2 / 51
おてんばな魔女
2
しおりを挟む食堂で朝ごはんを食べ終わると、私とノアくんは徒歩で校舎に向かっていた。
うちの学校は、魔法養成学校としては魔界最大級の学校だから、ものすごく敷地が広い。
それなのに校内での無闇な魔法は禁止ときたものだから、ほうきで校舎まで飛んでいくこともできないんだ。
ほうきを使えばたぶん二、三分でつくんだけど、歩くと私の足だと三十分はかかるんだよ。
しかも、ひとりで歩いていこうとすると、方向音痴の私は大体いつも迷子になって遅刻する。だからノアくんが毎日隣の男子寮から迎えに来てくれるんだけど……。
ぐるっと敷地を見渡す。
寮は敷地内に四つ。校舎は七つ。プールが三つに、図書塔、植物園、魔獣園まである。
……うん、それにしてもこの学校、広すぎると思うのよ。
だってさ。
歩き始めて十分は経ったと思うのに、未だ校舎は見えてこない。
「うわぁ~ん! 教室が遠いよ~!」
思わず嘆く。
「こんなに広いのに、どうしてほうきで空飛んじゃダメなの!?」
「校舎が遠いのはいつものことだろ。というか食べ過ぎなんだよ。朝からサラダとスープだけじゃなく、サンドイッチまでおかわりまでして……」
「だってお腹減ってたし……。木苺のジャムたっぷりのサンドイッチ! あれ、めちゃくちゃおいしくなかった!?」
「……まぁ、おいしかったけど」
「でしょ? あー、もしかしてノアくん、女の子の目を気にしておかわり我慢したとか?」
「……ちげーよ、バカ」
笑みを向けると、ノアくんはぷいっとそっぽを向いた。
「む……」
最近よくノアくんに目を逸らされるんだよね……。なんでだろ?
前はもう少し、近い距離で話せてたのになぁ。
前を向こうとすると、ノアくんがちらっと私を見て言った。
「ま、火花は食べ過ぎたぶん、ちゃんと歩いてカロリー消費したほうがいいな。でないとそのうちそのほうき、折れるぞ?」
「なぬっ!?」
ひどい! またそうやって意地悪言うんだから!
「ほうきが折れるほど太ってないもん!」
……たぶん。
ぷんっとそっぽを向くと、向かいの道から同じ制服を着た女の子が歩いてきた。
「あっ! ドロシー! おはよー!!」
大きな声で名前を呼んで手を振ると、女の子も私たちに気付いて駆け寄ってきた。
「火花ちゃん! おはよう!」
彼女はドロシー。ドロシー・スコット。
ドロシーは、この学校に来て仲良くなった友達のひとりなんだ。
編み込みの赤毛と、とろっとした垂れた瞳がチャームポイント。
穏やかで優しい性格の女の子なんだけど、ごくごくたまに毒を吐いたりするの。
そして残念ながら、私とドロシーは寮が別々。
私は落ちこぼれペリドット寮なんだけど、ドロシーは成績優秀な女子だけが入れる寮・アヤナスピネル寮。ちなみにノアくんはプラチナ寮。ノアくんもエリート寮だよ。
「ねっ! ドロシーも教室まで一緒に行こう!」
「え、でも……」
ドロシーは困ったように眉を下げて、ちらりとノアくんを見る。どうやら、ノアくんのことが気になるらしい。
そういえばドロシーは男の子が苦手なんだった。だけど、ノアくんならギリギリセーフって前に言っていたような?
「ノアくん、ドロシーも一緒に行ってもいいよね?」
ノアくんに確認する。
ドロシーはほうきを抱き締め、おずおずとノアくんを見上げた。
「おはよう、ドロシー。もちろん、一緒に行こう」
ノアくんは完璧王子様スマイルで頷いた。
ノアくんは、私以外の女の子を前にすると態度がコロッと変わる。
私には意地悪なことをたくさん言うくせに、ドロシーの前では王子様ぶるんだから、まったくなんてこったって感じだよ。
「ありがとう」
ドロシーが男の子を苦手な理由は、過去に男の子にいじめられちゃったことがトラウマになっているんだって。
まったく、私の親友をいじめるなんて最低な子がいたもんだよねっ! もしその場に私がいたら、きっと華麗に男の子をやっつけてやるのに!
「おーい、火花~。なに百面相してるの。行くよ」
「あ、はいは~い」
ノアくんに促され、私たちは三人並んで歩き出した。
5
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
白と黒の戦争
つきいあや
児童書・童話
白の国と黒の国は戦っていました。
白の国は白を基調とした建物、白色の城。反対に黒の国は黒を基調とした建物、黒色の城。そこでは白ねこと黒ねこが分断されて暮らしていました。
クロムとシロンが出会うことで、変化が起きていきます。
【完結】月夜のお茶会
佐倉穂波
児童書・童話
数年に一度開催される「太陽と月の式典」。太陽の国のお姫様ルルは、招待状をもらい月の国で開かれる式典に赴きました。
第2回きずな児童書大賞にエントリーしました。宜しくお願いします。
クラゲの魔女
しろねこ。
児童書・童話
クラゲの魔女が現れるのは決まって雨の日。
不思議な薬を携えて、色々な街をわたり歩く。
しゃっくりを止める薬、、猫の言葉がわかる薬食べ物が甘く感じる薬、――でもこれらはクラゲの魔女の特別製。飲めるのは三つまで。
とある少女に頼まれたのは、「意中の彼が振り向いてくれる」という薬。
「あい♪」
返事と共に渡された薬を少女は喜んで飲んだ。
果たしてその効果は?
いつもとテイストが違うものが書きたくて書きました(n*´ω`*n)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中です!
ホントのキモチ!
望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。
樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。
けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。
放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。
樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。
けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……!
今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。
ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の
ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。
小さな王子さまのお話
佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』……
**あらすじ**
昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。
珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。
王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。
なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。
「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。
ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…?
『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』――
亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。
全年齢の童話風ファンタジーになります。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる