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第2章

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 その日の放課後、私は綺瀬くんに会いに行った。
 帰り道に駅前に新しくできたドーナツ屋さんで買ってきたドーナツを食べながら、私は学校でのできごとを綺瀬くんに話した。

 今朝、突然とあるクラスメイトに話しかけられたこと。それからその子にぬいぐるみをもらったこと。あまりに突然のことで、彼女の意図が分からない、といった相談だった。

 ドーナツをもぐもぐしながら話を聞いていた綺瀬くんは、ごくんと喉を鳴らしてドーナツを飲み込むと、小さく笑った。

「それはもちろん、水波と仲良くしたいからじゃない?」
「でも私、同じクラスっていっても志田さんとぜんぜん話したことないし、友達になりたいなんて思ってもらえるようななにかをした記憶もないよ」
「そんなこと関係ないよ。その子はただ、この子可愛いな、友達になりたいなって思っただけじゃない?」
「か、可愛い?」
「え、うん。可愛いよ、水波は」

 ぼぼっと顔が熱くなるのを感じた。綺瀬くんはときどき、唐突にそういう言葉を吐くので反応に困る。

「そ、そんなことないから……」

 ない。まず有り得ない。学校での私はぜんぜん愛想なんてよくないし、話しかけるなオーラ全開だし。

 ……でも。

「友達……か」
 ちらりと綺瀬くんを見る。

 もし、友達を作るのなら、まずは綺瀬くんとそういう関係になりたいと思う。というか、今の私たちの関係ってなんなのだろう。

 友達じゃないし、恋人でもない。ということは、お互いの傷を癒すためのただの手繋ぎ要員、といったところだろうか。

 私たちはお互い孤独で、それぞれ胸にぽっかりと空いた穴を埋めるためだけに一緒にいる。

「ん?」

 私の視線に気付いた綺瀬くんがこちらを見る。カチッと目が合って、私は思わずばっと顔ごと逸らした。

「……どうしたの?」
「……ううん。なんでもない」

 訝しげに訊ねてくる綺瀬くんに笑みを返すと、綺瀬くんはなぜだかムッとした顔をした。

「まったく。水波はいつもそうやって言葉を飲み込む。それ、あんまりよくないよ。飲み込んだ言葉は消えない。埃みたいにどんどん積もっていく」

 そしていつか、じぶんで溜め込んだ言葉に窒息するんだ、と綺瀬くんは言った。

「俺には我慢しなくていいんだよ」

 ……我慢。

 私はなにを我慢しているのだろう。それすら今はよく分からないけれど……。
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