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第3章
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小さな身体がさらに小さくなる。今にも泣きそうな横顔が見えて、私は思わず、歩果ちゃんの手をきゅっと握り返した。
「……あの、私が出しゃばることじゃないかもしれないけど」
「歩果ちゃんは、ずっと琴音ちゃんのこと考えてたよ」
ふたりの視線が、私に向く。
「榛名さん?」
「……いきなりごめん。私部外者だけど、歩果ちゃんから少し話聞いちゃったんだ。それで思ったの。琴音ちゃんはさっき、いつまでぐだぐた言ってるのって言ったけど……歩果ちゃんは琴音ちゃんに怒ってるんじゃないと思うよ」
「え?」
「きっと、寂しかったんだよ」
「寂しかった……?」
琴音ちゃんは戸惑いがちに、私と歩果ちゃんを交互に見つめた。
「琴音ちゃんも、歩果ちゃんと私がいるところを見て、なんでって思っただろうけど……でもそれも、歩果ちゃんを大切に思っているからこそであって、歩果ちゃんに怒っているからじゃないでしょ? ふたりとも寂しかったんだよね。じぶんにとってすごく大切な友達が、急に他人に取られちゃったような気がして。ね、歩果ちゃん」
「うん……私……本当はずっと、琴ちゃんと仲直りしたかった。今日も、本当は琴ちゃんと一緒に回りたかった。……意地張ってごめんなさい」
「歩果……」
琴音ちゃんは小さく首を振り、歩果ちゃんへ歩み寄る。
「ごめん、歩果……私、バスケ部のみんなが歩果と話したいって言ってたから、私も私の友達を紹介したくて……歩果の気持ちも考えずに勝手なことした。歩果が人見知りなのは知ってたのに……私こそ、ごめん」
そう言って、ふたりはちょっと恥ずかしそうに微笑み合った。
無事仲直りして笑うふたりを見て、私もどこか、心が軽くなったような気がした。
その後、私はお祭りの喧騒から切り離された中庭にいた。
噴水の縁に腰を下ろして、自販機で買ったトマトジュースを開ける。
ストローを咥えたまま空を見上げると、抜けるような青空が見えた。視線を落とし、遠くから聞こえてくる賑やかな音に耳を傾ける。
歩果ちゃんと琴音ちゃんを見て、思い出したことがある。
二年前のあの日、私は来未と喧嘩をした。喧嘩と言っても、今日のふたりみたいな感じで、無視し合っていたのだ。
なにかのきっかけで来未が私を無視し始めて、それで私も怒って、来未を無視した。
あのとき来未は、フェリーからひとりで出て行ってしまって……残された私はどうしたんだっけ……?
どこかにあるであろう記憶を探しているときだった。
「やぁ」
突然頭上から声が降ってきて、その声に弾かれたように顔を上げる。
「え……あ、綺瀬くん!?」
目の前に、綺瀬くんがいた。
「……あの、私が出しゃばることじゃないかもしれないけど」
「歩果ちゃんは、ずっと琴音ちゃんのこと考えてたよ」
ふたりの視線が、私に向く。
「榛名さん?」
「……いきなりごめん。私部外者だけど、歩果ちゃんから少し話聞いちゃったんだ。それで思ったの。琴音ちゃんはさっき、いつまでぐだぐた言ってるのって言ったけど……歩果ちゃんは琴音ちゃんに怒ってるんじゃないと思うよ」
「え?」
「きっと、寂しかったんだよ」
「寂しかった……?」
琴音ちゃんは戸惑いがちに、私と歩果ちゃんを交互に見つめた。
「琴音ちゃんも、歩果ちゃんと私がいるところを見て、なんでって思っただろうけど……でもそれも、歩果ちゃんを大切に思っているからこそであって、歩果ちゃんに怒っているからじゃないでしょ? ふたりとも寂しかったんだよね。じぶんにとってすごく大切な友達が、急に他人に取られちゃったような気がして。ね、歩果ちゃん」
「うん……私……本当はずっと、琴ちゃんと仲直りしたかった。今日も、本当は琴ちゃんと一緒に回りたかった。……意地張ってごめんなさい」
「歩果……」
琴音ちゃんは小さく首を振り、歩果ちゃんへ歩み寄る。
「ごめん、歩果……私、バスケ部のみんなが歩果と話したいって言ってたから、私も私の友達を紹介したくて……歩果の気持ちも考えずに勝手なことした。歩果が人見知りなのは知ってたのに……私こそ、ごめん」
そう言って、ふたりはちょっと恥ずかしそうに微笑み合った。
無事仲直りして笑うふたりを見て、私もどこか、心が軽くなったような気がした。
その後、私はお祭りの喧騒から切り離された中庭にいた。
噴水の縁に腰を下ろして、自販機で買ったトマトジュースを開ける。
ストローを咥えたまま空を見上げると、抜けるような青空が見えた。視線を落とし、遠くから聞こえてくる賑やかな音に耳を傾ける。
歩果ちゃんと琴音ちゃんを見て、思い出したことがある。
二年前のあの日、私は来未と喧嘩をした。喧嘩と言っても、今日のふたりみたいな感じで、無視し合っていたのだ。
なにかのきっかけで来未が私を無視し始めて、それで私も怒って、来未を無視した。
あのとき来未は、フェリーからひとりで出て行ってしまって……残された私はどうしたんだっけ……?
どこかにあるであろう記憶を探しているときだった。
「やぁ」
突然頭上から声が降ってきて、その声に弾かれたように顔を上げる。
「え……あ、綺瀬くん!?」
目の前に、綺瀬くんがいた。
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