23 / 51
ダリアン『ノア目線』
1
しおりを挟む寮監に面会の許可を取ってから、ダリアンの部屋の前に立つ。
コンコン、と二回、控えめにノックをしてから声をかける。
「ダリアン。いるか? ノアだけど」
「…………」
返事はない。
「……はぁ」
まぁ、怒ってるよな。
よりにもよって、火花は生徒が多くいる食堂で、ダリアンの高い鼻をポキッとへし折ったのだ。
ダリアンが怒るのも無理はない。
仕方なく、そのまま扉越しに声をかける。
「ダリアン。さっきは火花が酷いことを言ってごめん」
火花の代わりに頭を下げる。
「ダリアンが怒るのも無理はないよ。今回は火花が全面的に悪かったと思う」
コン。
かすかに物音がした。
扉の前まで来てくれたか……?
「…………」
しかし、いくら待っても扉が開く気配はない。
「ダリアン。よかったら、この扉を開けてくれないかな」
扉は開かない。けれど、小さな声が返ってきた。
「どうして? どうせ、ノアくんも私のこと、迷惑だって思ってたんでしょ。いい気味だって、思ってたんでしょ」
「そんなことないよ」
ダリアンらしくない、珍しく弱った声だった。
「……火花の言う通りよ。私は嫌われ者。そんなの言われなくたって私だって分かってるわ。いつだって私に寄ってくるのは打算的なひとばかり。私自身を見てくれるひとなんて、ひとりもいなかった」
その言葉は、思いのほかずしんと俺の心を抉った。ダリアンが吐き出した思いは、俺もよく知っている。
親の顔に泥を塗らないように、俺も必死に勉強してきた。ひとから反感を買ったら親まで悪く言われるから、必死で笑顔を作ってきた。
ダリアンも、同じなんだ。
「うん……だから余計、隙を見せるわけにはいかなかったんだよね」
自分でも無意識のうちに、口が動いていた。
「え……?」
かすかに動揺したような声が、扉越しに聴こえる。
「強がらないといられなかったんだよね。幼い頃から、君の周りは総理に気に入られようとするひとばかりだったから」
そのとき、がちゃ、と扉が開いた。気まずそうな顔をしたダリアンと目が合う。
「どうして……?」
ダリアンにできるだけ優しく微笑みかける。
「分かるよ。俺も同じだったから」
「ノアくんも?」
ダリアンが驚いた顔でパッと顔を上げる。
「うん。いつもの様子見てたら分かるだろ? うちもそれなりの家だしね」
「まぁ……そうね」
ダリアンは頷きながら、俺からサッと目を逸らした。
「……私ね、この学校に来て、本当の友達を探そうとしたのよ。でも、無理だった。……よく分かったわ。性格が悪い私なんて、誰もかまってくれない。私ってカラッポなの。私には、家柄しか価値がないのよ」
「ダリアン……」
今のダリアンは、まるで自分を映した鏡を見ているようで、胸が苦しくなる。
「……ダリアン、それは違うよ」
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
知ったかぶりのヤマネコと森の落としもの
あしたてレナ
児童書・童話
ある日、森で見つけた落としもの。
動物たちはそれがだれの落としものなのか話し合います。
さまざまな意見が出ましたが、きっとそれはお星さまの落としもの。
知ったかぶりのヤマネコとこわがりのネズミ、食いしんぼうのイノシシが、困難に立ち向かいながら星の元へと落としものをとどける旅に出ます。
全9話。
※初めての児童文学となりますゆえ、温かく見守っていただけましたら幸いです。
こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜
おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。
とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。
最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。
先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?
推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕!
※じれじれ?
※ヒーローは第2話から登場。
※5万字前後で完結予定。
※1日1話更新。
※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。
いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑!
誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、
ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。
で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。
愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。
騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。
辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、
ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第二部、ここに開幕!
故国を飛び出し、舞台は北の国へと。
新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。
国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。
ますます広がりをみせる世界。
その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか?
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から
お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる