19 / 85
第2章
6
しおりを挟むその日の放課後、私は綺瀬くんに会いに行った。
帰り道に駅前に新しくできたドーナツ屋さんで買ってきたドーナツを食べながら、私は学校でのできごとを綺瀬くんに話した。
今朝、突然とあるクラスメイトに話しかけられたこと。それからその子にぬいぐるみをもらったこと。あまりに突然のことで、彼女の意図が分からない、といった相談だった。
ドーナツをもぐもぐしながら話を聞いていた綺瀬くんは、ごくんと喉を鳴らしてドーナツを飲み込むと、小さく笑った。
「それはもちろん、水波と仲良くしたいからじゃない?」
「でも私、同じクラスっていっても志田さんとぜんぜん話したことないし、友達になりたいなんて思ってもらえるようななにかをした記憶もないよ」
「そんなこと関係ないよ。その子はただ、この子可愛いな、友達になりたいなって思っただけじゃない?」
「か、可愛い?」
「え、うん。可愛いよ、水波は」
ぼぼっと顔が熱くなるのを感じた。綺瀬くんはときどき、唐突にそういう言葉を吐くので反応に困る。
「そ、そんなことないから……」
ない。まず有り得ない。学校での私はぜんぜん愛想なんてよくないし、話しかけるなオーラ全開だし。
……でも。
「友達……か」
ちらりと綺瀬くんを見る。
もし、友達を作るのなら、まずは綺瀬くんとそういう関係になりたいと思う。というか、今の私たちの関係ってなんなのだろう。
友達じゃないし、恋人でもない。ということは、お互いの傷を癒すためのただの手繋ぎ要員、といったところだろうか。
私たちはお互い孤独で、それぞれ胸にぽっかりと空いた穴を埋めるためだけに一緒にいる。
「ん?」
私の視線に気付いた綺瀬くんがこちらを見る。カチッと目が合って、私は思わずばっと顔ごと逸らした。
「……どうしたの?」
「……ううん。なんでもない」
訝しげに訊ねてくる綺瀬くんに笑みを返すと、綺瀬くんはなぜだかムッとした顔をした。
「まったく。水波はいつもそうやって言葉を飲み込む。それ、あんまりよくないよ。飲み込んだ言葉は消えない。埃みたいにどんどん積もっていく」
そしていつか、じぶんで溜め込んだ言葉に窒息するんだ、と綺瀬くんは言った。
「俺には我慢しなくていいんだよ」
……我慢。
私はなにを我慢しているのだろう。それすら今はよく分からないけれど……。
8
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
麻雀青春物語【カラスたちの戯れ】~牌戦士シリーズepisode3~
彼方
青春
平成の世に後の麻雀界を大きく変える雀士たちがいた。
彼らが運命によって導かれた場所は富士2号店。 そこでは様々な才能がぶつかり合い高め合った。
これは、小さな小さな店の中で起きた壮大な物語。
作画:tomo0111
【絶対攻略不可?】~隣の席のクール系美少女を好きになったらなぜか『魔王』を倒すことになった件。でも本当に攻略するのは君の方だったようです。~
夕姫
青春
主人公の霧ヶ谷颯太(きりがたにそうた)は高校1年生。今年の春から一人暮らしをして、東京の私立高校に通っている。
そして入学早々、運命的な出逢いを果たす。隣の席の柊咲夜(ひいらぎさくや)に一目惚れをする。淡い初恋。声をかけることもできずただ見てるだけ。
ただその関係は突然一変する。なんと賃貸の二重契約により咲夜と共に暮らすことになった。しかしそんな彼女には秘密があって……。
「もしかしてこれは大天使スカーレット=ナイト様のお導きなの?この先はさすがにソロでは厳しいと言うことかしら……。」
「え?大天使スカーレット=ナイト?」
「魔王を倒すまではあなたとパーティーを組んであげますよ。足だけは引っ張らないでくださいね?」
「あの柊さん?ゲームのやりすぎじゃ……。」
そう咲夜は学校でのクール系美少女には程遠い、いわゆる中二病なのだ。そんな咲夜の発言や行動に振り回されていく颯太。
この物語は、主人公の霧ヶ谷颯太が、クール系美少女の柊咲夜と共に魔王(学校生活)をパーティー(同居)を組んで攻略しながら、咲夜を攻略(お付き合い)するために奮闘する新感覚ショートラブコメです。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
おそらくその辺に転がっているラブコメ。
寝癖王子
青春
普遍をこよなく愛する高校生・神野郁はゲーム三昧の日々を過ごしていた。ルーティンの集積の中で時折混ざるスパイスこそが至高。そんな自論を掲げて生きる彼の元に謎多き転校生が現れた。某ラブコメアニメの様になぜか郁に執拗に絡んでくるご都合主義な展開。時折、見せる彼女の表情のわけとは……。
そして、孤高の美女と名高いが、その実口を開けば色々残念な宍戸伊澄。クラスの問題に気を配るクラス委員長。自信家の生徒会長……etc。個性的な登場人物で織りなされるおそらく大衆的なラブコメ。
陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜
136君
青春
俺に青春など必要ない。
新高校1年生の俺、由良久志はたまたま隣の席になった有田さんと、なんだかんだで同居することに!?
絶対に他には言えない俺の秘密を知ってしまった彼女は、勿論秘密にすることはなく…
本当の思いは自分の奥底に隠して繰り広げる青春ラブコメ!
なろう、カクヨムでも連載中!
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330647702492601
なろう→https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5319hy/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる