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第2章

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 学校帰り、コンビニに寄ってアイスの買い食いをはじめてした。お昼をだれかと一緒に食べるのもはじめて。休みの日に待ち合わせをしてカフェに行って、ショッピングをしたのも来未がはじめて。

 はじめての友達。はじめての親友。来未は間違いなく、私のヒーローだった。

 来未と仲良くなってから、私の世界は変わった。

 薄汚れた灰色の世界にいた私の瞳の中に、七色のクレヨンで描いたようなきれいな虹が生まれた。
 来未との思い出や来未からもらった言葉なんかがころころとした宝石や砂のように混ざっていて、私の瞳はいつの間にか、万華鏡まんげきょうに変わっていたのだった。

 来未と一緒に見る世界は、道端に落ちたガラクタすら輝いて見えた。

 来未以外のクラスメイトと話すことも増えて、無視されるということはなくなった。先生からは特に謝罪などはなかったけれど、ただ私に対してあからさまに態度を変えるということをやめた。

 ぜんぶ、来未のおかげ。

『まったくバカだなぁ』

 あの口癖を最後に聞いたのは、いつだったっけ。
 ずっと聞けると思っていた。高校生になっても、大人になっても。あの声を、この先もずっとずっと聞けると思っていた。

 それなのに、あの、旅行の日。

 沖縄で予約していたフェリーで、私は来未と喧嘩してしまった。そして、仲直りする前に、あの事故が起きた。

 あれ。私、あのときなんで来未と喧嘩したんだっけ……。
 思い出そうとしたとき、ずきんと頭が割れるように響いた。
 小さく呻き声を上げ、頭を抱える。

『水波』
 来未……。

『水波』

 私を呼ぶ声が、どろんと水の中に落ちていく。来未の姿は波に呑まれて見えない。ただ、海面から苦しげに大きく広げた手だけが伸びていた。

 やだ、待って。行かないで。行かないでよ、来未……っ!

「……なみ、水波っ!」

 大きな声で名前を呼ばれて、ハッと目が覚めた。

 すぐ目の前に、お母さんの顔がある。心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「あ……お母さん」
「水波、ごめんね。うなされてたから起こしたんだけど……最近よくうなされてるみたいだけど、ちゃんと眠れてるの?」

 大きく息を吐きながら、額に張り付いた前髪をかきあげる。

「……うん、大丈夫」

 お母さんから目を逸らし、小さく答える。よろよろと起き上がると、背中がぐっしょりと汗で濡れていた。気持ち悪い。

「でも水波……」
「大丈夫だから。着替えるから、出てって」

 お母さんの言葉を遮るように言うと、お母さんは困ったように口を噤んで、部屋を出ていった。
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