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第1章
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しおりを挟むふと目を開けると、満天の星空が見えた。
目の前に広がる夜空は霧が晴れたようにすっきりとしていて、星が溢れんばかりに輝いている。
星? なんで……。
「あ、起きた?」
すぐ近くで、声がした。
ハッとして振り向くと、浴衣姿の男の子と目が合った。綺瀬くんだ。
「わっ!」
驚いて少し身を離すと、手が繋がれていることに気付く。慌てて離し、綺瀬くんから距離をとった。
「ごっ、ごめん! 私、寝ちゃって……」
自分で言いながら、驚いた。
今、何時? うそ、私どれだけ寝てた!?
見回せば、空はもう真っ暗だ。
こんなに眠りこけるなんて有り得ない。
いつもは眠っても数十分で悪夢にうなされるのに……。
「気にしないでいいよ。俺ものんびりできたし。こんなに穏やかな日は久しぶりだったから」
そう言って、綺瀬くんはくんっと両手を空へ伸ばした。
「……もしかして、ずっと手を繋いでてくれたの?」
訊ねると、綺瀬くんはちょっと申し訳なさそうに笑って、首を横に振った。
「ううん。一回離したんだ。でも、その後ちょっとうなされてるみたいだったから、心配でもう一回握った。そうしたらすっと眠ったようだったから、それからはずっと」
つまり、ほぼずっと綺瀬くんは私に付き合っていてくれたらしい。
「……ごめん」
いくら寝不足だったからって、初対面の人の手を握ったまま眠るなんて有り得ない。
落ち込んでいると、くつくつと笑う声が聞こえた。
「なんで謝るの。そこはありがとうって言ってほしかったかな。俺こそ、こんな美人と添い寝できるなんてラッキーだったんだから」
あっけらかんとした口調に、小さく笑みが漏れた。
「……なにそれ」
笑いながら綺瀬くんを見ると、綺瀬くんはふっと目を閉じて、空へ顔を向けた。月明かりに照らされたその横顔は、ハッとするほど涼しげで美しい。
「俺も、君のぬくもりに慰められたよ。だから、本当にお互い様だよ」
「……そっか。それなら、よかった」
空を見上げ、目を閉じる。
すうっと鼻から息を吸い込む。身体が軽い。頭がすっきりしている。
こんなふうに深い眠りについたのは、事故以来初めてのことだった。
「……ずいぶん、寝不足だったんだね」
控えめに、綺瀬くんが言った。目を開けて、綺瀬くんを見る。躊躇いつつ、小さく頷く。
「……いつも来未が夢に出てきて、ほとんど眠れなかったから」
綺瀬くんがもう一度、私の手を握る。どこまでも澄んだ瞳が、私を映し出す。
「……じゃあ、眠くなったらここにおいで」
「え?」
「俺はいつでもここにいるから。眠くなったら、手を握っててあげる。だから、君のぬくもりを俺にも分けて」
言われて初めて、その手がひんやりしていることに気付いた。
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