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めんどうな授業『ノア目線』
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火花は少し泣き止むと、小さな声で話し出した。
火花は生まれてすぐ、施設の前に置き去りにされていたそうだ。
施設で過ごしているとき、熱心に施設に通っていたクラリネット家の夫婦の目にとまり、引き取られ、養子になったのだという。
『ママもパパもね、私の魔力が強いから引き取ってくれたの。だから私は、魔法をたくさん頑張らないと……みんなよりすごくないとまた捨てられちゃうの』
切り株の上で体育座りをする火花の瞳から、ぽろろと透明な涙が落ちた。
『そんなことないよ。おじさんもおばさんも、めちゃくちゃお前のこと可愛がってるじゃん』
他人の俺から見ても、それはそれは可愛がられている。
『……それは、私がわがまま言わないで、いい子にしてるからだよ。いい子じゃないと、私の居場所はきっとすぐなくなっちゃうんだ』
そう言って丸まる火花はめちゃくちゃちっちゃくて、俺はたまらない気持ちになった。
『……私、さっきみなしごって言ってきた子のこと、心の中で死んじゃえって思ったの。私、いい子になれなかった。やっぱり悪い子だった。……どうしよう……私、また捨てられちゃうのかなぁ……ひとりぼっちになっちゃうのかなぁ……』
そう言うと、火花はまた泣き出した。こちらまで胸が引き絞られるような泣き声だった。
いつもバカみたいに騒いでいるくせに……。
『バカだな、火花は……俺がいるじゃん』
それは、無意識のうちの言葉だった。
『えっ……』
火花は瞳にまるまるとした涙を溜めた顔で、俺を見た。
『ノア・マークベル。俺の名前』
『ノア……?』
『いきなり呼び捨てかよ』
ツッコむと、火花はパッと両手で口を覆った。
『ノ、ノアくん』
『……ま、好きに呼んでいいよ。俺もお前のこと、好きに呼ぶ』
もう呼んでたけど。
『……ノアくん』
俺は勢いよく立ち上がると、火花をピッと指さした。
『いいか、火花! お前はもっと自由に生きろ! もし自由に生きて、火花が誰かにいらないって捨てられたなら、俺が絶対拾ってやるから!』
『……ノアくんが、私を?』
『あぁ、神にだって誓ってやる!』
『ノアくんも子供なのに?』
『うるせぇ!』
グダグダいう火花の頭に、軽くチョップを落とす。
『たっ!』
『返事は!』
問答無用、とでも言うように強引に訊ねる。
『え、あ、はい……』と、火花は呆気に取られながら、頷いた。
『よろしい』
胸を張ってそう返すと、火花は肩を揺らしていた。
『ふふっ……ははっ……』
火花が笑った。
雪の中で寒さに耐え続けていた花が、太陽の存在に気づいてパッと咲いたような、そんな笑顔で。
たぶん、そのときだ。
俺が火花に恋をしたのは――。
そのまま俺たちは、手を繋いで幼稚園に帰った。
帰り道、火花が訊ねた。
『ねぇ、ノアくん。なんで私のこと探しに来てくれたの?』
『べつに。なんとなく気になったから』
『ふぅん。私のこと、好きなの?』
そういえば、昔から火花は直球だった。
『はっ……はぁ!? そんなわけないだろ! バカ!』
べつに、狼狽えてないし。
『あーまたバカって言った。バカって言うほうがバカなんだよ!』
『うるせぇバーカッ!』
その日、火花の小さな手を引きながら、俺はこの世界のどこかにいるであろう神様に願った。
絶対になにがあっても俺が守るから、一生、この子のそばで生きていけますようにって。
『火花』
『なに?』
『これからは、なにか言われたら俺がその相手ぶん殴ってやるからな』
火花はまるまるとした瞳で空を見上げ、なにやら考え込んだ。
『……ぶん殴んなくていいよ。えっと、脛を蹴るくらいで』
きょとんとなる。
『……いや、そのほうが痛いだろ』
うん。絶対、痛い。
