鋭くさせた。
「これってそんな気にすること?」
「え?」
「だれにだって苦手なものくらいあるでしょ?」
続けて琴音ちゃんも、
「そうそう。海行かないっていうの、実は私もちょっとホッとしてる」と言う。
「え?」
「私、実は泳げないんだよねぇ」
「えっ!? うそ!? あの運動神経抜群の琴音ちゃんが!?」
朝香が驚いた顔をして身を乗り出すと、琴音ちゃんは少し恥ずかしそうに舌を出した。
「ははっ! 陸の上では無敵なんだけどね~」と、琴音ちゃんはおどけたように笑った。
「あ、あのね、水波ちゃん。私も実は、水着着るのちょっとやだなって思ってたから、よかったな、なんて思ってて……えへへ。実は今年、ちょっと太っちゃったんだよね」
歩果ちゃんは頬を染めて、はにかんだ。もしやと思う。
「……みんな、もしかして私に気を遣ってくれてるの?」
訊ねると、朝香たちは顔を見合わせて黙り込み、どっと笑った。
「違う違う、水波ってば考えすぎ! 私たちはそんなできた友達じゃないよ。私も勉強は苦手だし、琴音は泳ぐのが苦手で歩果は身体の露出が苦手。苦手なものがあるのはぜんぜん変なことじゃないし、むしろふつうだよ」
「ふつう……」
「そ、ふつう。だからそんなに気にしないでよ」
「そうそう。考え過ぎだよ、水波」
「水波ちゃんは、私たちのことを気遣ってくれたんだよね。ありがとう」
ようやく気付く。
『被害者』であると特別視していたのは、周りではなくほかでもない自分自身だったのだと。
優しい声に、心がじんわりとあたたまっていくようだった。
「みんな……ありがとう」
「もう。だから、お礼を言われるようなことじゃないってば」
「うん……うん」
私は手で目元をごしごしと拭った。
「水波は泣き虫だなぁ。まったく、そんなことで悩むなんて」
「……泣いてないもん」
「水波ちゃんてば可愛い」
琴音ちゃんにくすくすと笑われて、歩果ちゃんにきゅっと抱き締められて。恥ずかしいのにすごく嬉しい、不思議な気分になる。
知らなかった。
私は、いつの間にこんなあたたかい世界にいたのだろう。この間まで、右も左も分からない真っ暗闇の中にいたはずだったのに。
ずっとひとりぼっちで暗闇の中を彷徨っていたはずだったのに。
綺瀬くんに出会って、綺瀬くんがはるか遠くにあった光のほうへ導いてくれて。
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私は涙を拭って、笑う。
「私、みんなと修学旅行行きたい。思い出作りたい」
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その日の放課後、家に帰ってお母さんとお父さんに修学旅行に参加したいと言うと、ふたりともすごく喜んでくれた。くれぐれも無理だけはするなと言って私を抱き締め、もし苦しくなったらすぐに先生か友達に言いなさいと言った。
私は素直にその忠告を聞きながら、ふたりにひとつ、頼みごとをしたのだった。
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