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マーメイドの涙

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 夜明けが近い。そろそろ、時間だ。
「この中で、一番海の秘宝だと思うものをそれぞれ選ぼう」
「多数決ってわけね」
「じっくり話し合いたいが、そうも言っていられないからね」
 とにかく、夜明けが来る前に決めなければならない。
「じゃあ、いっせーのでそれぞれ指すんだよ。いくよ」
「いっせーのっ!」
 私とダリアンとドロシーは、それぞれ自分が持ってきたものを指していた。
「え……」
 自分が選んだものでないものを選んだのは、ふたり。ノアくんとグラアナだ。
「……決まったな」
「……そうだね」
 ふたりが指さしたのは、私が選んだ薄水色の真珠だった。
 海の秘宝は真珠に決定した。
「えっ! 嘘!? ノアくんもグラアナも?」
「全部を眺めて見て、なんとなく真珠かなって。マーメイドでも、涙が真珠になるのはごく稀なんだろ? 選ばれしマーメイドっていうのは、そういうことなんじゃないかなって」
「そういうこと……?」
「真珠の涙を零すくらい、強い思いがあるってこと。この真珠は、海の願いの欠片なんだ」
「そうね。私も、火花が持ってきたこの真珠を見て確信したわ」
「……う、嬉しいけど、でも本当にいいの? これで失敗したら、シュナは……」
「ちょっと、いきなりなに弱気になってるのよ!」
 ダリアンに叱られる。
「だ、だって……なんか自信なくなってきたんだもん」
「あなたがそんなんじゃ、魔法をかけられるシュナがもっと不安になっちゃうじゃない!」
「う……そ、そうだよね、ごめん……」
 でもやっぱり、この真珠でシュナの運命が決まっちゃうって思ったら怖いんだよ~!!
『火花』
 ぶるぶるしていると、シュナが波打ち際までやってきていた。
『火花、聞いて。私ね、火花に会ってとっくに人生が変わってるのよ』
「え……?」
『だってね、火花に会っていなかったら、私の声は永遠に誰にも届かないままだった。今日もきっとあの沈没船の中でひとりぼっちで泣いていたと思うの。私、既に火花にはとっても感謝してるのよ。だからそんな顔しないで。私の声を聴いてくれて、私のためにここまでしてくれて、本当にありがとう』
 視界が潤む。
「うっ……シュナ~!!」
 ぴょんっと海の中に飛び込む勢いでシュナに抱きついた。
『わっ……』
「シュナ大好き~!!」
『火花。だから、私はやっぱり火花に魔法をかけてほしいわ』
 胸がじんわりとする。ひとに頼られるって、こんな気持ちになるんだ。 
「私、やる! 私、絶対シュナのこと人間にしてみせるから」
 覚悟を決め、シュナの手を取る。
「……火花ちゃんがやるの?」
「うん。私が始めたことだもん。私がちゃんと最後までやる!」
「それがいいわ。ふたりなら、信頼関係もばっちりだろうし」
 グラアナに言われ、私とシュナは顔を見合わせて笑い合った。
 紫色の光が空を染め始めた。
「さて、夜明けはもうすぐそこよ。そろそろ準備を始めましょう」
 グラアナのひと言で空気がピリッと張り詰めた。
 シュナが半身が露わになるくらいの浅瀬に上がってくる。
 シュナを薄紫色の光が幻想的に包み込んだ。
 王妃様と国王様は少し離れた場所で、シュナを見つめる。
「シュナ……。とうとうお別れなのね」
「シュナはどこにいても、どんな姿をしていても、僕たちの娘だよ。愛してるよ」
 シュナはふたりににこっと微笑むと、両手で真珠を抱き、目を閉じた。
 薄暗い空にぽっかりと浮かぶ満月が、紫色のヴェールをまとい始めた。
「今だ、火花」
「うん」
 パッと手を掲げ、ステッキを取り出す。
「火花、頑張れ!」
「火花ちゃん、頑張って!」
「火花、しっかりね」
 ノアくんたちのかけ声に頷き、ステッキをかまえる。
 ふぅ……。
 息を吐く。
 集中しなくちゃ。チャンスは一回。失敗したら、次はないんだから。
 ステッキに魔力を込める。ステッキの先から、星屑がぽろぽろと溢れ出す。
『ラララ……』 
 私にしか届かない、きれいなシュナの声。
 絶対、みんなに届けるんだ。
『届いてる……?』
 私と初めて会話をしたとき、シュナは泣いた。きれいな真珠が散らばった部屋。
 もう、あんな思いはさせたくない。私が変えるんだ。シュナの暗闇を取り払うんだ。
「よし」
 すぅ……。
 息を吸って、呪文を吐く。
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