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やってきたのは、学校付近の公園だった。管理するひとがいないのか、雑草が伸び放題で公園とはいっても、遊具なんてベンチひとつしかない。これでは子供なんて寄り付かないだろう。
山内くんはベンチのすぐそばにある自動販売機へと歩いていく。
「……学校だと、いろんなひとがいるからさ。噂になってもいやだし」
と、少し言い訳めいた口調で山内くんは言った。
「飲み物、コーラでいい?」
「……あ、ありがとう」
山内くんは自動販売機でコーラとスプライトを買うと、コーラのほうを私に渡した。
「……で、御島さんはなにを隠してるの?」
私はコーラを受け取ると、両手で包むように握る。山内くんはベンチに座ると、缶を開けた。ぷしゅっと軽やかな音がする。
「……べつに、なにも隠してないよ。私はただ、今までどおりひとりでいたいだけ」
「どうして? 俺はもっと御島さんと仲良くなりたかったんだけど」
「……私は、なりたくない」
弱々しく言う私を、山内くんが覗き込む。
「だから、それはどうして? 君はなんでひとりがいいの? ……君は、なにが怖いの?」
優しく包み込むような言い方で言い、山内くんは私を見つめる。その声に、どうしようもなく胸が震えた。
「……だって、山内くん人気者だから、一緒にいるとどうしても目立つの。私なんて、ただ席が隣同士ってだけの地味なクラスメイトじゃん。もうかかわらないほうがいいよ。このままだと山内くんの評判にもかかわるかもしれないし」
そう言うと、山内くんは黙り込んだ。しばらく沈黙が続いて、そしてようやく、山内くんは口を開いた。
「……あのさ、間違ってたらごめん。でもそれ、違うよね?」
「え……」
「御島さんはきっと、ほかに俺と仲良くなりたくない理由があるんでしょ? 俺はそれを知りたい」
一瞬、ひやりとした。思わず顔を向けると、山内くんがこちらを見る気配がして、私は慌てて目を逸らした。
「……そんなのないよ」
「ないなら、仲良くしてよ」
「…………だから、それは」
目が泳ぐ。
「理由を教えてくれないなら、これからもかまうよ。俺は御島さんのこと好きだから」
「…………」
山内くんは、強い眼差しで私を見ていた。このままでは、とても引いてくれそうにない。
「教えて」
口調の強さからしても、教えるまで譲らなそうな気配を感じる。
「……教えたら、かかわらないでくれる?」
「……約束はできないけど、考えてはみる」
「…………分かった」
それからしばらく、沈黙が続いた。
山内くんは急かすことなく、私が口を開くのをずっと待ってくれている。
それでも言葉が出ないのは、たぶん、私がまだ、この期に及んで山内くんにきらわれることを恐れているから。
もし、私の体質を話したら、山内くんはどう思うだろう。
バカにしているのかと怒るだろうか。私のことを頭のおかしいひとだと思うだろうか。どちらにしろ、いい印象は持たれないだろう。だって、今から私が話す内容は、とても現実的な話ではない。
……もうかかわるのはよそうと、山内くんのほうから離れていくかもしれない。
――本当に、いいの?
心の中で、もうひとりのじぶんが叫ぶ。
きっと、こんな私を気にかけてくれるひとは、この先山内くん以外には現れないだろう。
もっと仲良くなりたかった。
一緒にいたかった。
……でも、それはできない。
優し過ぎる山内くんを納得させるには、遠ざけるには、やはり打ち明けるしかないのだろう。
覚悟を決めて、口を開いた。
「……前に私、言ったでしょ。自立したいからひとり暮らしを始めたって」
山内くんは、静かに頷く。
「でも、本当は違うの。自立したいからじゃない。……私はだれかといるとそのひとを不幸にしてしまうから、ひとりでいなきゃいけないの」
山内くんをまっすぐに見つめ、続ける。
「私、予知夢を見ることができるの」
「……予知夢?」
案の定、山内くんはぽかんとした顔で私を見た。汗が湧き出してくる手をぎゅっと握り込む。
「……予知夢って、現実に起こることを、夢で前もって見ちゃうやつ?」
「そう。私が見られるのは、大切なひとが巻き込まれる悪い夢だけだけどね」
山内くんは、信じられないものを見るような目で私を見た。
「だから、私は今までだれとも仲良くならないようにして、家族とも離れて過ごしてきた。みんなの悪い夢を見ないように」
呆然とする山内くんに、私はこれまで見た予知夢の内容について、さらに具体的に話した。
「……だから、山内くんとは仲良くできない。ごめんなさい。でも、山内くんにはなんの責任もないことだから、気にしないで」
ベンチの端に置いていたカバンを取り、立ち上がる。
「それじゃあ」
今までありがとう、と礼を言って立ち上がる。そのまま公園を出ようとしたら、
「待って」
と、手を掴まれた。
山内くんはベンチのすぐそばにある自動販売機へと歩いていく。
「……学校だと、いろんなひとがいるからさ。噂になってもいやだし」
と、少し言い訳めいた口調で山内くんは言った。
「飲み物、コーラでいい?」
「……あ、ありがとう」
山内くんは自動販売機でコーラとスプライトを買うと、コーラのほうを私に渡した。
「……で、御島さんはなにを隠してるの?」
私はコーラを受け取ると、両手で包むように握る。山内くんはベンチに座ると、缶を開けた。ぷしゅっと軽やかな音がする。
「……べつに、なにも隠してないよ。私はただ、今までどおりひとりでいたいだけ」
「どうして? 俺はもっと御島さんと仲良くなりたかったんだけど」
「……私は、なりたくない」
弱々しく言う私を、山内くんが覗き込む。
「だから、それはどうして? 君はなんでひとりがいいの? ……君は、なにが怖いの?」
優しく包み込むような言い方で言い、山内くんは私を見つめる。その声に、どうしようもなく胸が震えた。
「……だって、山内くん人気者だから、一緒にいるとどうしても目立つの。私なんて、ただ席が隣同士ってだけの地味なクラスメイトじゃん。もうかかわらないほうがいいよ。このままだと山内くんの評判にもかかわるかもしれないし」
そう言うと、山内くんは黙り込んだ。しばらく沈黙が続いて、そしてようやく、山内くんは口を開いた。
「……あのさ、間違ってたらごめん。でもそれ、違うよね?」
「え……」
「御島さんはきっと、ほかに俺と仲良くなりたくない理由があるんでしょ? 俺はそれを知りたい」
一瞬、ひやりとした。思わず顔を向けると、山内くんがこちらを見る気配がして、私は慌てて目を逸らした。
「……そんなのないよ」
「ないなら、仲良くしてよ」
「…………だから、それは」
目が泳ぐ。
「理由を教えてくれないなら、これからもかまうよ。俺は御島さんのこと好きだから」
「…………」
山内くんは、強い眼差しで私を見ていた。このままでは、とても引いてくれそうにない。
「教えて」
口調の強さからしても、教えるまで譲らなそうな気配を感じる。
「……教えたら、かかわらないでくれる?」
「……約束はできないけど、考えてはみる」
「…………分かった」
それからしばらく、沈黙が続いた。
山内くんは急かすことなく、私が口を開くのをずっと待ってくれている。
それでも言葉が出ないのは、たぶん、私がまだ、この期に及んで山内くんにきらわれることを恐れているから。
もし、私の体質を話したら、山内くんはどう思うだろう。
バカにしているのかと怒るだろうか。私のことを頭のおかしいひとだと思うだろうか。どちらにしろ、いい印象は持たれないだろう。だって、今から私が話す内容は、とても現実的な話ではない。
……もうかかわるのはよそうと、山内くんのほうから離れていくかもしれない。
――本当に、いいの?
心の中で、もうひとりのじぶんが叫ぶ。
きっと、こんな私を気にかけてくれるひとは、この先山内くん以外には現れないだろう。
もっと仲良くなりたかった。
一緒にいたかった。
……でも、それはできない。
優し過ぎる山内くんを納得させるには、遠ざけるには、やはり打ち明けるしかないのだろう。
覚悟を決めて、口を開いた。
「……前に私、言ったでしょ。自立したいからひとり暮らしを始めたって」
山内くんは、静かに頷く。
「でも、本当は違うの。自立したいからじゃない。……私はだれかといるとそのひとを不幸にしてしまうから、ひとりでいなきゃいけないの」
山内くんをまっすぐに見つめ、続ける。
「私、予知夢を見ることができるの」
「……予知夢?」
案の定、山内くんはぽかんとした顔で私を見た。汗が湧き出してくる手をぎゅっと握り込む。
「……予知夢って、現実に起こることを、夢で前もって見ちゃうやつ?」
「そう。私が見られるのは、大切なひとが巻き込まれる悪い夢だけだけどね」
山内くんは、信じられないものを見るような目で私を見た。
「だから、私は今までだれとも仲良くならないようにして、家族とも離れて過ごしてきた。みんなの悪い夢を見ないように」
呆然とする山内くんに、私はこれまで見た予知夢の内容について、さらに具体的に話した。
「……だから、山内くんとは仲良くできない。ごめんなさい。でも、山内くんにはなんの責任もないことだから、気にしないで」
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「待って」
と、手を掴まれた。
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