36 / 51
絆
4
しおりを挟む
「どうしてグラアナの肩を持つの? あなた、もしかしてグラアナに弱みでも握られているの?」
ぶんぶんと首を横に振る。
「弱みなんて握られてないよっ! グラアナは、本当はとってもいい魔女なんだよ! 絶対話せば分かるから」
「話なんて聞いても、なにも変わらないわ。部外者が分かったようなことを言わないで!」
う……王妃様、結構キツい……。
王妃様は憎しみをたっぷり込めた瞳で、グラアナの家を見つめた。
「あの女は、私を恨んでいるの。私を恨んで、私の子であるシュナの声を奪ったのよ……」
「え……」
王妃様は、悲しげに目を伏せた。
「…………でも」
そのとき、がちゃんと背後の扉が開いた。ハッとしてうしろを見る。
「……グラアナ!」
グラアナが家から出てきていた。
当事者の登場に、すっと周囲の音が止んだ気がした。
「皆の者、武器をかまえなさい!」
王妃様が声を上げる。
――と。
「待ってくれ!」
国王様が、その場を制した。
全員の意識が国王様に向いた。
「あなた? どうして……」
王妃様も驚いて国王様を見ている。
「悪いがコルダ……僕は少し、彼女の話を聞きたいんだ」
国王様は王妃様に、優しい声音で諭すように言った。
「どうして!? グラアナはシュナの声を奪ったのよ!?」
『……お母様。私も、ちゃんと話を聞きたいわ』
シュナが王妃様の手を握る。
「……シュナ?」
王妃様は困惑したようにシュナと私を交互に見た。
「……ねぇ、シュナはなんて言っているの?」
「あ、えっと……」
代弁しようとすると、
「お母様。私も、ちゃんと話を聞きたいわ……ですって」
「えっ……」
代弁したのは私ではなく、グラアナだった。
「グラアナ、シュナの声が分かるの!?」
驚いてグラアナに訊ねる。グラアナはふんとつまらなそうに息を吐いて、淡白に言った。
「そうみたいね」
グラアナも、シュナの声を聴くことができたなんて……。
「シュナは、本当にそんなことを?」
王妃様は驚いて私とシュナを見下ろしている。
シュナは驚きながらも、王妃様を見てこくこくと頷いている。
すっとグラアナが国王様に近づいた。
「……久しぶりね、アーノルド」
「……そうだな」
グラアナは国王様を見て、少しだけ悲しそうな顔をした。
運命の再会……って言うわけにはいかないよね。
「……アーノルド。この子がいろいろと騒がせたみたいで悪かったわね。でも、安心して。私はもう、この海を出て陸に戻るつもりだから」
えっ!?
「待ってよ、どうしてグラアナが海を出ていくの!? グラアナはなにもしてないのに!!」
「……火花、もういいのよ。私にはもう、ここにこだわる必要はないの。そもそもアーノルドに迷惑をかけたいわけじゃないし、これ以上私がここにいたところで、問題を大きくするだけなら、私は……」
「待ってくれ、グラアナ。僕は君の話が聞きたいんだ。……真実が知りたいんだ」
グラアナが黙り込む。
よかった! 国王様は話を聞いてくれる気があるみたい!
「なぁコルダ。少しだけ、彼女の話を聞こう」
国王様が優しく言うと、王妃様は口を噤んだ。
そのとき、シュナが王妃様の手をぐっと引いた。王妃様が驚いてしてシュナを見る。
「シュナ? あなたまでどうしたの……」
『お母様、私……火花やグラアナの話を聞きたいの。火花は嘘をつくような子じゃないし、なによりこれは私自身の話よ。少しだけでいいの。少しだけ、話をさせて。お願いよ、お母様』
シュナは一生懸命声を上げて訴える。けれど、王妃様は困ったように眉を下げて、シュナを見つめるばかりだ。
……聴こえていないんだ。シュナの言葉が。
「王妃様。シュナは、グラアナの話を聞きたいって言ってるよ」
シュナの言葉を代弁すると、国王様と王妃様は顔を見合わせた。
「……でも」
『お母様、お願いよ』
シュナも訴える。代わりに伝えると、王妃様は困ったように口を閉じた。
「……シュナはお願いって、言ってるよ」
シュナはじっと王妃様を見つめている。
「……分かったわ」
王妃様は仕方なさげにため息をついた。
するとシュナはホッとしたように表情を緩めて私を見ると、そのままグラアナへ視線を向けた。
『……初めまして、グラアナ。私はアトランティカのマーメイドプリンセス、シュナよ』
「…………」
グラアナは、黙ってシュナを見つめている。
『私、あなたのことを知りたいの。それから……私自身の声のことも。……私に教えてくれないかしら』
グラアナは気まずそうに一度俯き、ため息をついた。
「……楽しい話じゃないわよ。特に、あなたにとっては」
『それでもいいわ。知りたいの』
シュナは真っ直ぐな眼差しでグラアナを見つめた。
グラアナは一瞬困ったように眉を下げ、くるりと背中を向けた。
「……分かった。それならひとまず中へどうぞ。そんなところで立ち話なんて、プリンセスにさせることではないわ」
『火花も一緒に来てくれる?』
「もちろん」
「火花、俺たちも聞いていいか?」
ノアくんやドロシー、ダリアンがそばへやってくる。
「うん、そのほうが心強いよ。行こう」
こうして私たちは、国王様や王妃様たちと共にグラアナの家に入った。
ぶんぶんと首を横に振る。
「弱みなんて握られてないよっ! グラアナは、本当はとってもいい魔女なんだよ! 絶対話せば分かるから」
「話なんて聞いても、なにも変わらないわ。部外者が分かったようなことを言わないで!」
う……王妃様、結構キツい……。
王妃様は憎しみをたっぷり込めた瞳で、グラアナの家を見つめた。
「あの女は、私を恨んでいるの。私を恨んで、私の子であるシュナの声を奪ったのよ……」
「え……」
王妃様は、悲しげに目を伏せた。
「…………でも」
そのとき、がちゃんと背後の扉が開いた。ハッとしてうしろを見る。
「……グラアナ!」
グラアナが家から出てきていた。
