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第3章
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しばらくすると、綺瀬くんは身体を離して私の顔を覗き込んだ。
「……なんかあった?」
「うん」
私は綺瀬くんの胸に顔を押し付けたまま、
「お母さんとお父さんとちゃんと話せたよ」
「うん」
「ふたりとも、すごくすごく私のこと考えてくれてた」
「そっか」
「夜の外出は八時までって言われたけど」
「……うん、まぁ、そうだよね。それがいい。危ないから」
「えー」
「ふふ」
綺瀬くんが苦笑する。そこはもっと落ち込んでほしかった。
「それで?」
「……それからね、友達ができたよ」
「えっ?」
顔を上げてはにかみながら言うと、綺瀬くんはきょとんとした。
「向き合うの怖かったけど……でも向き合ってよかった。友達になりたいって言えてよかった」
綺瀬くんの顔に、じわじわと笑みが広がっていく。
「……そっか。なんだ、そっか……。よかった」と、綺瀬くんは柔らかく笑った。
「良かったね」
「うん。ぜんぶ綺瀬くんのおかげだよ」
「そんなことないよ。水波が勇気出したからだよ」
じんわりと心があたたまっていく。
「ねぇ、手繋いでくれる?」
「ん」
綺瀬くんが手を差し出す。その手を取って、ベンチに並んで座る。街並みを見下ろしながら、私たちは何気ない話をする。
「あ、そうだ、これ。綺瀬くんにお礼しようと思って、うちの名物のプリンあんまん買ってきた。あげる」
カバンから、朝香お気に入りの購買パンを出すと、綺瀬くんの瞳が輝いた。
「ちょうどお腹減ってたんだ。ありがとう」
「美味しくないから覚悟してね」
「えっ、美味しくないの?」
ぽーんと目を丸くした綺瀬くんの顔がおかしくて、つい笑ってしまった。「冗談だよ」と付け足すと、綺瀬くんは拍子抜けしたように微笑んだ。
「じゃあ、半分こね。水波ほっそいからちゃんと食べろよ」
「えーでも、これでカロリー取るのはなぁ。どうせならドーナツとか」
「文句を言うんじゃありません」
「ハイ」
プリンあんまんの片割れを綺瀬くんから受け取ると、同時に訊かれた。
「学校は楽しい?」
綺瀬くんはプリンあんまんを咥えながら、優しい眼差しで私を見た。
「うん。楽しい。あのね、もうすぐ文化祭なんだ。朝香から、今年は一緒に回ろうって誘われてて……」
「おっ。それは楽しみだね」
綺瀬くんはいつもよりのんびりとした声で言った。
「いいなぁ。文化祭かぁ……」
綺瀬くんは、どこか遠い目をして呟いた。
「綺瀬くんは、文化祭出たことある?」
「うん、あるよ」
まるで用意しておいた答えのように綺瀬くんはそう言った。
「文化祭は高校生限定のイベントだからね。絶対サボっちゃダメだからね?」
「……うん。あのさ……」
綺瀬くんは、どこの学校に行っているの? 何年生?
聞きたいけれど、聞いたら答えてくれるのだろうか。もしも言いたくないことだったら、迷惑になる。
……それに、なんでだろう、聞くのが少しだけ怖い。
ざわ、と風が吹いた。綺瀬くんのにおいと、秋の気配。どこか懐かしさを感じる横顔。
でも、なぜ?
綺瀬くんとは会ったばかりなのに。懐かしいと感じるほど、よく知らないはずなのに。
心がざわつく。
突然黙り込んだ私を、綺瀬くんが覗き込んでくる。
「どうした?」
静かに首を振る。
「……ううん。なんでもない」
心の戸惑いを誤魔化すように曖昧に微笑み、私はプリンあんまんをかじった。
「……なんかあった?」
「うん」
私は綺瀬くんの胸に顔を押し付けたまま、
「お母さんとお父さんとちゃんと話せたよ」
「うん」
「ふたりとも、すごくすごく私のこと考えてくれてた」
「そっか」
「夜の外出は八時までって言われたけど」
「……うん、まぁ、そうだよね。それがいい。危ないから」
「えー」
「ふふ」
綺瀬くんが苦笑する。そこはもっと落ち込んでほしかった。
「それで?」
「……それからね、友達ができたよ」
「えっ?」
顔を上げてはにかみながら言うと、綺瀬くんはきょとんとした。
「向き合うの怖かったけど……でも向き合ってよかった。友達になりたいって言えてよかった」
綺瀬くんの顔に、じわじわと笑みが広がっていく。
「……そっか。なんだ、そっか……。よかった」と、綺瀬くんは柔らかく笑った。
「良かったね」
「うん。ぜんぶ綺瀬くんのおかげだよ」
「そんなことないよ。水波が勇気出したからだよ」
じんわりと心があたたまっていく。
「ねぇ、手繋いでくれる?」
「ん」
綺瀬くんが手を差し出す。その手を取って、ベンチに並んで座る。街並みを見下ろしながら、私たちは何気ない話をする。
「あ、そうだ、これ。綺瀬くんにお礼しようと思って、うちの名物のプリンあんまん買ってきた。あげる」
カバンから、朝香お気に入りの購買パンを出すと、綺瀬くんの瞳が輝いた。
「ちょうどお腹減ってたんだ。ありがとう」
「美味しくないから覚悟してね」
「えっ、美味しくないの?」
ぽーんと目を丸くした綺瀬くんの顔がおかしくて、つい笑ってしまった。「冗談だよ」と付け足すと、綺瀬くんは拍子抜けしたように微笑んだ。
「じゃあ、半分こね。水波ほっそいからちゃんと食べろよ」
「えーでも、これでカロリー取るのはなぁ。どうせならドーナツとか」
「文句を言うんじゃありません」
「ハイ」
プリンあんまんの片割れを綺瀬くんから受け取ると、同時に訊かれた。
「学校は楽しい?」
綺瀬くんはプリンあんまんを咥えながら、優しい眼差しで私を見た。
「うん。楽しい。あのね、もうすぐ文化祭なんだ。朝香から、今年は一緒に回ろうって誘われてて……」
「おっ。それは楽しみだね」
綺瀬くんはいつもよりのんびりとした声で言った。
「いいなぁ。文化祭かぁ……」
綺瀬くんは、どこか遠い目をして呟いた。
「綺瀬くんは、文化祭出たことある?」
「うん、あるよ」
まるで用意しておいた答えのように綺瀬くんはそう言った。
「文化祭は高校生限定のイベントだからね。絶対サボっちゃダメだからね?」
「……うん。あのさ……」
綺瀬くんは、どこの学校に行っているの? 何年生?
聞きたいけれど、聞いたら答えてくれるのだろうか。もしも言いたくないことだったら、迷惑になる。
……それに、なんでだろう、聞くのが少しだけ怖い。
ざわ、と風が吹いた。綺瀬くんのにおいと、秋の気配。どこか懐かしさを感じる横顔。
でも、なぜ?
綺瀬くんとは会ったばかりなのに。懐かしいと感じるほど、よく知らないはずなのに。
心がざわつく。
突然黙り込んだ私を、綺瀬くんが覗き込んでくる。
「どうした?」
静かに首を振る。
「……ううん。なんでもない」
心の戸惑いを誤魔化すように曖昧に微笑み、私はプリンあんまんをかじった。
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