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第3章

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「……私ね、これからも朝香にいろいろ気を遣わせちゃうと思う。迷惑もかけるだろうし……喧嘩もするかも。でも、それでも私、朝香が好き。朝香の笑い声も、朝香とのおしゃべりも大好き。……だから、これからも友達でいたい」

 見ると、朝香は静かに涙を流していた。ぎょっとする。

「えっ……あ、あの」
 どうしよう、とおろおろしていると、朝香がガバッと私に抱きついてきた。
「!」
「水波っ! 話してくれてありがとう……」
 朝香は私を抱き締めたまま、私に言う。
「今まで辛かったね。よく頑張ったね」と、朝香は私の背中を撫でながら何度もそう言ってくれた。
 朝香のセリフに感極まって泣き出した私を、朝香はさらにぎゅっと抱き締めた。
「私、決めたよ。一生水波と一緒にいる」
「え……?」
「私、一生水波と一緒にいる」

 朝香は私の肩を掴み、まっすぐに私を見つめて言った。

「水波はこれまで、ひとりぼっちで寂しかったんでしょ? 事故の前はその子がいたけど、事故で失って……ううん。きっと水波、自分のせいでその子が死んだって思ってるんだよね。だからそんな夢を見るんだ。親にも心配かけたくなくて言えなかったんだよね。……でも、その男の子に言ったら楽になったんでしょ? 状況が少し変わったんでしょ? なら、私もその役やるよ」

 掴まれた肩がちょっと痛い。朝香が決意が伝わるようだった。
「私はその男の子みたいにいいこととかアドバイスとかは言えないけど……一緒にいることならできる。水波がひとりぼっちにならないようにすることだけはできる。あの事故は水波のせいなんかじゃないって、何回だって言ってあげる。だから、今のは決意表明だよ」
「朝香……」
「……ふふ。私、その男の子にお礼が言いたいな」
「え?」
「だって、その子がいなかったら私、水波とこうやって話せてなかったよ。友達にもなれてかった。とにかく、水波が生きててくれてよかった」

 朝香の頬をつたう透き通った涙を見て、私は頷く。

「私も、あの日死ななくてよかった。朝香とこうして友達になれてよかった。ありがとう……」
「もうっ! 泣くなー!」
 朝香は私以上にぽとぽと涙を落としながら、昼休みが終わるまでずっと抱き締めてくれていた。


 ***


 綺瀬くん。綺瀬くん。綺瀬くん。
 心の中で綺瀬くん、と何度も彼の名前を叫ぶ。
 綺瀬くんの言う通りだったよ。話してみなきゃ、分からないんだね。話して救われることもあるんだね。ぜんぶ、綺瀬くんのおかげだよ。ありがとう。

 会いたいな。公園にいるかな。いますように。

 祈りながら、私は石段を駆け上がる。
 山の上にある神社の、さらに上。街が見渡せる広場のベンチ。
 そこに、綺瀬くんはいた。
「綺瀬くんっ!」

 石段を登り切る前に綺瀬くんの姿が見えて、私は綺瀬くんの名前を呼びながら石段を駆け上がった。

「水波! 久しぶり」
 綺瀬くんは、私を見るとにっこりと笑う。
「綺瀬くん!」
 一週間ぶりに会った綺瀬くんはやっぱり夏と切り離されたように涼しげで、少し現実離れしている。
 私は目が合うなり駆け出し、勢いよく綺瀬くんに抱き着いた。
「わっ……ど、どうしたの水波」

 綺瀬くんは戸惑いながらも私を優しく受け止める。
「会いたかった……」
 ぎゅうっと抱きつくと、綺瀬くんは優しく抱き締め返してくれる。
「ん。俺も」

 あたたかい。あたたかくて、涙が出そう。
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