4 / 14
4
しおりを挟むそれからというもの、私はことあるごとに山内くんに話しかけられるようになった。
朝や休み時間、移動教室のときだけでなく、昼休みや放課後も。
昼休み、私はいつも自席でひとりでお弁当を食べている。
新学期が始まってからの山内くんは、仲のいい男子たちと騒ぎながら食べていたが、なぜだか最近は山内くんも自席に座って、ひとりで食べるようになった。
もしかして仲の良かった男子たちと距離を置いているのかと心配になったが、お弁当を食べながらも大きな声で会話をしたりしているから、ハブられたとかではないらしい。ただ、それぞれ自席で食べるようになっただけのようだ。
ほかの男子たちは、じぶんのお弁当が食べ終わると、ちょこちょこ山内くんのところへやってくる。そのため、私は自ずと山内くんの席へやってきたほかの男子たちと話す機会が増えていった。
山内くんは基本、私に疑問形で話を振ってくる。
「ねぇ、御島さんってさ、お弁当、いつもじぶんで作ってるの?」
「……うん、まぁ」
「ひとり暮らしなのにすごいよな。朝とか大変じゃない? あ、目覚まし何個かけてる? 俺はねぇ、四つ! でもぜんぜん起きれねぇ」
「お前は起きる気がなさすぎるんだよ。少し自覚しろ! ねぇ、御島さん?」
「そ、そうだね」
突然ほとんど話したことのない男子に話を振られ、私は慌ててこくんと頷く。
「えー御島さんって、ひとり暮らしなの?」
「すごーい」
「家事とか大変?」
「え? えっと……」
いつの間にか、私の周りには男女問わずたくさんのひとが集まってきていた。いろんなところから声が飛んできて、頭が真っ白になる。
そのときだった。
「うわ、それ美味そー!」
すっと、空気を切り裂くようにまっすぐな声が飛んできた。
顔を上げると、山内くんが私を見ている。
「ねぇ、御島さん。その卵焼きと俺の唐揚げ交換しない?」
一瞬、なにを言われたのか理解できなかった。
「御島さん?」
山内くんが、もう一度私の名前を呼ぶ。ハッとした。
「……あ、い、いいよ。申し訳ないし」
すると、山内くんは首を傾げた。
「もしかして、唐揚げきらい?」
「……いや、そうじゃないけど、でも唐揚げと卵焼きじゃ釣り合わないし……あ、ほら、オリンピックで言えば金と銅くらい違うと思うから」
すると、山内くんは一瞬きょとんとしてから、どっと笑った。びっくりして、私は山内くんを見つめたまま固まる。
「あははっ! なにそのたとえ! ウケるね、御島さん!」
「そ、そう……?」
「そうだよ! うちのお母さんさ、唐揚げを揚げるのだけはめちゃくちゃ上手いんだよ! ほら、食ってみ! 代わりに卵焼きもらうよ~」
「あっ……」
そう言って、山内くんは私のお弁当箱の蓋に唐揚げを置くと、素早く卵焼きを取った。そのまま、ぱくっと勢いよく頬張る。
私のお弁当から抜き取られた卵焼きが山内くんの口に入るその一瞬が、まるでスローモーションのように感じられた。
「取られた……」
思わず呟くと、山内くんが私を見た。
「え? あれ、もしかして、好物とかだった? うそ、マジごめん! このウインナーもあげるから許してよ! ごめんごめん」
途端に慌て出す山内くんに、私は思わずぷっと吹き出す。
「……え、え? なに?」
肩を揺らす私に、山内くんがきょとんとした顔をした。その顔がなんだかおかしくて、私はさらに笑いそうになるのをこらえる。
「え、ちょ、御島さん?」
そわそわする山内くんに、私は笑ったせいで溜まった涙を拭いながら言う。
「も、もしかして泣いてる……?」
涙を拭う仕草で勘違いしたのか、山内くんはさらにとんちんかんな誤解をしたようだった。
さすがに可哀想になって、私は弁明する。
「違う違う。こんなの、食べ飽きてるからいくらでも食べていいんだけど。ただ、さっきの山内くんがなんかおかしくて」
そう言うと、山内くんは一瞬きょとんとした顔をしてから、破顔した。
「うわー、なんだよ、驚かすなよ! やっちゃったかと思ったじゃん!」
安心したのか、山内くんはとびきり大きな声を出す。
「山内うるせぇ」
「焦ったんだから仕方ないだろー」
「ほらー、御島さんびっくりしちゃってるじゃん」
「ふふっ……ははっ」
「あっ、御島さんが笑った!」
「なんか新鮮~」
「だって、なんか山内くん面白くて……ふふっ」
いつの間にか、じぶんの唇から笑い声が漏れていて驚いた。
こんなふうに誰かと話していて笑うのは、いつぶりだろう。
不覚にもこのとき私は、学校生活が楽しい、なんて思ってしまった。
3
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
水やり当番 ~幼馴染嫌いの植物男子~
高見南純平
青春
植物の匂いを嗅ぐのが趣味の夕人は、幼馴染の日向とクラスのマドンナ夜風とよく一緒にいた。
夕人は誰とも交際する気はなかったが、三人を見ている他の生徒はそうは思っていない。
高校生の三角関係。
その結末は、甘酸っぱいとは限らない。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
【完結】眠り姫は夜を彷徨う
龍野ゆうき
青春
夜を支配する多数のグループが存在する治安の悪い街に、ふらりと現れる『掃除屋』の異名を持つ人物。悪行を阻止するその人物の正体は、実は『夢遊病』を患う少女だった?!
今夜も少女は己の知らぬところで夜な夜な街へと繰り出す。悪を殲滅する為に…
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる