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第8話

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「本当にすぐ手を上げるんですね」
 
 アーサーはひどく不快そうな顔をして、喚くグルーを押さえつけると、懐に手を入れた。中からなにかを取り出し―――。
  
「……おや? おやおや? これはなんでしょう」

 アーサーの涼し気な声が響く。アーサーはグルーを放り出すと、アナスタシアをグルーから守るように立ち、手をさっと振り上げた。翳された彼の手から、大量の写真がばら撒かれた。
 
 ちらりと見えたそれは、どうやらどこかのご令嬢との浮気現場のようだった。

 しかし、驚くことはない。グルーがいろんな女性と関係を持っているのは、知っていたことだ。
 
「なっ……貴様!」

 とうとうグルーは、目の前の麗しき青年――アーサーを敵認定したらしい。ものすごい形相で、グルーはアーサーを睨む。アーサーは負けじとグルーを睨み返し、冷ややかに言った。

「私は彼女を助けに来ました。このままでは、彼女は死んでしまう。あなたに殺されてしまうと思ったので」
 アーサーが冷ややかに告げる。
「コイツは! 俺の婚約者だ! 俺がどうしようと勝手だろう! 部外者が口を挟むな!!」
「部外者? それはあなたの方では?」
「なにぃ?」
「自分から婚約破棄を申し出たのはあなたでしょう、グルー王子」

 グルーは顔を真っ赤にして、アーサーを睨みつける。

「冗談だ! こんなのは、ただのパーティーの余興だ! 本気にするなんて馬鹿げてる!」
「随分と趣味の悪い余興をお考えになられたようで……まだ彼女を手放さないというのなら、もっと際どい写真を皆様にお見せしてもいいのですよ?」
「なっ……」
「例えば……そうですね。彼女を物置に閉じ込めているところとか。殴っているところとか、それから……」
 
 グルーは顔を引き攣らせ、アーサーに詰め寄った。

「貴様ァッ!」

 グルーが拳を振りかざしたその瞬間。これまでにないいっそう冷ややかな声で、アーサーが言った。
 
「いい加減にしろよ。クソ王子が」
「なっ……」
 突然ホールに響いた辛辣な言葉に、グルーは黙り込む。周りにいた来賓たちも、息を呑んだ。

 我に返ったグルーは、目をひん剥いた。
 
「貴様! なんという口を……! 俺を侮辱するということは、我が国を侮辱していることにほかならない。この者を捕らえろ! このような侮辱は、絶対に許してはならない!」
 
 グルーは悔しげに歯をかりかりと慣らして、アーサーを捕らえるよう騎士たちに指示を出す。
 しかし、グルーの言葉に賛同する者はもはやいなかった。

 困惑気味ながらも、誰もがグルーへ冷たい視線を送っていた。グルーは静まり返ったホール内を見て、そのことにようやく気づく。

「なんだその目は……貴様ら、俺の言うことを無視するのか! 次期国王の言うことを聞かぬというのか……!?」
「聞いているではありませんか」
「なに?」

 アーサーが一歩前に歩み出る。
 
「破棄したかったのでしょう? 恥をかかせたかったのでしょう?」
「それはっ……違うっ!」
「違う? なにが違うのです? あぁ……残念。恥をかいたのはあなたの方でしたね」
 アーサーの挑発するような微笑みに、グルーは獣のような唸り声を上げる。

「これまでさんざんアナスタシアに国王の介護をさせておいて、身だしなみを整えるだけの自由すらも与えずに監禁して、終いにはこの騒動……とても一国を担う人間の所業とは思えません。彼女のことは私がしっかりと守るのでご安心ください」
「なっ……」 
「ご自分で婚約破棄されたのですから、二言はありませんよね? グルー王子?」
「ぐっ……」

 突然豹変したアーサーに、グルーはあからさまに戸惑っていた。
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