青春×アミュレット

朱宮あめ

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 帰り道、歩きながらひなたくんはさっそくスマホで近くの手芸店を探し始めた。私は店探しはひなたくんに任せて、何色の糸にするか考えていた。
 お互いのイメージの色を選ぶ。
 思ったより難しいかもしれない。
 ひなたくんに似合うのは、何色だろう。
 ひなたくんの色……。
 まっさきに浮かんだのは、銀色だった。きらきらした、星のような銀色。触れたら少し、ひんやりしていそうな。
 でも、銀色のミサンガってどうだろう。あんまり見たことない気がして、悩む。
 やっぱり、無難に緑とかのがいいかな……。
 考えながら、あ、と思う。
「そういえばひなたくん、ミサンガ作れるの?」
「さぁ!」
「さぁって……」
 無責任且つ元気のいい返事に、思わず苦笑する。
「まぁでも、ネットで見たからいけるっしょ!」
「ちょ、そんなてきとうな! 私、そういうの作ったことないから、ひなたくんが教えてくれないとムリだからね!?」
「えっ、マジか!」
「マジだよ!」
「いや大丈夫だって! ネット見ればなんとかなるよ!」
 なんだかんだ言いながら、私たちは手芸店に入った。
「愛来ー、決まった?」
「わっ、ひなたくん!?」
 やっぱり銀色が捨て難くて銀色コーナーを物色していると、既に手に三色の糸束を持ったひなたくんがやって来た。
「おっ、銀? 愛来の中の俺は銀色かぁ!」
 私の手元を見たひなたくんが、嬉しそうな声を出す。
「や、これは違くて! まだ決めてないから……」
「いいじゃんいいじゃん! 銀色とかめっちゃかっけー!」
 思いの外、ひなたくんの反応はいい。
「……そ、そうかな?」
「うん!」
「……そっか……」
 本人がこう言うならいいのかな、銀色でも。
 悩んだ末、私は、青色、白色、銀色を買った。一方ひなたくんが選んだのは、オレンジ色、黄色、茶色。
 ……ちょっと意外。
「私って、オレンジっぽいの?」
「うん! なんていうか、愛来は向日葵ひまわりっぽいなってずっと思ってたんだよね。ほら、どう? ぽいでしょ? この色」
「…………」
「あ、あれ。もしかして、いやだった……?」
 不安げな顔で、ひなたくんが私の顔を覗き込んでくる。
 いやなわけない。むしろ、すごく……。
「……すごく、嬉しい」
 素直な気持ちを口にすると、ひなたくんはにぱっと笑って、早口で言った。
「てか、愛来こそ俺のイメージ寒色系なんだね! 俺、結構黄色系充てられること多かったから意外! 銀色とかめっちゃ嬉しい! あ、ちなみにこの色を選んだ理由は?」
 と、ひなたくんはマイクを向けるように、私に手を突き出してくる。どぎまぎしながら、私は小さな声で答える。
「な、なんというか……ひなたくんって流れ星っぽいっていうか」
「流れ星?」
「うん……」
 俯いているひとさえ思わず顔を上げてしまうような、眩い星。だけど見られるのは一瞬で、手を伸ばしても掴めない感じがする流れ星。
「流れ星かぁ! うわぁ。初めて言われたから、なんか嬉しいな。てか、俺が流れ星なら、愛来の願いを叶えてやらなくちゃな!」
 そう言って、ひなたくんは嬉しそうに笑った。
 渋谷駅に着き、改札の前まで来たところでひなたくんが振り返る。
「今日はありがとね。こんな時間まで付き合ってくれて」
「ううん。私も楽しかった」
「じゃあ、また明日。ミサンガは、今週中に作って交換しよう!」
「うん、分かった」
「じゃあな!」
 ひなたくんが手を振って、改札の中へ入っていく。
「バイバイ……」
 ひなたくんに向けて振る手から、力が少しづつ抜けていく。
 ――ミサンガ……。
 手元の糸が入った紙袋を見て、もう一度ひなたくんを見た。
 そして。
「あの、ひなたくん!」
