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第2章

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「でも、そんなこと言ったらお母さんは余計に心配しちゃうから、ずっと言えなかった……本当は、ぜんぶ聞いてほしかった。大丈夫って言ってほしかった。なにも変わらなくてもいいから、ただ言いたかった……!」

 顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら、私はずっと喉の奥に詰まらせていた言葉を吐き出す。

「だけど、私のせいで悲しむふたりを見るのが辛くて……ずっと言えなかった。思ってないことばかり、言ってた。今まで、いやなことたくさん言ってごめんなさい。ずっと心配かけてごめんなさい。今までずっと謝れなくてごめんなさい。……あの日からずっと、じぶんでじぶんの心もよく分からなくなってて、それで……ずっと考えてた。こんなことなら私、生き残らないほうがよかったのかなって……」

 お母さんが私を抱き締めた。

「そんなわけないでしょう!」
 そう叫んだお母さんの声は潤んでいた。

「バカなこと言わないで! 生き残らないほうがよかったなんて……そんな悲しいこと言わないで。……ごめんなさい……私こそ、あなたを苦しめてるなんてぜんぜん思ってなくて……傷ついた水波を見てどうしたらいいのか、どうしたら元気になってくれるのか分からなくて……ごめんね。水波。お母さん、水波のこと追い詰めてたんだね。気付いてあげられなくて、ごめんね……」

 震えるお母さんの声と指先に、涙が溢れて止まらない。私はお母さんにぎゅっと抱きついた。

 綺瀬くんの言う通りだ。ただ心で思っているだけじゃ、なにも伝わらない。

「話してくれてありがとうね……」
「……うん」

 お母さんに抱き締められて、お母さんの心の内を聞いて、少しだけ心が軽くなった気がした。
 お母さんも、迷っていたんだ。恐ろしい事故に遭って、親友を亡くした娘にかける言葉を探して探して、でも分からなくて、悩んでいた。

「……お母さん、ありがとう。話、聞いてくれて」
 お母さんはぶんぶんと首を振って、私の両頬に手を添える。

「水波にはお母さんもお父さんもいるから大丈夫。絶対ひとりになんてしないから。だからね、水波……お願いだからもう、ひとりで抱え込もうとしないで。一緒に乗り越えていこう」

 力強く言うお母さんを、私は口をぎざぎざにして見上げ、こくこくと頷く。

「うん……っ!」
 お互いに気を遣い過ぎていたんだ。

 玄関で泣きじゃくる私を、お母さんはなにも言わずに抱き締めてくれていた。

 その日の夜は、久しぶりにお母さんとお父さんと三人で並んで眠った。

 それでもやっぱり悪夢は見てしまって、ほとんど眠れなかったけれど、私がうなされているとお母さんがすぐに起こしてくれて、そっと手を握ってくれた。

 私は浅い眠りを繰り返しながらも、以前より少しだけ、眠るのが怖くはなくなった。

 三人で並んで眠った翌日の朝、私は朝食を食べながら、キッチンに立つお母さんへ訊ねた。
「お母さん。聞きたいことがあるの」
「なに?」

 お母さんは忙しなくお弁当用の唐揚げを揚げながら、ちらりと私を見る。

「私って、どこかおかしいのかな?」
「……え?」

 お母さんは火を止めて、戸惑いがちに私を見る。それまで新聞を読んでいたお父さんも顔を上げ、私を見た。

「どうしたんだ、急に」
「……そのよく分からないけど、事故からしばらく経つのに、未だに病院に連れていかれるし……検査とかもあるし……私、もしかしたら後遺症とかがあって、どこか悪いのかなって」

 身体はなんともない。自覚症状なんてものもない。でも、自分では分からないこともある。自覚してないだけで、身体の中でなにかが起こっていてもおかしくはない。

「私、病気なの?」

 恐る恐る訊ねると、お母さんとお父さんは戸惑いがちに顔を見合わせた。意味深な目配せが、さらに私の心を乱した。
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