上 下
40 / 85
第3章

15

しおりを挟む
 小さな身体がさらに小さくなる。今にも泣きそうな横顔が見えて、私は思わず、歩果ちゃんの手をきゅっと握り返した。

「……あの、私が出しゃばることじゃないかもしれないけど」
「歩果ちゃんは、ずっと琴音ちゃんのこと考えてたよ」

 ふたりの視線が、私に向く。

「榛名さん?」
「……いきなりごめん。私部外者だけど、歩果ちゃんから少し話聞いちゃったんだ。それで思ったの。琴音ちゃんはさっき、いつまでぐだぐた言ってるのって言ったけど……歩果ちゃんは琴音ちゃんに怒ってるんじゃないと思うよ」
「え?」
「きっと、寂しかったんだよ」
「寂しかった……?」

 琴音ちゃんは戸惑いがちに、私と歩果ちゃんを交互に見つめた。

「琴音ちゃんも、歩果ちゃんと私がいるところを見て、なんでって思っただろうけど……でもそれも、歩果ちゃんを大切に思っているからこそであって、歩果ちゃんに怒っているからじゃないでしょ? ふたりとも寂しかったんだよね。じぶんにとってすごく大切な友達が、急に他人に取られちゃったような気がして。ね、歩果ちゃん」
「うん……私……本当はずっと、琴ちゃんと仲直りしたかった。今日も、本当は琴ちゃんと一緒に回りたかった。……意地張ってごめんなさい」
「歩果……」

 琴音ちゃんは小さく首を振り、歩果ちゃんへ歩み寄る。

「ごめん、歩果……私、バスケ部のみんなが歩果と話したいって言ってたから、私も私の友達を紹介したくて……歩果の気持ちも考えずに勝手なことした。歩果が人見知りなのは知ってたのに……私こそ、ごめん」

 そう言って、ふたりはちょっと恥ずかしそうに微笑み合った。
 無事仲直りして笑うふたりを見て、私もどこか、心が軽くなったような気がした。


 その後、私はお祭りの喧騒から切り離された中庭にいた。
 噴水の縁に腰を下ろして、自販機で買ったトマトジュースを開ける。
 ストローを咥えたまま空を見上げると、抜けるような青空が見えた。視線を落とし、遠くから聞こえてくる賑やかな音に耳を傾ける。

 歩果ちゃんと琴音ちゃんを見て、思い出したことがある。

 二年前のあの日、私は来未と喧嘩をした。喧嘩と言っても、今日のふたりみたいな感じで、無視し合っていたのだ。
 なにかのきっかけで来未が私を無視し始めて、それで私も怒って、来未を無視した。

 あのとき来未は、フェリーからひとりで出て行ってしまって……残された私はどうしたんだっけ……?

 どこかにあるであろう記憶を探しているときだった。

「やぁ」

 突然頭上から声が降ってきて、その声に弾かれたように顔を上げる。

「え……あ、綺瀬くん!?」

 目の前に、綺瀬くんがいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛されたのは私の親友

hana
恋愛
結婚二年。 私と夫の仲は冷え切っていた。 頻発に外出する夫の後をつけてみると、そこには親友の姿があった。

続編&対のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

ただ巻き芳賀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】

S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。 物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。

処理中です...