当事者の登場に、すっと周囲の音が止んだ気がした。
「皆の者、武器をかまえなさい!」
王妃様が声を上げる。
――と。
「待ってくれ!」
国王様が、その場を制した。
全員の意識が国王様に向いた。
「あなた? どうして……」
王妃様も驚いて国王様を見ている。
「悪いがコルダ……僕は少し、彼女の話を聞きたいんだ」
国王様は王妃様に、優しい声音で諭すように言った。
「どうして!? グラアナはシュナの声を奪ったのよ!?」
『……お母様。私も、ちゃんと話を聞きたいわ』
シュナが王妃様の手を握る。
「……シュナ?」
王妃様は困惑したようにシュナと私を交互に見た。
「……ねぇ、シュナはなんて言っているの?」
「あ、えっと……」
代弁しようとすると、
「お母様。私も、ちゃんと話を聞きたいわ……ですって」
「えっ……」
代弁したのは私ではなく、グラアナだった。
「グラアナ、シュナの声が分かるの!?」
驚いてグラアナに訊ねる。グラアナはふんとつまらなそうに息を吐いて、淡白に言った。
「そうみたいね」
グラアナも、シュナの声を聴くことができたなんて……。
「シュナは、本当にそんなことを?」
王妃様は驚いて私とシュナを見下ろしている。
シュナは驚きながらも、王妃様を見てこくこくと頷いている。
すっとグラアナが国王様に近づいた。
「……久しぶりね、アーノルド」
「……そうだな」
グラアナは国王様を見て、少しだけ悲しそうな顔をした。
運命の再会……って言うわけにはいかないよね。
「……アーノルド。この子がいろいろと騒がせたみたいで悪かったわね。でも、安心して。私はもう、この海を出て陸に戻るつもりだから」
えっ!?
「待ってよ、どうしてグラアナが海を出ていくの!? グラアナはなにもしてないのに!!」
「……火花、もういいのよ。私にはもう、ここにこだわる必要はないの。そもそもアーノルドに迷惑をかけたいわけじゃないし、これ以上私がここにいたところで、問題を大きくするだけなら、私は……」
「待ってくれ、グラアナ。僕は君の話が聞きたいんだ。……真実が知りたいんだ」
グラアナが黙り込む。
よかった! 国王様は話を聞いてくれる気があるみたい!
「なぁコルダ。少しだけ、彼女の話を聞こう」
国王様が優しく言うと、王妃様は口を噤んだ。
そのとき、シュナが王妃様の手をぐっと引いた。王妃様が驚いてしてシュナを見る。
「シュナ? あなたまでどうしたの……」
『お母様、私……火花やグラアナの話を聞きたいの。火花は嘘をつくような子じゃないし、なによりこれは私自身の話よ。少しだけでいいの。少しだけ、話をさせて。お願いよ、お母様』
シュナは一生懸命声を上げて訴える。けれど、王妃様は困ったように眉を下げて、シュナを見つめるばかりだ。
……聴こえていないんだ。シュナの言葉が。
「王妃様。シュナは、グラアナの話を聞きたいって言ってるよ」
シュナの言葉を代弁すると、国王様と王妃様は顔を見合わせた。
「……でも」
『お母様、お願いよ』
シュナも訴える。代わりに伝えると、王妃様は困ったように口を閉じた。
「……シュナはお願いって、言ってるよ」
シュナはじっと王妃様を見つめている。
「……分かったわ」
王妃様は仕方なさげにため息をついた。
するとシュナはホッとしたように表情を緩めて私を見ると、そのままグラアナへ視線を向けた。
『……初めまして、グラアナ。私はアトランティカのマーメイドプリンセス、シュナよ』
「…………」
グラアナは、黙ってシュナを見つめている。
『私、あなたのことを知りたいの。それから……私自身の声のことも。……私に教えてくれないかしら』
グラアナは気まずそうに一度俯き、ため息をついた。
「……楽しい話じゃないわよ。特に、あなたにとっては」
『それでもいいわ。知りたいの』
シュナは真っ直ぐな眼差しでグラアナを見つめた。
グラアナは一瞬困ったように眉を下げ、くるりと背中を向けた。
「……分かった。それならひとまず中へどうぞ。そんなところで立ち話なんて、プリンセスにさせることではないわ」
『火花も一緒に来てくれる?』
「もちろん」
「火花、俺たちも聞いていいか?」
ノアくんやドロシー、ダリアンがそばへやってくる。
「うん、そのほうが心強いよ。行こう」
こうして私たちは、国王様や王妃様たちと共にグラアナの家に入った。
2
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完】ノラ・ジョイ シリーズ
丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴*
▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー
▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?
✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
今、この瞬間を走りゆく
佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】
皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!
小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。
「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」
合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──
ひと夏の冒険ファンタジー

こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる