2 / 20
1
しおりを挟むきらいなものをあげたらキリがない。
早起きも、学校も、集団行動も、クラスメイトの大きな声も、男も女もみんなきらい。
だけどなによりきらいなのは、ひとの視線だった。
私は、だれかと目が合うことがなによりきらい。
私はだれにも見られたくないのに、みんな私を見る。私を見ては、ひそひそと囁く。
『葉桜さんってさぁ……』
なにを言っているのかは、聴こえない。けれど、聴かなくても分かる。
『母親に似て』
『男狂い』
『やっぱりね』
愛人の子というステータスがあるおかげで、私はこの歳までずっと、後ろ指をさされ続けて生きてきた。
『泣くんじゃない』
いじめられるたびにべそをかく私を、母は慰めることもせずに叱った。
『泣いたら相手の思うつぼなのよ。言い返しなさい。相手が泣くまで』
そんなこと、できなかった。だって、みんなが言うことは事実だから。
やっぱり泣いて帰ってくる私を、母は呆れた顔でただ見ていた。庇ってはくれなかった。
私がいじめられるのは、ほかでもない母のせいなのに。
しかしそんな母も、結局世間の目に負けた。
母が妻子持ちの私の父と別れて実家のある栃木に逃げ帰ったのは、私が小学校四年生のときだった。
私が住むのは狭い田舎街だ。引っ越してきて間もなく、母の噂は広まった。
転校初日、私はクラスメイトとなった男子たちに、開口一番に言われた。
『イケナイことしてできた子どもがきたー!』
その日から、当たり前のように男子にはからかわれ、女子には仲間はずれにされる日々が始まった。
といっても、母に似てそれなりの容姿であったためか、ひどいいじめはなかった。
ひどくなる前に、先生が守ってくれる。ただ、守ってくれるのは、いつも男の先生だった。それが余計、火に油を注ぐかたちになった。
しかしそうなると、今度は保護者たちから『母親に似て娘まで男を惑わすのね』なんて言われた。
散々言われ続けたせいか、私は次第になにも感じなくなっていった。
クラスメイトからの暴言も、陰口も、先生からのありがた迷惑な励ましも、なにも感じない。
精神を病んで母が自殺したときですら、涙ひとつ出なかった。
そのときはさすがにじぶんでもどうかしているかもしれないと思ったが、出ないものは仕方がない。それに、感情に流されないのは、日常生活を送る上では案外楽だった。
高校生になってとなり街の高校に入学すると、さすがに私の内情を知るひとはいなくなって、私へのからかいや噂話はなくなった。
代わりに聞くようになったのが、『スキー部事故』と『雪女センパイ』とかいう単語。
なんでも、私が入学する前、スキー部の合宿で事故があったらしい。
全国ネットのニュースでも大々的に取り上げられたらしいが、私は受験勉強でそれどころではなかったのでよく知らなかった。
噂によると、スキー場での練習中、部員と引率の教師二名が雪崩に巻き込まれ、死亡したという凄惨な事故だった。スキー部員十二人中、生き残った生徒はたったのひとり。
それが『雪女センパイ』らしい。
『雪女センパイって、魔女みたいだよね』
『部員荒らしだったっぽいよ』
『スキー部の事故って、雪女センパイの魔力だったりしてね』
――くだらない。
だれもかれも、よくもまぁ噂の種を拾ってくるものだと思う。
14
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

すれ違いの君と夢見た明日の約束を。
朱宮あめ
青春
中学時代のいじめがトラウマで、高校では本当の自分を隠して生活を送る陰キャ、大場あみ。
ある日、いつものように保健室で休んでいると、クラスの人気者である茅野チトセに秘密を言い当てられてしまい……!?
青春リフレクション
羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。
命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。
そんなある日、一人の少女に出会う。
彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。
でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!?
胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!
クルーエル・ワールドの軌跡
木風 麦
青春
とある女子生徒と出会ったことによって、偶然か必然か、開かなかった記憶の扉が、身近な人物たちによって開けられていく。
人間の情が絡み合う、複雑で悲しい因縁を紐解いていく。記憶を閉じ込めた者と、記憶を糧に生きた者が織り成す物語。
放課後はネットで待ち合わせ
星名柚花
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】
高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。
何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。
翌日、萌はルビーと出会う。
女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。
彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。
初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!

想い出キャンディの作り方
花梨
青春
学校に居場所がない。
夏休みになっても、友達と遊びにいくこともない。
中一の梨緒子は、ひとりで街を散策することにした。ひとりでも、楽しい夏休みにできるもん。
そんな中、今は使われていない高原のホテルで出会った瑠々という少女。
小学六年生と思えぬ雰囲気と、下僕のようにお世話をする淳悟という青年の不思議な関係に、梨緒子は興味を持つ。
ふたりと接していくうちに、瑠々の秘密を知ることとなり……。
はじめから「別れ」が定められた少女たちのひと夏の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる