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第1章

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「……だから、死のうとしたの?」
 目を伏せ、頷く。また雫がぽろっと落ちた。

 こんなに苦しいのなら、助からなきゃよかった。あのとき、来未と一緒に死んでしまえばよかったんだ。
 そうしたら、こんな苦しまずに済んだのに。

「……もう、終わりにしたかった。死んだら、楽になれると思ったの」

 逃げたかった。でも、生きている限りこの現実は変わらない。
 ……ならば。
 どこに行ったって、逃げ場所がないのなら、もう死ぬしかないではないか。

「……まったくバカだなぁ」
 空に向かって、あの子の真似をして大きな声で言う。
「え……?」
 綺瀬くんが、戸惑いがちに私を見た。
「……来未の口癖だったの。私が落ち込むと、いつもとなりでバカだなぁって言って笑ってた。笑って、気にするなって言ってくれたんだ。そうしたら私も笑って、うん、そうだねって笑い飛ばすことができたの」

 でも……ここにはもう、そう言ってくれる親友はいない。来未は私のせいで、死んだ。

「私、なんで生きてるんだろ……」

 再び目の奥がじんわりと熱くなる。

 生きることがこんなに辛いだなんて思いもしなかった。
 あの事故がなければ、こんな感情は知らずに生きられたのに。
 幸せに笑っていられたのに。
 ……あの事故をなかったことにできたら、どれだけよかっただろう。
 そんなことはできない。分かっている。だから、私は。

「……死にたい」

 荒波のように迫り来る孤独に耐えるようにぎゅっと目を瞑る。すべてを遮断しようとしたとき、頭上から、ふと光の雨のような声が降ってきた。

「それは違うよ」

 顔を上げると、綺瀬くんが私の手をそっと握った。
「君は死にたいんじゃなくて、この苦しみから逃れたいだけだよ」

 この……苦しみから。

「……でも、生きてる限りそんなの無理だよ……っ!」
「そうかな? そんなこと、ないんじゃないかな」
「どういうこと……?」

 首を傾げると、綺瀬くんは私をまっすぐに見つめて言った。
「だって君は、助けられたから生きてるんだよ」
「助けられたから……生きてる……?」

 優しい顔で私を見る綺瀬くんがいる。吸い込まれそうなほど、澄んだ瞳をしていた。まるで、水の惑星そのものを閉じ込めてしまったかのような。

「……せっかく助けられた命なんだから、無駄にしちゃダメじゃん」

 ドラマやなんかでよく聞くような、ありきたりなセリフだと思う。けれど、その言葉はなによりもあたたかく、私の胸にじわじわと沁みていく。

「でも、やっぱり話を聞いてよかったよ」
「……え?」

「君はただ、苦しみから逃げたかっただけ。君にとって、苦しみから逃れるための選択肢のひとつに、死ぬことがあって、君は間違ってそれを選んでしまっただけなんだ」
「選択肢……?」
「そうだよ。でも、死なずに君の苦しみが消える方法だってきっとあるはず。それを一緒に探そう」

 爽やかな微笑みをたたえて、綺瀬くんが告げた。
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