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第4章

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 私は膝の上に置いた手元へ視線を落とした。握ったり開いたりをしながら、きっとどこかにあるじぶんの心を探ってみる。

「……ねぇ、水波があの事故の被害者だってことは、みんなは知ってるんだよね?」

 顔を上げ、頷く。

「それなら、自由行動で船に乗るアクティビティは避けてもらうよう頼んでみたらどうかな? あぁ、でもなぁ。沖縄の水族館は大きいし、大体定番だから、自由行動のときじゃなくて学校全体で行くことになりそうだよね。ただ、それなら先生も配慮してくれるんじゃないかな。みんなが水族館にいる間だけはバスの中で待っているとかね」
「でも、私だけそんな特別待遇は……」

 みんなに迷惑がかかってしまう。それに、そこまでして行く意味があるのだろうか。

 また俯きかけると、綺瀬くんが言う。

「バカだな、水波。これは特別じゃないよ。それぞれが一番楽しめる修学旅行にするためのただの努力だ」
「努力……?」
「そうだよ。水波が悩むことなんてない。水波が決めるのは、修学旅行に行きたいかどうか、みんなと思い出を作りたいか、それだけだよ」

 呆然と綺瀬くんを見る。
 行きたいかどうか……。

「……そっか……」

 暗闇の中に、すっと光が差したような気がした。
 私たちは、あの日に戻ることはできない。でも、進むことはできるのだ。いつだって、道は前に向かって続いているのだから。

 綺瀬くんは、どうしてこんなにも私のことを分かってくれるのだろう。この一週間、ご飯も喉を通らないくらいに悩んだのに、綺瀬くんに会ったら、ほんの一瞬で解決してしまった。

「水波はどうしたい?」

 綺瀬くんに問われ、私はおずおずと口を開く。

「行きたい……修学旅行。行きたい、朝香たちと」

 すると、綺瀬くんは穏やかな笑みを浮かべて、私を見た。

「なら、行くべきだよ。絶対」

 朝香や歩果ちゃんや琴音ちゃんたちクラスメイトと、三泊四日の修学旅行。

 高校のその先の進路はまだ決めていないけれど、もしかしたらこれが最後になるかもしれない学生旅行。高校生で、たった一度きりの旅行。

 行きたいに決まっているのだ。

 ――でも……。

 ふと、心に影が差す。

「本当に、いいのかな……」

 少なくとも、私が朝香たちと同じようにただ人生を楽しむのは、違うと思っている。

 だって私は、来未の死の上に立っているのだ。来未は、高校に行くことすらできなかった。私だけなにもかもを忘れて遊ぶというのは、神様が、来未のママが許さないのではないか。来未も、許さないのではないか。

 ぐっと胃のあたりが重くなったように感じて、奥歯を噛む。

「……水波? どうした?」
 綺瀬くんの心配そうな眼差しに、私はハッとして顔を上げた。
「……あ、ううん。大丈夫。ただ、ちょっと思い出しただけ」
「……思い出したって、事故のこと?」

 こくりと頷く。

「どうしてもね、前向きになろうとすると、いつも来未の顔がよぎるんだ」

 お前は人殺しだ。人と同じように生きるなんて許さない。
 そう、耳元で囁かれている気がする。

「……ねぇ、綺瀬くんはだれかに恨まれたことある?」

 綺瀬くんは一瞬目を瞠って、黙り込む。そして、「いや……」と小さく首を振った。

「前にね、朝香に言われたんだ。私が生きていてくれてよかった。出会えてよかったって。……そう言われたとき、すごく嬉しかった」

 こんな私にもそんなことを言ってくれる人がまだいるのかと、涙が出た。

「……でも、来未のお母さんはきっと、私と来未が出会わなければよかったって思ってる」
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