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第3章
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「あの事故のあとから、私……夜ぜんぜん眠れなくなって。夜っていうか、まぁ昼間でも眠れないんだけど。いつも夢を見るんだ。傾いていくフェリーを滑り落ちながら、親友が助けてって手を伸ばしてくる夢。でもね、夢の中でも私は一度もその子を助けられたことがないんだ」
一度言葉を止めると、朝香は今にも泣きそうな顔をして私を見つめていた。
「あ……ごめんね、こんな重い話。やっぱりやめようか」
慌てて言うと、朝香は潤んだ瞳をまっすぐ私に向けて、首を横に振った。
「ううん、続けて。……さっきは話したくなったらでいいって言ったけど、やっぱり聞きたい」
「……うん」
頷いて、再び口を開く。
「……事故のあと、みんなよそよそしくなったんだ。お母さんもお父さんも、友達も。仕方ないよね。私以外みんな死んじゃってるんだし。同じフェリーに乗ってた私にも、どう接していいか分からなかったんだと思う。でもね、その窺うような視線がいやで、話すことをやめたんだ。私が話しかけに行くと、みんな笑顔を引き攣らせるから……そういう顔を見たくなくて」
だからもう、ひとりでいいやって諦めた。
これは罰。私だけ生き残ってしまった罰。親友を助けられなかった罰なのだとじぶんに言い聞かせた。
「……私、この前死のうとしたんだ」
「え……?」
朝香が息を呑む音がした。
「親友の命日の日、その子のお母さんに、あなたが死ねばよかったのにって言われて、私は生きてちゃいけないんだって気付いた。……ううん。本当は最初から気付いてた。でも、気付かないふりをしてたの。だけど、気付かないふりをするのももう限界で」
八月九日。私は、じぶんで人生を終わらせようとした。
だけど。その日、私は運命に出会った。
耳の奥で、あの日聴いたお囃子の音が響く。
「……だけど、死のうとした日にね、ある男の子に出会ったんだ」
「男の子?」
「うん。その子も大切な人を失っていてね。泣きながら、私にそばにいてって言ってくれたの。私がずっと言いたくて言えなかった言葉を、その子が代わりに言ってくれたんだ」
朝香は柔らかい顔で私を見つめてくれていた。
「それでね、あとでその子に言われたの。俺たちはエスパーじゃないから、心の中までは分からないよって。いくら仲のいい友達でも、ましてや家族だって、心の中までは分からない。だから、ちゃんと話さないとダメだよって」
顔を上げて、朝香を見る。
もう友達なんていらないと思っていた。
でも、綺瀬くんと出会って、だれかと向き合うことの大切さを教えてもらって。本当はじぶんが、なによりそういう存在を求めていたことに気付いた。
一度言葉を止めると、朝香は今にも泣きそうな顔をして私を見つめていた。
「あ……ごめんね、こんな重い話。やっぱりやめようか」
慌てて言うと、朝香は潤んだ瞳をまっすぐ私に向けて、首を横に振った。
「ううん、続けて。……さっきは話したくなったらでいいって言ったけど、やっぱり聞きたい」
「……うん」
頷いて、再び口を開く。
「……事故のあと、みんなよそよそしくなったんだ。お母さんもお父さんも、友達も。仕方ないよね。私以外みんな死んじゃってるんだし。同じフェリーに乗ってた私にも、どう接していいか分からなかったんだと思う。でもね、その窺うような視線がいやで、話すことをやめたんだ。私が話しかけに行くと、みんな笑顔を引き攣らせるから……そういう顔を見たくなくて」
だからもう、ひとりでいいやって諦めた。
これは罰。私だけ生き残ってしまった罰。親友を助けられなかった罰なのだとじぶんに言い聞かせた。
「……私、この前死のうとしたんだ」
「え……?」
朝香が息を呑む音がした。
「親友の命日の日、その子のお母さんに、あなたが死ねばよかったのにって言われて、私は生きてちゃいけないんだって気付いた。……ううん。本当は最初から気付いてた。でも、気付かないふりをしてたの。だけど、気付かないふりをするのももう限界で」
八月九日。私は、じぶんで人生を終わらせようとした。
だけど。その日、私は運命に出会った。
耳の奥で、あの日聴いたお囃子の音が響く。
「……だけど、死のうとした日にね、ある男の子に出会ったんだ」
「男の子?」
「うん。その子も大切な人を失っていてね。泣きながら、私にそばにいてって言ってくれたの。私がずっと言いたくて言えなかった言葉を、その子が代わりに言ってくれたんだ」
朝香は柔らかい顔で私を見つめてくれていた。
「それでね、あとでその子に言われたの。俺たちはエスパーじゃないから、心の中までは分からないよって。いくら仲のいい友達でも、ましてや家族だって、心の中までは分からない。だから、ちゃんと話さないとダメだよって」
顔を上げて、朝香を見る。
もう友達なんていらないと思っていた。
でも、綺瀬くんと出会って、だれかと向き合うことの大切さを教えてもらって。本当はじぶんが、なによりそういう存在を求めていたことに気付いた。
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