 その背中を呼び止めた。
 私の声に、ひなたくんが振り返る。
「んー? なにーっ!?」
 ひなたくんのまっすぐな眼差しに、緊張がぶり返す。私はきゅっと手を握って、勇気を振り絞った。
「あ、あの、ミサンガなんだけど……よかったら、べつべつじゃなくて放課後一緒に編まない?」
 勢いに乗せて言った。
「え? 一緒に?」
 恐る恐る顔を上げると、目を丸くするひなたくんがいた。
「……う、うん。あの、私ひとりだとやっぱり自信なくて……」
 そこまで言って、急に心細さが私を襲う。俯き、目をぎゅっと伏せた。
 急に周囲の音が大きくなったような気がした。
 言わなきゃよかったかも……。
 やっぱりなんでもない、と言いそうになったとき。タッタッタッと軽やかな足音が聞こえた。
 顔を上げると、すぐ目の前にひなたくんがいて、驚く間もなく強く肩を掴まれた。
「いいよっ! 一緒に編も!!」
 きらきらした顔がすぐ目の前にあって、驚く。
「……え、あ、ありがと……っていうか、ひなたくんなんでそんな嬉しそうなの?」
「え?」
 ひなたくんがきょとんとした顔で瞬きをする。ぱちぱち、と音が聞こえてくるようだった。
 ひなたくんは我に返ると、嬉しそうにはにかんだ。
「そりゃ、初めて愛来のほうから誘ってくれたんだもん! 嬉しいに決まってんじゃん!」
「……初めて?」
「うん!」
 その笑顔に、つられて私も笑う。
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
「そっか。でも、だからってちょっと大袈裟じゃない?」
「そんなことない! それじゃ明日、放課後一緒に作ろうな。ぜったいだからな!」
「うん」
「じゃ、今度こそまた明日。愛来」
「うん、また明日! ひなたくん」
 こうして、私たちは手を振って別れた。
 ひなたくんがとなりにいるだけで、ひなたくんの笑い声を聞くだけで、心にパッと火が灯っていくようだった。
 朝、学校に着いたら「おはよう」と言って、休み時間は他愛のない話をして。昼休みになったら、一緒にお弁当を食べて、おかずを交換したりして。
 放課後は、先生が見回りに来るまで教室で話していたりして。
 梅雨が明ける頃には、私はひなたくんだけでなく、クラスのみんなともふつうに話すようになっていた。
 ひなたくんといても、予知夢を見ないことが分かったからだ。
 二年になってから、私は、過去の予知夢を見たことはあれど、新たな予知夢は一度も見ていない。だれのことも不幸にしていない。
 そのことをひなたくんに話すと、それなら少しづつ友達を増やしていこう、と言われたのだ。
 そういうわけで、私は少しづつ、ひなたくんと仲が良かったクラスメイトたちとかかわるようになった。
 もともと人見知りというわけでもなかったから、すぐに仲良しの子ができた。
 特に一緒に過ごすようになったのは、羽山はやまさやかちゃんと、山野やまの野々花ののかちゃんという女子だ。さやかはショートカットで背が高い快活な女の子で、山ちゃんは長い髪をハーフアップにした美少女。
 ふたりとも素直で優しく、とてもいい子たちだ。
 ただ、同性の友達が増えたおかげで、私とひなたくんの間には、少しづつ距離ができていた。
 中間テストが終わったタイミングで席替えをしたせいで席も離れてしまったし、お昼は仲良くなったさやかや山ちゃんと食べるようになったから。
 ひなたくんと一緒にいられるのは、放課後ほんの少しの時間だけ。
 それでも、周りにひとが増えたおかげか、それともひなたくんとお揃いで作ったミサンガがあったからか、寂しくはなかった。
 このときの私はすっかり忘れていた。ひなたくんのとなりが期限付きであることを。
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