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第4章
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しおりを挟むその日の放課後。
「やっとテスト終わったぁーっ!」
ホームルームが終わり、帰り支度をしていると、朝香が自席で大きく手を伸ばしながら清々しい声を上げた。
「ねぇねぇ水波! 今日このあとどっか行かない?」
突然振られ、反応に遅れる。
「えっ、あ、うん。いいけど……」
「やった! それじゃ……」
「はいはい、賛成っ! 私、ドーナツ食べたいっ」
「今日は部活もないしねぇ。私も行こっかな」
ふたりで話していると、すかさず歩果ちゃんと琴音ちゃんが話に混ざってくる。さすが、反応もフットワークも軽い。
文化祭のあと、私たち四人はぐっと距離が縮まって、学校で一緒に過ごすようになった。
歩果ちゃんは、ちょっと天然だけど人見知りで琴音ちゃんが大好きな女の子。
一方琴音ちゃんはクールビューティでさっぱりしているけれど、裏表がなくきっちりとした性格の、文武両道の優等生。
ふたりとも、話してみるととても気さくでいい子たちだ。私はふたりを歩果ちゃん、琴音ちゃんと呼び、歩果ちゃんは私を水波ちゃん、琴音ちゃんは水波と呼んでくれている。
ふたりとも、私の新しい親友だ。
学校を出ると、私たちは駅前のドーナツショップに入った。
「文化祭が終わってー、テストが終わってー、あぁー今年もどんどん終わってくねぇ」
「もう十月なんて、あっという間だよね!」
「十月と言えばハロウィンだよ!」と、チョコレートがたっぷりかかったリングドーナツを食べながら歩果ちゃんが言った。
「ハロウィンかぁ。じゃあ、今度うちで仮装パーティーでもする?」
「いいね! したいしたい! いっそのこと、学校でもハロウィンのイベントがあればいいのになぁ」
「ははっ、無茶言うなぁ。でも、もしそんなイベントがあったらお菓子食べ放題の日ってことだよね。いいかも」
「それだけじゃないよ、イタズラもし放題だよっ!」
楽しげにはしゃぐ歩果ちゃんたちを、私は一歩引いて見つめた。
「そういえば、来週から修学旅行の話始めるとか言ってたよ」
「マジ?」
「マジ! 今年も沖縄だって!」
「やったぁ!」
「沖縄……」
朝香たちと一緒にいる時間は、文句なしに楽しい。だけど、楽しいと思えば思うほど、心は反対に暗くなっていく。
まるで、呪いにかかったように。毒が全身に回っていくように、身体が重くなっていく。
私はみんなと同じように、こんなふうに人生を楽しんでいいのだろうか。自問自答したところで答えは出ないけれど、問わずにはいられない。
だって……。
「――水波? どうかした?」
ぼんやりしていると、朝香が心配そうな顔をしてこちらを見ていた。ハッとして、顔を上げる。
「ううん。なんでもない」
「そ? あ、そういえば、先生の話なんだった?」
朝香が振り向く。
「あぁ、あれね。なんていうか、えっと……あれはただ、ホームルームではちゃんと先生の話を聞けって説教だった」
突然聞かれ、私は咄嗟に誤魔化してしまった。
「なぁんだ。そんなことでいちいち呼び出さなくてもいいのにね!」
「……それで、なんの話だっけ?」
「あぁ、修学旅行ね! 今度買い出しに行こうかって話! 水波、来週の日曜日空いてる?」
「あぁ……そうなんだ。うん、大丈夫だけど」
頷きながら、ドーナツと一緒に買ったぶどうジュースを飲む。声を弾ませて話の続きをする三人を見つめる。
「必要なものってなんだろうね?」
「水着? あ、あとローファー以外の靴とビーサン!」
「自由行動はたしか私服でいいんだよね?」
「そっか!」
「あ、それなら私、下着もこの際新しいの買いたいなー」
「だね! あーもう修学旅行楽しみ過ぎる! 来週のホームルームはまず班決めからするって言ってたよね!」
「ねぇねぇ、修学旅行の班って四人で一班なんでしょ? それなら私たち一緒になろうよ!」
「いいね! そうしよ!」
「やったー! めっちゃ楽しみっ! ねっ! 水波!」
朝香に話しかけられ、ハッとする。
「あ……うん、そうだね」
わいわい盛り上がるなかで、私はただ曖昧に微笑む。テーブルの下で、私は震える手を押さえるようにして握り込んだ。
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