『へへ』
思わずツッコむと、火花はふにゃっと幸せそうに笑った。
火花は生まれてすぐ、施設の前に置き去りにされていたそうだ。
施設で過ごしているとき、熱心に施設に通っていたクラリネット家の夫婦の目にとまり、引き取られ、養子になったのだという。
『ママもパパもね、私の魔力が強いから引き取ってくれたの。だから私は、魔法をたくさん頑張らないと……みんなよりすごくないとまた捨てられちゃうの』
切り株の上で体育座りをする火花の瞳から、ぽろろと透明な涙が落ちた。
『そんなことないよ。おじさんもおばさんも、めちゃくちゃお前のこと可愛がってるじゃん』
他人の俺から見ても、それはそれは可愛がられている。
『……それは、私がわがまま言わないで、いい子にしてるからだよ。いい子じゃないと、私の居場所はきっとすぐなくなっちゃうんだ』
そう言って丸まる火花はめちゃくちゃちっちゃくて、俺はたまらない気持ちになった。
『……私、さっきみなしごって言ってきた子のこと、心の中で死んじゃえって思ったの。私、いい子になれなかった。やっぱり悪い子だった。……どうしよう……私、また捨てられちゃうのかなぁ……ひとりぼっちになっちゃうのかなぁ……』
そう言うと、火花はまた泣き出した。こちらまで胸が引き絞られるような泣き声だった。
いつもバカみたいに騒いでいるくせに……。
『バカだな、火花は……俺がいるじゃん』
それは、無意識のうちの言葉だった。
『えっ……』
火花は瞳にまるまるとした涙を溜めた顔で、俺を見た。
『ノア・マークベル。俺の名前』
『ノア……?』
『いきなり呼び捨てかよ』
ツッコむと、火花はパッと両手で口を覆った。
『ノ、ノアくん』
『……ま、好きに呼んでいいよ。俺もお前のこと、好きに呼ぶ』
もう呼んでたけど。
『……ノアくん』
俺は勢いよく立ち上がると、火花をピッと指さした。
『いいか、火花! お前はもっと自由に生きろ! もし自由に生きて、火花が誰かにいらないって捨てられたなら、俺が絶対拾ってやるから!』
『……ノアくんが、私を?』
『あぁ、神にだって誓ってやる!』
『ノアくんも子供なのに?』
『うるせぇ!』
グダグダいう火花の頭に、軽くチョップを落とす。
『たっ!』
『返事は!』
問答無用、とでも言うように強引に訊ねる。
『え、あ、はい……』と、火花は呆気に取られながら、頷いた。
『よろしい』
胸を張ってそう返すと、火花は肩を揺らしていた。
『ふふっ……ははっ……』
火花が笑った。
雪の中で寒さに耐え続けていた花が、太陽の存在に気づいてパッと咲いたような、そんな笑顔で。
たぶん、そのときだ。
俺が火花に恋をしたのは――。
そのまま俺たちは、手を繋いで幼稚園に帰った。
帰り道、火花が訊ねた。
『ねぇ、ノアくん。なんで私のこと探しに来てくれたの?』
『べつに。なんとなく気になったから』
『ふぅん。私のこと、好きなの?』
そういえば、昔から火花は直球だった。
『はっ……はぁ!? そんなわけないだろ! バカ!』
べつに、狼狽えてないし。
『あーまたバカって言った。バカって言うほうがバカなんだよ!』
『うるせぇバーカッ!』
その日、火花の小さな手を引きながら、俺はこの世界のどこかにいるであろう神様に願った。
絶対になにがあっても俺が守るから、一生、この子のそばで生きていけますようにって。
『火花』
『なに?』
『これからは、なにか言われたら俺がその相手ぶん殴ってやるからな』
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『……ぶん殴んなくていいよ。えっと、脛を蹴るくらいで』
きょとんとなる。
『……いや、そのほうが痛いだろ』
うん。絶対、痛い。
『へへ』
思わずツッコむと、火花はふにゃっと幸せそうに笑った。
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